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FINAL MASTER  作者: 飛上
Act,09 戦禍の再会~Again~
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第05節

「カミル、この近くには気配はないかも…」

魔物の集団を屠ったカミルは、ライムに周囲に魔物の気配が無いか確認してもらう。

カミル自身、ある程度の気配は感じ取ることが出来るが、ライムの感覚のほうが優れていたこともある。

「わかった。でも、もう少しこのあたりを見ていて。」

「うん。」

カミルの言葉に一層目を輝かせてライムは周囲を見渡しながら気配を探る。

何もしないでいるよりも、カミルの手助けが出来ているという事がライムにとっては嬉しいことであるという思いがあった。

「アルティース、あの人たちへの回復魔法を頼んでも大丈夫かい?」

「…問題ありません。」

「それじゃ、お願いするよ。」

「わかりました。」

カミルは二人が動くのを見届けてから、魔物に襲われていた一行に歩み寄る。


トレイアの荒野を荷車とともに進む一団は、港町ソルビナから北へと向かう道すがらであったが、突如として地中より現れた巨大なミミズの魔物の群れに襲われ、その進行を阻まれてしまった。

無論ある程度、護衛として武装した者達がいなかったわけではない。

しかし巨大なミミズは普段ではありえない、ともいえるほどの数で襲いかかってきた。

はじめは単調な体当たりの繰り返しから、難なく対応出来るものではあった。

しかし、砂塵を撒き散らしながら徐々に荷車の周囲を取り囲んでいき、執拗に攻め立ててくる状況に、いつの間にか追い詰められる形となっていった。

本来、知能のないとも言われるはずの巨大ミミズでありながら、狡猾に襲いくる姿に畏怖を覚えながらも応戦するも、その巨大さに圧倒され護衛の戦士が一人、また一人と倒され、ほぼ無力化されようとしていた。

すでに三人の武装した者達がミミズの体当たりを受け首があらぬ方向に向けられて地面に崩れ落ちている。もはや荷車を指揮する者は、荷を捨ててでも皆に逃亡を促すべきかとも思えたが、その判断は既に遅きに失していた。


自身に向けて襲ってくる巨大ミミズの姿を見たとき、命運が尽きたとも思えた。

「…こんなとこで!!」


ジュバババッ!!!


それは瞬間ともいえるものだった。

突如として空気を裂くような音が周囲に響き渡ったと思う刹那、目の前で巨大ミミズの集団は見えない斬撃によって斬り割かれていった。

「…!?

何が起こった!!??」

「ミミズ共が…」

「どうなってるんだ??」

周囲に体液をぶち撒いて崩れ去るのを見た後もしばらくの間、呆然とする他無かった。

漸く、事態の把握が出来たとき、視線の先からこちらへと近付いてくる者たちの姿を捉える。

剣を持つ銀髪の青年、前足竜に乗ったままの羽飾りのついた帽子を被る若者とフードを目深にした子供の姿。

「あいつらだけでこれをやったというのか…??」

僅かな人数であれほどいた魔物を屠ったのかという違和感を覚えずにはいられないものの、近付いてくる銀髪の剣士に戸惑いを見せながらも、向き合う。

「大丈夫でしたか?」

「ああ…

俺達は何とかな…」


カミルは目の前に立つ男を一瞥する。

背丈はカミルほどではないにせよ、目はライティンであればそれ程珍しいものではない黒で、髪は黒味を帯びるも下地は赤く、均整の取れた体躯に髪の色に似たゴシックコートを纏っている。コートから露出した肌からいくつかの傷痕があることから、ある程度の戦闘の経験があるものと見て取れる。何よりも特徴的なのが、頬から口元にまでついた大きな傷痕。おそらく誰もが赤い髪と頬の傷に目が行くのではないかと察する。

しかし、これ程の数の魔物の襲撃にあったことからか、全身に疲労が感じられる。

男は、魔物の死臭に顔を顰めながらも周囲の様子を一通り見渡す。

周囲には魔物の屍骸の他に、男と行動を共にしていたであろう戦士風の男と、何人かの非戦闘員らしき姿の亡骸が地面に無残に横たわっている姿に男は顔を曇らせ嘆息する。

カミルも同様に倒れた者たちの姿を見る。

もう少し早く駆けつけられれば、という思いがカミルの中には少なからず存在していただけに、目の前の男と表情を同一にさせていた。

男もカミルの様相に気がつき、やがて心境を払拭させるかのように頭を振った後、カミルに頭を下げた。

「すまなかった…先ずは礼を言わせてくれ。

俺はヘクター。あんた達が来てくれなければ、俺達は今頃こいつらの晩飯になってしまうところだった。」

「お礼だなんて…

僕たちは…」

「いや、いいんだ。

こいつらのことは気にしないでくれ。あんな襲撃があってこれだけ生き残っただけでもよしとするさ。」

「ありがとう…

名乗るのが遅れた、僕はカミル。」

ヘクターと名乗る男の言葉に、カミルも僅かではあるが、救われた気持ちを持ちはじめる。


「カミル、完全に回復とはさすがにいきませんが、大丈夫なはずです。」

「何から何まで…

カミルといったな。俺らはあんた達に命を救われた。

せめてもの礼がしたいが、生憎とこんなところじゃどうしようもねぇ…」

「いや、その辺は気にしないで。

僕たちは先を急ぐわけで。」

「ここでなにもせずに返したとあっては、俺の名が廃っちまう。

悪いが、ここは俺たちを助けると思って受けてはもらえねぇか?」

「それは…」

カミルとしては旅の道中での魔物との遭遇の一つにしか過ぎない。ましてや、旅人であるならばこういったことは至極当然のことである、という認識でいる。

別段、恩に着せるまねをするつもりもない。

しかし、ヘクターの思いもよらぬ懇願に戸惑う他無かった。

「そこでだ。出来れば俺達の船に招待したいと思うんだが、どうだ?」

「船?」

「ああ、そうさ…」

ヘクターの話によれば、一行はソルビナから離れた位置に存在する入り江まで物資を運搬する途上だったという事で、一行は皆その入り江に停泊する船の乗組員であることをカミルに話した。

「どうだい?」

「・・・・・」

「言葉に甘えてもいいと思いますが。」

「アルティース?」

思わぬところからの言葉にカミルは眉を顰める。

「事実、私達もあと少しとはいえ、食料は十分とはいえません。なので、ある程度の好意は受け取ってもいいのでは?」

「・・・・・」

「どうだい?

俺達と来てくれるかい?」

ヘクターの頼みを無下にも出来ず、カミルは首肯する。


「物資が無事だったのが不幸中の幸いとでもいうのか…」

そう言ってヘクターは周りにいた者たちに声を掛けて指示し始めると、残りの者達はそれぞれ荷車から零れて散乱した物資の入った木箱をそれぞれ荷車に載せていく。

「…手伝うよ。」

「ああ…助かる。」

ある程度積み終えると、最後に遺体となった者達を布で包み、荷車に積み上げていく。

「ヘクター、彼らは…」

「ああ、俺のヘマのせいというのもあるんだが、こんなところでこうなっちまうのもこいつらの運命って奴なんだろうけどな…

ならせめてここではなく、海で弔ってやりてぇ…」

「海に…」

「ああ…」


「それじゃ、俺達についてきてくれ。」

「…わかった。」

カミルたちも前足竜にまたがり、前足竜二頭立ての荷車のあとを追う。

ヘクターの船が泊めてある入り江まではそれから四日の行程の先にあった。


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