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FINAL MASTER  作者: 飛上
Act,09 戦禍の再会~Again~
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第11節

空に輝き続けていた星空はやがて船の背後より白み始めてゆき、昇りくる巨大な光を前に徐々に存在を失い始めようとしていた。

この日はこれまでとは異なり、肌寒さが際立つような気温に包まれていた。

北の海特有の荒い潮の流れとともに冷たい空気が押し寄せてくることに起因するものではあるが、それは徐々にラクローンの地に近づきつつあるという証左でもあるだろう。

既に海竜が襲い来るであろうと言われている海域に侵入しつつある。

船の乗組員の全てが緊張に神経を過敏にさせている空気が漂わせている。

そんな中、甲板にはすでに銀色の髪の青年が立ち、その青い瞳は明けゆく空をじっと見据えていた。


「クシュン…」

「!?」

不意に聞こえてきた小さなくしゃみに青年は振り向き、緑色の髪の少女の姿を捉える。

少女は気づかれぬように近づこうとしていたことをくじいてしまったのか、はにかんだ面持ちを見せていた。

「おはよう。よく眠れたかい?」

「うん…」

小さく鼻をすするしぐさを見せながら答えた少女ではあったが、少し気だるげな面持ちが目立つ。

「…ライム?」

「ほんとはね、あまり眠れないの。

なんだか胸がざわざわしているようで…」

ライムが小さい身震いを繰り返すのも、肌寒い空気からもあったのかもしれない。

だがこの時はきっと船全体が纏っているかのような、張り詰めた空気を感じ取っているのだろう。

カミルもライムに近づいて名前の通りの鮮やかな緑の髪を優しくそっとなでる。

「ぁ…」

「大丈夫さ。そんなに心配いらない。」

「カミル…」

カミルとて、根拠のない言であることは承知している。

しかし、それでもライムに言うのはそこに希望めいたものをお互いが手にしたいがためでもある。

たとえ根拠のないものであったとしても、ライムにとっては今カミルの傍にいる。

それだけで十分なものであったともいえる。

故にカミルの行動にそっと目を細めていた。


「お二人とも早いですね。」

それから程なくして、アルティースも甲板に上がってきていた。

「アルティースおはよう。」

「おはようございます。ライム。

!!…お二人とも後ろを見てみてください。」

「え?」

アルティースが船の進むほうの逆を指差すと、そこからは巨大な暁星が今まさに全貌をあらわさんとしていた。

「うわぁ…きれい…」

昇りゆく陽の光を前に少女の目は同等の輝きを見せてはいた。

しかし、背後から感じ取った気配にその表情を唐突に曇らせてゆく。

「!?

…ぁぁ…」

「!?

ライム…?」

「どうしました?」

「大きな気配…ううん、ものすごい数の気配が船に近づいてくる…」

「っ!!?」

ライムの感知に二人は未だ闇の残る海向こうに目を向けなおす。

距離にしてはまだあるにしても、おびただしいまでの魔物の気配を二人とも感じ取ることができた。

「ここまでの気配が…」

「ともかく、皆を起こさないと。」

それから朝の静けさは一転していく。


「どうやら出くわしちまったようだな…」

カミルたちの声に甲板に出たヘクターであったが、どこかこの事態を周知しているかのような様子でいた。

「では、はじめからこうなると?」

「まぁな。どのみちこうなることは折り込み済みだってことだ。今更ジタバタする気もねぇよ。」

「長、このまま引き返しますか?」

「それも今更だろう。それに…」

そう言いながら、船長はこの船の客人に目を向ける。

「ここで引き返すほうが客人に失礼ってものよ。」

「…ですね。」

「さてゼータ、クルーを全員起こせ。戦闘態勢だ!」

「承知。」

「ここからが本番だ。まさに俺たちの本領発揮っていうやつだ。」

その表情は無自覚だったのか、にわかにうっすらと口端をあげている。

「本領発揮?」

「ああ、言ったろ!?

少々訳ありだって。」

「・・・・・」

それからの船の動き、人員の動きは機敏なものだった。

もはや一国の軍隊を思わせるようなものだとも見て取るものもいる。


「さすがに簡単にはいかなかったわね。」

「そりゃな…

こうなったら見てみようじゃねぇか。“ラクローン海域の災厄”ってものをよ。」

不敵な笑みがこぼれながらもヘクターは船員たちに的確に指示を送る。


「あれを見ろ!!」

「っ!!??」

マストの上から進行方向を見張るクルーからの声により皆一斉に船首側に目を向ける。

既に海面にいくつものうねりを生み出しながら押し寄せてくる魔物の集団の姿が視認できていた。

「すごい数だ…」

「ヘヘヘ…こりゃぁ嬢ちゃんの手柄はそうとう大きいぜ。」

ヘクターはライムに向けて満面の笑みを向ける。

事実、ライムが気配を察知するのが早かったことで、船での戦闘態勢はほぼ万全の状態になりつつあったことがヘクターの中では大きなものであるという認識があった。

「さぁ~て、盛大にいくとするか!!

取り舵!!!」

「サー!!!」

既に眼前に迫る驚異の中、ヘクターの最初の支持は敵に側面を見せる指示だった。

「ヘクター、何を!?」

「まぁ見てろ!

バリスタ用意!!」

船が迫りくる魔物の集団に側面を見せると、舷側に備え付けられたいくつもの小さな門が開かれる。

「ぶちかませ!!!!」

号令一発、矢と呼ぶにはあまりにも大きく、寧ろ槍に等しい巨大な矢の雨が迫りくる魔物に向けて弦を激しく叩きつける乾いた音とともに飛び出してゆく。

矢は魔物の先頭を射抜くと、同時に激しい轟音と閃光を解き放つ。

その勢いは魔物の一部を海上高く舞い踊らせ、直撃を受けた魔物は原形を留めることなく四散する。

「よっしゃ!!!」

「すごーい…」

「これは、ただの矢ではありませんね。

あれはまさか…魔石!?」

「ハッ…ご明察だ。

あの矢にはな、雷撃系の魔石を埋め込んでいるのさ。

勢いよくぶっ飛ばして、刺さった拍子にドカンってなるわけよ。」

そう言ってヘクターは鼻を鳴らすも、次の一手を見極めるべく海面に目を向ける。

「まだだ…」

最初の一撃で先頭の集団を屠りはしたものの、押し寄せてくる勢いそのままに留まることなく迫ってくる。

「ここだ!!!」

再びヘクターの号令により、右舷をさらしたままの船は大きく舵を切り、船の進む速さを維持したまま反転してゆく。

船は大きく傾斜するも、転覆することなく今度は左舷を魔物の集団に晒すと、同様に砲門が開かれ再び巨大な矢を次々と飛ばしてゆく。

魔物に飛来する矢は今度も魔物に突き刺さると激しい閃光とともに多くの魔物を四散させていった。

「近づくやつらをやってしまえ!!」

屠り損ねた魔物が船に肉迫するも、船員たちが射掛ける弓と銛の応酬にあい血飛沫を撒き散らして海を染める。

それでもそれらを搔い潜ってきた巨大な魚を模した魔物が海面から跳ね上がり、甲板に立つ者たちに向けて牙を向けてきたとき、銀髪の青年はすでに抜いていた剣を一閃させ魔物を両断していた。

「お見事です。」

しかし、魔物の数はまだまだ衰えを見せることなく、時折船に大きな衝撃を受けて船体が大きく揺さぶられる。

「「うわぁ!!!」」

衝撃に耐えきれず、足元を揺さぶられてその場で転倒する者たちもあり、そのうちの何人かが、そのまま海へと放り出されてしまっていた。

「クソッ!!やってくれたな。」

近くにいた水夫から受け取った槍を手に、ゼータは海中にて船を襲う魔物の姿を捉え、それめがけて勢いよく投げ放つ。

槍は魔物の胴体に突き刺さると、魔物は海中でのたうち回ることで海面に朱を掻き混ぜていく。

「船長っ!!まだくるっ!!!」

「っ!?」

悲鳴にも似た見張りからの声に間を置くこともなく、再び船体に衝撃が走る。

あまりにも強い衝撃に、船の内側から悲痛さを伺わせる軋んだ音が響き渡ってきた。

「キャッ!!」

更にその衝撃でバランスを崩されてしまい、ロミアはそのまま床にたたきつけられてしまっていた。

「ロミア!!」

すぐさま駆け寄るライムに抱き起されて姿勢を直す。

「…大丈夫?」

「ええ…少し油断したわ。」

ロミアは平静を保つも、打ち付けてしまった身体へのダメージが残るのか、わずかに苦悶の表情は消せずにいた。

「チッ、しつけぇな…」

これまである程度の余裕の表情を見せていたヘクターであったが、ここにきて苦虫を嚙み潰したような表情を見せるようになってきていた。

そしてそれは、これまでとは異なる決断を下すための覚悟でもあった。

「…ゼータ、いつでも火を入れれるようにしておいてくれ。」

「!?

よろしいので?」

「このままじゃジリ貧だ…しかたねぇ。」

「…承知。」


一方でこの商況に対し憤りを覚えながらも、一つの決意を持ったものがいる。

「カミル、お願いがあります。

しばらく私に魔物を近づけないようにしてもらますか?」

「アルティース?

うん…わかった。」

カミルの首肯を確認して、アルティースは右手を天高く振り上げると、静かに目を閉じて言葉にできぬ文言を呟き始める。

カミルはアルティースに近づかせぬように周囲を警戒しつつも、徐々に膨らみ始めた巨大な魔力を感じ取っていた。

「「!!?」」

「何だ?」

甲板に立つ者たちが吟遊詩人の纏う魔力を感知した時、既に右手には魔力が凝縮されたような冷たい光の球が浮かび上がっていた。

やがて、目を開けたアルティースは海上の魔物の集団に右手をかざすと、魔力の光はそのまま巨大な鳥の姿を模り始めていく。

「吹き荒べ!!

フレースヴェルグ!!!!」

アルティースの手から放たれた鳥を模した魔力は飛矢にも勝る速度で飛び立っていと、海面は瞬く間に凍てつかせ、更に無数の氷柱が海面より突きあがってゆくと、それらは魔物の胴体を幾重にも貫いてゆき、或いは氷の中へと閉じ込めていった。

「すげぇ…」

「何だ、あの魔法は!?」

「アルティースすごい…」

吟遊詩人の放った魔法は、これまでにないほどの昂りを船全体に与えていた。

反面、どこか脱力めいた感じを見せる者もいる。

「ハハ…こいつは参った。

まさか、これほどの上位魔法を拝ませてもらえるとはな。」

ヘクターは僅かに自嘲めいた笑みを見せながら様子を伺う。

魔物はもはや集団とは呼べぬほどに散り散りになっていた。

「よし、なんとか凌ぎきった…「まだ…」

…っ!!??」

不意に意表を突かれたヘクターは、言葉を遮った緑の髪の少女に目を向ける。

少女の視線は魔物のいた海の更に先に向けられていた。

「近づいてくる。」

「何だって?」

「さっきまでのようなものじゃない。

もっと大きな何か…」


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