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FINAL MASTER  作者: 飛上
Act.08 動乱の指標~Route~
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第17節

テラン大陸北部、ラクローンの地においてのサーノイドと魔物の軍勢との戦闘はクリーヤの山中にあった城砦の陥落と城外における掃討戦により一先ずの収束を向かえることにはなったが、南部のアファの方面においては幾度と戦闘を繰り返されている。

アファから西へ進めると都市に築かれた以上の堅牢な城壁が南北に存在する。

かつての大戦の折に築かれたものを修復したものではあるが、その城壁を境に平原と砂漠の境界線となっている場所でもある。


本来であれば誰一人として足を踏み入れることのない砂漠地帯ではあるが、魔物の軍勢とそれらを指揮するサーノイドたちはこの砂漠を越えてアファを攻撃せんと攻め、ライティンたちも城壁を盾にしながら守勢に徹し、幾度と軍勢を蹴散らし続けていた。


しかしいつの日か城壁を破られて魔物の軍勢、サーノイドの軍団が王都を蹂躙する日が来るのではないかといった強迫観念がないわけではない。


そんな懸念を抱く間にも砂漠を越えて魔物の一団は城壁に迫ってくる。


この日も砂漠の果てから襲来した魔物の軍勢、その多くはオーク、リザードといった武装された兵士であった。

魔物の咆哮がこだまし、その勢いを駆って城砦に襲いくる。


「放て!!!!」

アファの騎士達の基本戦術は始まってから一貫して変わる事は無い。

近付きつつある魔物を弓や魔法の攻撃で迎え撃つ。

半数は城壁に取り付くまでに全身に矢を浴び、魔法弾で焼かれて砂の中へと沈んでいく。

「一体たりとて越えさせるな!!!」

僅かに城壁をよじ登ってくる魔物も幾体かは存在するも、城壁を登りきったところで薙ぎ払う。

騎士達は一歩たりとて城砦から外には出ずに戦いを繰り返すことによって、魔物の軍勢を討ち払い続けていた。


ほぼ全滅に近い状況にまで至って、漸く攻め手の軍勢は城砦の視野から消えるまで退却していくと、騎士達の勝ち鬨の声が砦中に響き渡る。

「はぁっ…はぁっ…

よしっ、奴らを追い払ったぞ!!!!!」

「魔物共め!ここを落とせると思うなよ!!!!」

城砦の戦士達は鬨の声によって士気の維持に努める。だがそこに違和感も生じている。

規模としてはそれ程の軍勢ではないとはいえ、幾度も同様の襲撃が繰り返されていた。

はじめのうちはここを突破されてなるものかという使命感や、自己の力量の限りを尽くさんとする観点から士気も十分に高く、軍勢の規模からいえば被害らしい被害もこれまで皆無といってもいい。

しかし同様の襲撃が年間と通して百を越えるほどの数が行われているのに対し、城砦に常駐する騎士達としては疲労の様相が色濃く浮かび始めていた。

最早アファの騎士達だけで凌げるものとは言い難いのではないかと事態を重く見た国家は、国中から、そして傭兵ギルドにも呼びかけ城砦の守備のための戦士を募る。


その数は既にアファに常駐する騎士の数を超えるほどの規模にまで集まっていた。


これによってアファの戦力はある程度は修復、増強され、城砦の防衛が成されていることでアファの王都はまだ平穏は保たれてはいる。


鬨の声冷め已まぬ中、戦士達の喧騒を他所に砂漠に目を向ける二つの姿がある。

一人は灰色の長髪を後ろで束ねた細身の青年。

もう一人は薄水色の髪に赤銅色の肌にがっしりとした筋肉質の体躯を持つ大男。

「やっと退きあげていきやがったよ…

まったく毎度毎度懲りずにくるもんだよな。」

何度も続く襲撃に対してやや飽きの表情を浮かべながら青年はツィンネに背を預けたまま呟く。

細身の青年の名はデュナという。

男性にしてはやや華奢な身や灰色の髪よりも特徴的なのは水色の瞳である。

やや色素の薄いものではあるもデュナがファーレルであるという証でもある。

デュナの言葉に同意を示すものはこの砦において少ないものではないが、誰一人として大っぴらに口にすることはなかった。

「まぁそう言いなさんな。

こっちとしては御膳立ての整った環境で戦えて有り難い事だと思わねぇとな…」

乾いた笑いを含めながら大男は同意の姿勢を見せながら、手に余らせてしまったかのように長尺の獲物で肩を二三度叩いて担いだ仕草を見せる。

実際のところ二人いずれも正規のアファの騎士ではなく、傭兵ギルドからの斡旋でこの砦にやってきた者の一人に過ぎない。

それぞれに獲物はいずれも長物を手にすることから、戦術的にそのほとんどが弓兵の仕事を主とする砦において直接的に魔物たちと切り結ぶ機会は多いわけではなかった。

「でもよヴァイスの旦那、おかしかねぇか?」

「おかしいとは…?」

「脳筋のオークどもばかりならいざ知らず、サーノイドの連中だっていくらかは混じっているんだぜ。それにこんな城壁があるというのに猪みたいに突っ込んでくるしかねぇ。

もう少し戦い方ってものがあるんじゃねぇの?

猿だってもう少しましな動きをしてくるぜ。」

「ほぅ…。」

デュナの指摘もまんざらでもないと思わんばかりにヴァイスも不敵に笑みを零す。

「お前さんの指摘は尤も至極だが、こればっかりはあいつらに聞いてみないことには何ともいえないんだが…」

そういって再び砂漠のほうに視線を向けると、これまでとは異なった横顔を見せるヴァイスにデュナも違和感を覚えた。

「旦那…?」

「おい!!!

この城の大将はどこにいる!!!!?」

突然近くを通った兵士に声を張り上げるヴァイスにデュナも驚くも、それ以上に驚かざるを得なかったのは兵士のほうだろう。

「な、なんだ?お前は?どうかしたのか??」

いきなり通りすがりで呼び止められたことの無礼にやや不満めいた表情を見せるも兵士はヴァイスの前に歩み寄る。

「すぐに本国から援軍を送ってもらったほうがいい。」

「援軍…?」

ヴァイスの言にデュナも眉を顰める。

「何を馬鹿な。ついこの間にも増援が到着したばかりだし、今日だってこの通りやつらを返り討ちにしたではないか…

っ!!??」

反論する兵士ではあったがヴァイスの紫の目に鋭いものがあったのを見てとった兵士は言葉をとめる。

「俺の勘は良く当たるんだ。悪いことは言わねぇ、急いで大将に伝えな。」

そう言って砂漠に目を向ける。

静寂の中砂漠から吹き付ける砂塵の混じる風が黄昏を受ける城壁に微かに弾ける音が響いてくる。

「破られるぜ、次は…」


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