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FINAL MASTER  作者: 飛上
Act,09 戦禍の再会~Again~
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第06節

「おい、海が見えてきたぞ。」

「わぁ…」

あれから四日が経ち、漸く一行は海の見える地域にまで辿り着く。

陸地の奥に存在する奥深い青は一層ライムの目を輝かせ、胸を掻き立てさせるに十分なものである。

間近で見ていたカミルもライムの心躍る様子を見ていると、不意にカミルの口の端が緩ませる。

「もう少しだな。あの岬の向こうに俺達の船がある。」

ヘクターの指し示す方角にあるのは、岬にかけて切り立った断崖が並んだ地形が続いている。

「では、この先に船があるというのですか?」

「ああ、その通りだ。

まぁ少々訳ありでな。」

「失礼ながら、ソルビナの人からはトレイアの北方には、浅瀬も多く、波も不安定でとても船を泊める場所が無いことから集落の存在は無いと聞きましたが。」

「ほぉ、よく知っているな。

たしかにあまり人気の多いところではない。実際この先に集落というようなものは何一つないことは事実だしな。」

「そうですか。」

あまり込み入ったことを聞くべきではないと判断したのか、アルティースはこれ以上の言及を控えることにした。

「まぁだからこそ、船を隠し泊めておくことも出来るってわけではある。

その辺は着いてからのお楽しみってことにしようや。」

そう言ってヘクターは口端をあげる。

「・・・・・」


岬を抜けてしばらくすると、断崖の中央に洞窟というにはあまりにも巨大な穴が存在している。かなり奥まったものなのか、今の位置からでは奥行きを測れるものではなかった。

しかし人工的に作られたというものではなく、おそらく長い年月をかけて削られていったものではあるのだろうとアルティースは見ていた。

洞窟に近付くにつれ、ヘクターのいう船が幾重にもロープで繋がれてその穴の中にすっぽりと納まる形で停泊していた。

「すごい…」

「かなり奥まった地形ですね。こんなところに船があるなんて…」

アルティースとしては、見る限り浅瀬も多く、潮の流れも早く不安定で波も高いような位置に船を泊めて置くという事自体が到底信じられるものではない。

「少し回り道になっちまうが、あの奥から下に降りられる。付いてきてくれ。」

ヘクターは船を迂回する形で進んで行き、やや勾配はあれども断崖に沿って板を張って造られた道を下り、船の目の前に辿り着く。

「さあ、着いたぜ。ここが俺達の拠点としている所さ。」

「これ程の規模とは…」

ここに来て漸くこの場所の全貌が見え始めてきた。

洞窟内に大型の船舶が一隻存在し、あとは小さい船を何艘か係留した状態でおいてある。

船を中心として幾つかの建物も洞窟内外にいくつか存在している。

ヘクターはこの先に集落らしきものは無いといってはいたが、あくまで自己の拠点とすることを除くという意味でのことであったのだとアルティースは驚愕と共に理解した。


「頭だ。」

「おーい、お頭が帰ってきたぞー!!!」

入り江で見張りを努めていた数人の男が一行の姿を確認して声を張り上げる。

その声に呼応して、水夫らしき容姿の男達がヘクターを出迎えるべく、近くにいた者達が駆け寄ってくる。

「頭、お帰りなさい。」

「おう、今戻ったぜ。」

水夫達の言葉の一端に、アルティースは不意に眉をあげる。

「頭?

ヘクター、あなたは…」

「ああ…

言っていなかったが、俺はこの船の長を務めている。」

「そうだったんですね。」

「大きな船だね。僕もこんな船は見るのは初めてだ。」


「気に入ったかい。

なら、あんた達はこいつに乗っていくってことでいいよな?」

「え?」

不意に投げかけてくるヘクターの言葉にカミルは目を丸くする。

「まぁ俺が頼んだっていうところもあるかも知れねぇだろうが、“船”があるという事でお前さんの目が変わったみたいなんでな。」

「ヘクター…」

「どうだい?」

「うん。別に隠しているわけでもないから言うけど。

僕たちには向かいたい場所があるんだ。」

「なるほど…」

カミルの言葉に一度相槌を入れてあと、ヘクターは近くにいた水夫に声を掛ける。

「おい、船の様子はどうなっている?」

「へい、修復はほぼ終了しました。あとはお頭が戻るのを待っていたってもんでさ。」

「そうかい、ご苦労さん。」

頭であるヘクターの前に集う者達は、そのままカミルたちの姿を見て再び頭に顔を向ける。

「あの頭…「あら、お客さんだなんて珍しいわね。」この方達は…?」


「ん?」

カミルたちを訪ねる矢先に割って入ってきたような声に皆、声のするほうに皆が顔を向くとそこに立っていたのは若い女性の姿を捉える。

整った顔立ちの中に濃い茶色の瞳を輝かせ、赤み掛かった長い髪は後ろ手に束ねてあり、周りの水夫達にも劣らぬ背丈に薄手の布地の着衣を纏い、胸元、脚、首元と肌を露出したもので、体の曲線がくっきりと映し出されている。

カミルたちには女性の姿は、水夫達の間にいることがどこか浮いてしまっているかのように見えていた。

「よおロミア。」

「「ロミアの姐さん。」」

皆がロミアと呼ぶ女性はカミルたちの前に立つ。

「君は…?」

「私はロミア。この船のクルーの一人よ。」

「そうなんだね。僕はカミル。」

「アルティースといいます。」

「彼らは俺の客人だ。そして俺の恩人でもある。お前たち失礼の無いようにしろよ。」

「「へ、へい。」」

「へぇ…ヘクターの命の恩人。」

ロミアと呼ばれた女性はあごに手を当てる仕草をしながら、客として連れてきた三人を品定めするかのように目を動かす。

とくに凝視していたのはカミルの持つ青い瞳と、青年の陰に隠れた緑色の髪の少女の姿。

女性の視線にさすがに居た堪れなくなったのか、思わずカミルは目線を逸らして隣に立つヘクターに顔を向けた。

「ま、何にせよ、これまでずっと歩き尽くめだったわけだし、そこの嬢ちゃんだって疲れただろう。

先ずは一息入れてからにしようじゃねぇか。」

カミルの視線に応える形で間を置くも、ロミアは少女に目を向けてとゆっくりと微笑みかける。

「可愛いお嬢さん。お名前は?」

「・・・・・」

呼ばれたことに一度は顔を引っ込めるライムであったが、ロミアは少女が姿を出すまで待っていた。

やがてその表情を恐る恐るではあるも覗き込みながら、カミルの影から姿を見せて「…ライム。」と静かに応えた。

「そう、よろしくねライム。」

「俺も戻ったばかりで何かとやっておかねばならないこともあるからな。カミルたちはすまねぇが宿を用意するからしばらくはゆっくりしていてくれ。

あとロミア、嬢ちゃんのことを頼んだぜ。」

「ええ、そのつもりよ。」

ヘクターの返答にロミアの表情はどこか上機嫌なものでもあったように見えた。

「それじゃライム、長旅で随分と疲れたでしょう。私と一緒に行きましょう。」

「え?でも…」

「こういうのは女の子同士で一緒に時間を過ごしたほうがいいものなんだから。」

カミルのほうに目を向ける。ライムの顔はどこか困惑気味ではある。

「…

ライム、折角だから行かせてもらえばいいと思うよ。僕たちも僕たちで休むことにするから。」

「うん、わかった。」


「それじゃ、いらっしゃい。」

ロミアに背中を押される形でライムとロミアは奥のほうへと歩いていった。

「大丈夫でしょうか?」

「確かに僕達だけではわからないところもあるのは確かだし、あの人の言うとおり女性同士でいるほうがいいのかも知れないよ。」

「それは確かに一理ありますが…」


「ではお二方はこちらへどうぞ。」

二人が奥へと行ったのを見届けた後、ヘクターの部下である水夫の一人に案内されたのは、街にあるかのような宿屋に似せた間取りの一室だった。そこを宛がわれ、久しぶりに旅の荷物を下ろすことが出来た。


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