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FINAL MASTER  作者: 飛上
ACT,02 樹海の遺産~Legacy~
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第01節

Act.02 樹海の遺産 ~Legacy~


メノアから旅立ち、アファを目指すガイナーとカミル。

その道中の広大なアファ平原を進む東には同様に広大なアファの樹海が存在する。

その樹海の中に踏み込むことになったガイナーとカミル、そしてリーザと名乗る少女。

未踏の樹海で待ち受けていたものは…


登場人物


ガイナー・・・17歳ライティン


メノアの少年。封印が解かれて、「世界が終わる」といった謎の言葉を聞いたことによりメノアを旅立つ。


カミルとともにアファに向かうのだが・・・




カミル・・・推定20歳ファーレル


記憶をなくした銀髪の青年。ガイナーと同様に謎の言葉をきいたことにより、ガイナーの旅に同行する。




リーザ(リーザライト・フォン・ファラージュ)・・・16歳ライティン


アファの宮廷魔導師を父に持つ少女。父を追いかけてアファの樹海を目指している。自身も魔法の修行に励んでいる。




ヴァイス(ヴァリサイヤー)・・・推定30歳


フリーの傭兵。ラウスに雇われて樹海に同行していた。




ラウス(マルキース・ラウス・フォン・ファラージュ)・・・56歳ライティン


アファの宮廷魔導師。古代の史跡や古文書を調べ上げているうちに、樹海に単身向かう。




パウロ・・・44歳ヴァリアス


マグニアから行商に訪れた男。ガイナーたちと馬車でアファ平原を進む。


潮風は穏やかに海面を揺らし、どこまでも果てのないとも思われる大海原にたゆたう波は朝日の穏やかな光を反射していた。それはまるで宝石をちりばめたかのように神秘的で優雅な輝きをみせていた。

その穏やかな雰囲気とは対照的に港は喧騒に包まれていた。朝日が昇ると同時に漁から還ってきた船が港に戻り始め、船いっぱいに積み込まれた今日の収穫の水揚げが行われている最中である。水揚げされた魚を求めて多くの人が港に集まりだしていた。そして水揚げのおこぼれを狙ってか海鳥の数もいつもよりも多く見かけられた。


港町エルザ、メノアからは大陸への玄関口とも言える港町である。主に漁港として栄え、ほぼ毎日のようにこの港で水揚げが行われている。それを求めて朝方の時間帯は普段はのんびりとした港町もそのときだけは大いににぎわう。町は南岸に港を構え、南北に宿場や商店街が立ち並ぶ大通りがあるつくりになっており、北のはずれからはアファへと続く街道の始発点として存在していた。

街並みの建物は大型建築などは石造りのものがあるが、一般の家屋等はメノア同様、木造が主で、木製の柱に石膏の壁を塗ったものが多い。

そんな港の喧騒の中、朝一番に離島からの定期船が碇を下ろしていた。すでに定期船からは積荷の荷卸しが始まっている。荷物が陸に上がるのと同様にその船に乗っていた二人の旅人もまたようやく船の上から陸に足をつけていた。

二人の旅人はいずれも男性で、一人は青年と呼ぶにはいま少し若く、まだ少年と呼ぶに足る容貌をしている。旅人がよく着用する厚手の布で織られた服に身を包み、収まりの悪い黒髪を軽く整えただけにとどめている。瞳も髪の毛と同じ色をしており、その若々しい輝きに満ちたそれはまさに黒真珠のようであった。少年の名はガイナー、大陸南端の離島でもあるメノア島からやってきた。

もう一人の青年の名はカミル。上半身には鉄板を薄く伸ばして貼り付けたプレートとよばれる軽甲冑を身に着け、誰もが振り向いてしまいそうな魅惑的な銀色の髪に、その髪にもひけを取らないほどの端正な顔立ちに、あつらえたかのような蒼い瞳を持つ青年であった。

二人に共通することは二人の腰にそれぞれ剣を帯びているということであろう。さらに銀髪の青年の背中には柄の長い剣を背負っていた。二人は数時間の船旅を終え、いままさに辺境から大陸に上がってきたばかりであった。


「ん~~~」

数時間とはいえ特に動くことなく、甲板で立ったままで固まってしまった身体に伸びを与え、身体の感覚を取り戻す。

「随分とにぎやかなんだね」

銀髪の青年にはこの港は初めてだったのだろう。港の喧騒に瞳を輝かせる。

「そうだな、この時間だと水揚げが行なわれているんだ」

もっとも、黒髪の少年もこの港に足を運ぶのは数えるほどでしかなかったのだが。水揚げの様子は何度か見たことがあった。

二人はそんな港の喧騒をあとに港のある区画を抜け、出店や飲食店が立ち並ぶ街中へと歩き始めていた。


「ここからどうするんだい?」

「そうだな、ここからアファへは歩いていくとなると軽く一週間以上はかかるだろうからな・・・

どうせなら街道馬車を利用したほうがいいかもな」

港町エルザからアファまではアファ平原を抜けていくことになる。アファまでは街道が設けられているが、その距離は歩いていくとなると軽く一週間はかかる、平原の途中には宿場は二箇所しか設けられておらず、当然ながらその道中で旅人達は野宿を余儀なくされてしまう。街道馬車を使うと3日にその行程を縮めることは出来る上に、常に宿場まで走ることが出来、宿に入って休むこともできるのである。

その他にも馬に乗っていくという手もあったのだが、メノアに厩舎はあったもののメノアでガイナーは馬に乗った経験がなかった。カミルにしても記憶がない以上、経験は定かではない。二人は街道馬車のほうを選ぶことにした。


街道馬車は町のはずれにある。利用者はそこで手続きを済ませ、3日間の馬車の旅を行う。

馬車は四頭立ての幌付きの馬車に定員が6人ほどで走る。6人といえば少ない感じがするが、その道中の食料の運搬、町から町への手紙等の郵便も同時に担っている。さらに、街道を抜ける以上、魔物との戦闘がないとも限らないため、常に5騎ほどの護衛がつきしたがうことになっている。もっともこの頃は魔物の数が増えている現状があるために、馬車の護衛に傭兵ギルドからも応援を呼ばれることもあった。


「二人だと1000ラルク、出発は明日の朝になるよ」

その言葉にガイナーは身体をこわばらせ、しばらくの間返答を躊躇した。この馬車代を払ってしまうと、旅立つときにジェノアから貰った路銀が一瞬にして底を尽きてしまうからだ。しばらく黙ったままでいたが、やがてガイナーは何もなさぬままその場を離れてしまった。


「まさか馬車代がこんなにかかるとは・・・」

ガイナーにとっては予想外だった、メノアからの定期便でさえ、一人あたり200ラルクで乗船できたのである。距離があるとはいえ、1000ラルクもの出費は考えられないことだった。

街道馬車はアファにおいては裕福な家系の使用するものであった。

この時代においては辺境においてはさほどの貧富の差も見受けられることはなかったものの、アファほどの中央都市に近付いていくにつれ、貧富の差は少なからず生じていた。


「あ、歩いていくのか・・・」

とてつもない距離であることを承知しているだけに気が遠くなる話だった。

「それも仕方ないよ。どのみちアファに行くわけだしね」

「それでいいのかよ・・」

カミルの楽観視はわずかにガイナーを苛立たせはしたが、ほかに手段がないのも事実なのでそのまま街の外に出ようとしたそのとき、意外な方向から手段が提示されてきた。


「お二人さん、アファへ行くのかい?」

街の外に向かって歩き出そうとしていた二人に向かって声をかけてくる人がいた。

声の主は街道馬車よりも小さいが二頭だての馬車に乗る商人風の中年といっていいくらいの男の姿だった。グレーの瞳をもち、年の頃はおそらく40を過ぎたほどの年齢だろう。髪の毛にはすでに白髪が混じっている。しかし、元の色が亜麻色に近かったのでそれほど目立つものでもなかったが、顔には歳相応のしわが目立つ。

「ああ、そうだけど」

見ず知らずであるが故に二人はしばし警戒の色を見せた。そんな二人の顔色も意に介さずに男は本題を切り出す。

「だったら、儂の馬車に乗っていくかい?」

意外なところからの意外な提案にガイナーは眼を丸くさせていた。

「!?

いいのですか?」

完全に行き詰っていたところに道が切り開かれたかのような心境だった。

「ああ、お二人さんさえよければな、まあその代わりといっちゃあ何だが・・・」

男は二人を見据えたあとに言葉を続けた。

「近頃物騒になってきているからね、もし魔物が現れたときにはお二人さんに頼みたいんだが」

要するに二人を自分の馬車に乗せていく代わりに道中に用心棒を引き受けて欲しいということだった。

この話にガイナーは二つ返事で承諾した。まさに渡りに船であったといえよう。

「おねがいします」

「それなら馬車に乗りなされ、もっとも荷台になってるだけのものだから、尻が痛くなるかも知れんがの!」

男はしわを一層増やしながら笑みを見せながらも二人を荷台に乗るように促した。その言葉に従い二人は馬車の荷台に乗り込んだ。

「俺はメノアのガイナー、こっちはカミル」

「ほほぅ、メノアから。儂はマグニアのパウロじゃ」

「マグニア?」

ガイナーにとっては初めて耳にする地名だった。ガイナーの疑問にパウロは続けた。

「マグニアはトレイアにある街じゃよ。もともとエルザとは古くから交易があったんでな。今回はアファまでこいつを売りに出かけるのじゃよ」

そういってパウロと名乗った男は馬車を指差した。馬車の荷台の中には大きな壷が6つほど置かれていた。だが、その中身を聞く前に別の言葉に反応した青年がいた。

「トレイア・・・」

カミルの中でその言葉が記憶の中のどこかに引っかかるような感じがした。

「なんだろう・・・?

何か気になる言葉だけど・・」

「カミル?もしかして記憶の手がかりが?」

「いや、わからない。でもなぜか気になったんだ」


「まぁともかくじゃ、そろそろ出発しようか」

カミルの思考をよそに、出発を促し、そこで二人は頷いた。それを確認すると、パウロと名乗った男は手綱を振った。

パウロの一声で馬達は馬車の車輪を回し始めた。



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