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FINAL MASTER  作者: 飛上
ACT.10 血風の境界~Border~
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第08節

「っ・・・!?

どうしてそれを!?」


ガイナーとしてはカーラの洞察めいた言葉に、動揺を隠せぬものを露呈してしまわずにはいられなかった。


「ほほぅ・・・」


「ぁ・・・」

思わず漏らしてしまった言葉にカーラは口端を僅かに上げ、対してガイナーは慌てて口を噤ませる。

その様に目の前の老婆は小さく笑みを見せる。


「相変わらず人が悪いな。」

「なに・・・別に探りを入れさせてもらった、っていう話でもないさ。」

カーラはライサークの背後に立つ少年に向けて受け取った金貨を前に出す。

「この男がラクローンに赴いて奴らへの反抗勢力に加勢していたということは既に知り得たことだし、ここにいるということはある程度の収拾がついたということ。・・・でいいんだろ?」


「・・・そうだな。」


頷くカーラはそのまま金貨をカウンターにおいて、まだ頭では得心のいかない少年に見せる。


金貨には、羊の頭を模ったような彫りが施されていた。


ラウナローアの大半で使役される通貨‘ラルク’は、一般的に金、銀、銅、で出来た硬貨を使用する。

形状にそれほど大差はなく、それぞれが指で輪を作る状態よりも小さく造られている。

地域での違いを挙げてみると、硬貨の円状の面での彫りにある。

アファでは豊穣を祈願する麦の穂を、エルダーンでは魚を、トレイアではドラゴンを、そしてラクローンは国の紋様でもある羊の頭が彫り上げられている。


ライサークが所持していた金貨の彫りを見れば、ラクローンで主に流通されるものであるものであり、彼らがこれまでいた場所を暗に示していた。


ライサークもカーラに一部の報告を兼ねて、ラクローンでの金貨を手渡してみせていた。


「お前さんの動きというのはおいおい伺うとして・・・

そうだね。先ずは西の動きだが、今のところは大きな話は流れてきているわけではないんだが・・・」

敢えて回りくどい言い回しを行うカーラにライサークは訝りの目を向ける。

「どちらかというと曖昧過ぎて困っているという感じだね。

どうやら近いうちに大きな攻勢が行われるんじゃないか、という噂が流れている。」

「・・・出所は?」

「一人の傭兵がそう言って砦の長に伝えてほしいと言ったようだが、どうにも信憑性が薄いということであまり強く受け入れられていないって具合さ。」


「確かにそれだけ聞くと噂の域を越えないかもしれないが・・・」

「分かるかい?お前さんの話を加味させてしまえば、違う味の話が出てくるのかもしれないよ。」


「ライサーク、それって・・・?」

「噂の出どころはともかく、少しばかり信憑性があるのかも知れなくなった。ということだな。」


それらのやり取りを目の当たりにしていたガイナーとしてはただただ呆気に取られてしまっているというところが正直なところで、目の前に立つ傭兵の凄さを改めて感じ入る。


「ギルドとしてはどう動くつもりだ?」

「今のところは独自に人を集める、ということはするつもりは無いね。

少数ならともかく、下手に大勢を集めてしまうとたとえギルドであったとしても国家が黙っちゃいない。

こちらとしてもそういった面倒ごとはごめんだね。」

「それもそうだな。」

あくまで我々は傭兵であって一戦場を駆け抜けるだけのこと。

その認識はライサークとカーラは共通したものを有している。


「それを踏まえてこの国の情勢だが・・・

はっきり言って六侯家のいくつかの動きは慌ただしい。

丁度何件かの依頼が来てたりしているが、それでもこちらを通さずに依頼するところもあったりするからね。

あまりいい気はしないってところが本音さ。」


「六侯家が・・・なるほど。」

「ライサーク、どういうことなんだ?」


「・・・もうすぐ国王の選出が行われるってことさ。」

「国王の?」


アファの歴代の国王はラクローンのような一家の独占支配によるものとは異なる。

元々が共和政治を基本にあった国家の中で、国王は六侯と呼ばれる上位貴族の中から選出されるという稀有な制度を有している。

次代の国王の選出は現国王の後推しが最有力なものであることは第一ではあるが、一家独占を抑制するために、現国王の親族からは選出されることのないように取り決められ、残る五侯において候補が上げられ、過去に内々とはいえ熾烈な後継者争いが為されていたという歴史もある。


それらを耳にしたとき、ガイナーはふとこの国に訪れた時に同行した小さな少女のことを思わずにはいられなかった。


「それじゃリーザ・・・ファラージュは?」


「ファラージュに関しては今回の選出の範囲には含まれていないみたいだけどね。

何といっても歳があまりにも若すぎる上に、門地を継承してからまだ日が浅い。」

「・・・そうなんだ。」

「けど今のところは、という部分はどうしてもある。

理屈としては六候家である以上、王位継承権が無いわけではないからね。」


「王位・・・」

「ああ、ファラージュといえば・・・

つい最近にウェスタリアに向けて出発したよ。」

「っ!!?」


「別に珍しいものではないさ。

あくまでウェスタリアへの物資運搬を請け負ったということさ。

けど、いまやファラージュ侯となったばかりのお嬢様が行くということで、御自身のお立場というものをきちんと見定める上では必要なことさ。」


「・・・・・・」

ガイナーの懸念がここに来て一気に暗い方向に向けられていく。

たった今しがた、カーラからウェスタリアの状況を耳にしたばかりだっただけに。

「リーザ・・・」

少年としてはどこかファラージュの門地を継いだ少女が途轍もないほどの重責を担っているのではないかと考える。



「つまるところ、現王家のレーンハイム家とファラージュ以外の四つ。

それらが今のところレースにエントリーしているってところだね。

しかし今回は随分とキナ臭いものを感じてしまうのは・・・

我ながら歳をとり過ぎちまったのかもしれないねぇ。」

やや肩をすくめるカーラとしては貴族の在り方を嘲笑っているかのように見えた。


「・・・だいたいの状況は理解した。また何かあったら頼む。」

「ああ。かまわないよ。」



「まさかリーザがウェスタリアに向かっただなんて・・・」

ガイナーとしてはアファに戻った際にリーザを訪ね、ラクローンでの経緯を離すうえでアファの王家との取り次ぎを依頼できるのではないか。という考えがあるにはあった。

しかし、ここに至っては主不在のファラージュの邸宅を訪ねるわけにもいかず、ある意味途方に暮れてしまう心境ではあった。


「やむを得ないだろう。

この際は直接王宮に足を運ぶか、或いは・・・」

「ライサーク?」

「いや、以前に仕事での伝手を辿るという手がないではない。」

「ああ。」


二人はギルドの入り口付近まで戻ると、そこに本来待っているはずの者の姿はなく、二人は周囲を見回す。

「変だな。みんなどこに?」

「先に外に出ているのかも知れん。」

「・・・・・」


“ガイナー。”


「!!?」


直接頭の中から聞こえてくるような声に少年は足を速めながらギルドを出る。

ギルドの前にはガイナーを待っていたかのように、フィレルの姿があった。


「フィレル、みんなは?」

「やっと、戻ってきた。

ライムが突然走って行ってしまって、今カミルとエティエルが追いかけてる。」

「??

どういうことだ?」

今一つ要領を得ないガイナーの脳裏には疑問符がいくつも浮かばずにはいられず、怪訝な表情を見せてしまう。


「私にだってわからないわよ。

どもかく、こっち。」

そう言って二人を先導するようにフィレルはカミルたちが行ったであろう方向に駆けだし、二人もそれにつづいた。



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