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FINAL MASTER  作者: 飛上
Act,09 戦禍の再会~Again~
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第16節

「陸地を視認!!」

その声に船の至るところで歓声がこだまする。

夜が明けて再び船は動き出して丸一日が経った。その日は明け方から海上をうっすらと南方からの風によって生じた霧によって覆われていた。辛うじて視界をある程度は保つことが出来ていたことから、船はようやく見え始めたラクローンの陸地の光を目指して進んでいく。

「あれがラクローン。」

「ええ、現存するライティンの興した中で一番古い国です。」

船の中ではすでに接岸、上陸準備に慌ただしく動き始めている。

そんな中にあってカミルは後僅かの距離にあるとはいえまだ踏み入れぬ地に思いを馳せる。

「ガイナー・・・」

「カミル、お聞きしたいのですが、あなたと別行動をとっている方というのはどこにおられるのかわかってはいるのですか?」

「それは・・・」

返答に困難を極めたのか、わずかに眉が下がる。

その表情を見てアルティースは溜め息交じりに状況を理解した。


カミルは剣技においては常人離れの卓越したものを有してはいるものの、話を聞く限りこれまでのことを一切覚えていない故なのか、一般的な知識といったものはやや欠落している部分も見受けられてしまう。

そのあたりは傍にいる少女においても然り。

「そのあたりは私が。ラクローンにもギルドは存在します。そこから当たってみることにしましょう。」

「助かるよ。」

「いえ、お気になさらずに。」

これも自身の興味の範疇である。と言葉に出そうなところをアルティースは止めた。

そもそもカミルの旅路と、自己の探索を合わせた目的としての旅の動向であったのだ。この辺りに気を配るのも役割の一つでもあるのだろうと、アルティースは思慮していた。

そしてこれが今のカミルにしてあげられる最後の行いだという事も。


「逆帆して行き足を止めろ!!」

ヘクターの号令の下、船は一番大きな船を係留させる入り江に接岸し、その巨体は動きを止めていく。

「よしっ、てめぇら!すぐに上陸準備にかかれ!」

帆を動かし続けた乗組員たちもヘクターの声に皆一仕事やり終えた後にもかかわらず、歓喜に満ちた様相でそれぞれ動いていく。

「ありがとうヘクター。」

「いや、こちらこそだ。

またいつでも俺たちを頼ってくれて構わねぇぜ。」

「うん。その時は。」


「ロミア~っ!!」

カミルの傍らにいた少女は近くにいたロミアに向かって駆け寄り、そのままの勢いで抱き着くと、ロミアもまたライムを抱擁で返す。

「元気でね、ライム。またどこかで会いましょう。」

「うん。」

「それと・・・

それまで、カミルともっといい感じになっていなさいね。」

「―――――ッ!!!」

耳元で小さくささやかれた言葉にライムの頬は一気に紅潮した。

それを隠すようにフードを目深に被らせると、ライムは舷門から舷梯が架かる前に船から飛び降りていってしまった。

「え?ライム。」

「あらあら~~」

ライムの行動に目を丸くしてしまうカミルと、頬を緩ませながら見守るロミア。

「おいおい、気が早えぇな!!」

やや慌てた様子で舷梯を架けさせると、少女を追いかけてカミルは上陸する。



一人先んじて降り立ったライムではあったが、未だにロミアの言葉が耳に残ったままで頬の熱が冷めやらぬままだった。

それでも少し冷たく感じられる海風で、フードからこぼれた髪を靡かせていると漸く降り立ったカミルが少女のもとに歩み寄ってきた。

「駄目だよライム!!

危ないから勝手に跳び下りたりなんかしては!!」

「平気だよ。」

頬が熱さを覚ますことが出来たライムは銀髪の青年に視線を向けて満面の笑みが浮かべる。

「あ・・・」

船を入り江に接岸していたころから港には既にこの港の人間すべてが集まっているのではないかと思わせるほどの人だかりが船を中心にして存在しているのを、今頃になってカミルたちは気づく。

先に降り立った二人を稀有な眼差しで見つめる港に集まる人々に、ライムは僅かに後退りし、カミルもライムを庇うように身を乗り出して動向を探る。


「船長。とんでもねぇ人だかりだ。あの二人に目が行ってしまっている。」

シュラウドを伝って降りてくる船員がヘクターに呆れたように報告する。

「ま、無理もないわな。」

ヘクターもそりゃそうだ。と言わんばかりに眉を動かすと、港に集まる人だかりに向けて声を張り上げる。

「ごきげんよう、ラクローンの皆々。」


その言葉に先に船を降りた二人から船上の男に衆目が集まる。そして、次の言葉にラクローンの人々は息を呑む。

「俺たちはトレイアからやってきた!!」


ヘクターの言葉は港に集まる者たちの驚愕の表情を生じさせるに十分なものではあった。

これまでラクローンはどこからも船が辿り着くことはなく、どの船も出ては戻ってくることはなかった。

しかし、目の前の巨大な船は外洋から現れ、港に接岸している。

「トレイアからと言っていたが、この海域には海竜がいた筈だ。」

あまりにも信じ難い事実に、港に集まる聴衆の一人がヘクターに疑問を投げかける。

それに合わせて、それが至極当然のことだと皆が一斉に同意を示さんと頷く者、そうだと言わんばかりに声を荒げる者が怒涛の如くひしめき合う。

ヘクターは押しとどめるように手で制した後、ある程度の落ち着きを取り戻してから言葉を続ける。

「皆の言いたいことはよくわかっているつもりだ。

確かに俺たちは多くの魔物に襲われながらの航海でこの地にやってきた。

だが、海竜に手を出したわけじゃねぇ。

逆に手を出さずにいたからこそ俺たちはここに来ることが出来たといいてもいいだろう。」


「「「!!!??」」」


多くのものが言葉を失った。

これまで海竜に襲われたから船が尽く沈められ、海へと投げ出されてしまえば魔物の餌食となり、よしんばその場をしのげたとしても、ラクローンの冷たい海に一日として体力を保つことは出来ない。

ずっと言われつづけてきて、船は既に誰も出そうとは思うものはいなくなってしまっていた。


海竜が現れることによって海路が絶望的な状況にあったラクローンに突如として外洋船があらわれたことには理由がある。

その要因の最たるものとして挙がるのはその船に乗っていた銀髪碧眼の青年剣士に連れ添われた緑色の髪の少女であったことは想像するに易しいことなのかもしれない。

無論、そのあたりをヘクターから口に出すことはなく、ただ魔物の襲撃を掻い潜り、海竜と敵対することなくやり過ごせたから辿り着いたと声高に語った。


「それよりもだ。

荷揚げを澄ましたらまた集まってきてくれ!!

俺たちはトレイアからの名産品を大量に用意してきた。

なるべく多くの者と取引がしたいが、どうしても品物は有限だ。

こればっかりは早いもの勝ちってことになっちまう。」


その声に港で商いを行う者たちは大きく動き出す。

皆が皆、ヘクターの船に積まれた品物を買い付けるために、自らの店に一度戻って支度を整えようと一斉に散っていく。


「みんな私たちに注意が向いたみたいね。」

「そうだな。これでカミルや嬢ちゃんたちに数奇の目が向けられることも少なくなるだろうよ。

さて・・・忙しくなるぜ。俺たちは俺たちの商売をはじめようじゃねぇか。」

「おう。」



それからのラクローンの港は突如として活気を取り戻したかのように人で沸き返っていく。

喧騒が深まる中を抜けて、アルティースは石造りの建物を目指し、その扉を開けた。

普段は夜の営みを主とする建物の中にはいくつかのテーブルと椅子、そしてカウンターが置かれている。カウンターの奥には数多くの瓶とグラス、地面には樽を寝かせた状態で置かれており、その場は強めのアルコール臭が強く残り香として漂っていた。

「悪いが、今日は開けてはいなんだがな。」

時間外の来訪者に酒場の主はそっけない態度を見せていた。

歳の程は30代をとうに過ぎているのか、頭髪は綺麗に剃り上げており、地肌が露になっている。そして目の下に大きな傷痕がある強面の男がカウンターではなく、普段は客用のテーブルの前で腰を落としながらエールの入ったジョッキを手にしていた。

そんな強面であっても、普段通りであれば店に入ってくる者に対しては愛想良く迎え入れるものなのだが、今日に至ってはその表情はあまりいいものとは言えない。

「注文は酒ではありません。」

酒場の主ドルクの姿を捉えたアルティースはそのまま主の立つテーブルの前に立つ。

「ほぅ、酒でもねぇ、唄うことでもねぇ・・・

となると吟遊詩人殿はここに何の用だい?」

「人を探してもらいたいのです。」

討伐や、護衛といった依頼だけが傭兵の領分というわけではない。

斥候や索敵という仕事もある以上、人探しや、取捨物の探索も依頼としては存在する。

アルティースが傭兵ギルドを併設するこの酒場を訪ねることは的外れなことではない。

「人・・・ね。このラクローンはアファと並ぶ都市だ。

そんな中から人探しとなると容易なことではない。そうなってくると高くつくぞ。」

「そうですね。確かに、普通に探していると何年かかるかわかりませんね。

しかし、最近南方からやってきた旅人と限定すればある程度は絞れるのでは?」

「――!?」

アルティースの言葉を聞いてドルクは一度ジョッキを持つ手を止めるも、すぐにエールを一気に飲み干していく。

「南方ね。たしかにここ最近に絞れば特定はしやすいな。」

「では・・・」

「・・・・

いいだろう。話してみな。」


ドルクの了承を得たことでアルティースは依頼すべき内容を伝え始める。

その時、後ろの扉が開くのを気づかずにいた。


「・・・名はガイナー。メノアのガイナーといいます。」

「お前は今、ガイナーと言ったみたいだが、どこでその名を知った!?」

「・・・っ!?」

アルティースの背後にいつの間にか別の男が立っていた。

先ほどまで全く気配がなかったことにアルティースは目を見開く。

下手をすれば気づかぬままに、一刀のごとくにされてしまうのではないかとも思わせるほどの気配に戦慄を覚えていた。

「わ、私は・・・」

「ん?お前がなぜここにいる?」

「っ!?」

お互いの声にどこかしら聞き覚えのあるものであるという認識を得たのか、これまでの鋭い殺気のような気配は次第に薄れていく。

それを感じ取ってから背後に思わず振り返り、姿を見定める。

立っていたのは黒髪で屈強な体躯の青年であり、何よりも特徴的な血のような赤い瞳を有していた。

「まさか、あなたと会うことになろうとは思いませんでした。ライサーク。」

かつて、アルティースは目の前の赤眼の傭兵ライサークを護衛として雇った経緯がある。

大陸の南端部で出会った二人が、今まさに北端部において再開するのは奇妙な縁と呼んでも差し支えないであろう。

「ほぅ・・・この兄さんとは知り合いだったのか?」

二人のやり取りに、ドルクも立ち上がって間に入る。

「以前の依頼人だ。」

「なるほど・・・」

「それで、なぜお前がガイナーを探している?」

「そうですね・・・」

突然の訪問者に少し驚かされることはあるも、アルティースはガイナーという者を探す経緯を二人に話し始めた。


「なるほど。カミル・・・あいつもここに来たということか。」

「その言い方を聞くに、あなたはガイナーだけでなく、カミルも存じておられるという事で・・・?」

思わず口にしてしまった言葉を、足元を掬うような形で拾われたライサークは、眉をわずかに動かしながら、小さく舌打ちを鳴らす。

「・・・言葉の通りだ。」

「では今何処にいるという事も?」

傭兵は小さく首肯する。

「それなら話は早い。あなたにご依頼申し上げる。カミルをガイナーのもとに案内してあげられますか?」

その仕草にアルティースは口端を上げながら依頼を告げる。


「わかった。

ガイナーはこの都市の第さ3区画の門前で落ち合うことになっている。」

「ありがとうございます。それでは私はカミルに伝えてくることにしましょう。」

先ほどまでのやや強張った表情とは異なり、喜色を含ませながら酒場をあとにする。


「・・・いいのか?」

「あれの状態からすれば、今は必要なものでもある。ある意味、僥倖と言ってもいいくらいだ。」

「そうかい。

・・・それで?」

「ああ、ドルク、お前に頼んでおきたいことがある。」

本来待っていた客人を漸く迎え入れ、酒場は扉を閉ざす。

ライサークがこの場をあとにするのは既に夕刻を回るほどの時間帯であった。


天頂にあった太陽は徐々に西へと移り行き、空気にわずかばかりに冷気を帯び始めるころ、銀髪の青年は城の郊外、都市の外縁を目指して歩いている。

その傍らにはフードを目深に被ったままの少女も青年の後に続いていたのだが、一緒に付いてきているというところが、どうにも頭から抜け落ちているかのようで、どこか足取りを弾ませているかのような、期待感と焦燥感をごちゃ混ぜにしたような感情を持ちながらもずんずんと進んでいく。

少女のことを気に留めていないわけではないのだが、どうしても少女との歩幅が時折は離れ、少女がやや駆け足気味になったりとすることが、道中に二度三度ではなかった。

少女は青年に置いて行かれてしまう感じは今のところはないものの、これほど無心に歩いていく青年を見たのは初めてのことで、どこか複雑な気持ちを有している部分もあったりする。

巨大な城の門をくぐりぬけたその先に、青年が再会することを望んでやまなかった黒髪の少年の姿を捉えたとき、青年の表情はこれまでにないくらいの表情をあらわしていたことであろう。

旧知の仲、というほどに時間を共有していたわけではないにせよ、これまで離れていた時間はとてつもないほどに長い時間をかけていたかのようにも二人には思えていた。

実際のところは半年と経たずしての再会ではあったのだが。

こうして黒髪の少年、ガイナーと銀髪の青年カミルはラクローンの地で再会を果たす。


そしてそれは新たな旅路への第一歩でもあり、これまで以上に過酷な道へと進みゆくことへとつながっていくことの通過点に過ぎない。


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