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FINAL MASTER  作者: 飛上
ACT,01 辺境の禁忌~Taboo~
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第09節

その日は月明かりがとても明るい日でもあった。とはいえ月は未だに真円を描いていたわけではない。真円まではいま少し日数がかかるであろうが、足元を照らすほどの明るさを帯びるにはすでに十分の明るさを月明かりは村に与えていた。

その日、ガイナーは夜の巡回の番が回ってきていたので村の巡回を行っていたところであった。だが、月が天頂より傾きかかろうとしていたときである。見張り台の警鐘が激しく鳴りだした。

「!!?」

鐘の音は村全体に響き渡り村は一斉にあわただしく動き始めた。

ガイナーは見張り台のほうへ走っていた。まず何が起こっているのかを確認するためでもあった。

「何があったんだ!!?」

見張り台に立つ自衛団の若者に声を張り上げて尋ねる。

「ゴブリンだ!ゴブリンの大群が迫ってきている。」

「ゴブリンだって!!?」

この島で一番多い魔物はゴブリンである。ゴブリンは人気のない場所に来たときに集団で人を襲うことがあるが、群れを成して攻め込んでくるようなことは今までなかった。この日は月明かりが幸いしたのだろう、見張り台において未だ接近中のゴブリンの大群をいち早く見つけることに成功したのである。

「くそぅ、自衛団はすぐに集合させるんだ!!」

すばやく自衛団をあつめてゴブリンに対して迎撃体制をとることがガイナーの今の役目であった。早期に発見できたことが本当に幸いした。ゴブリンが迫ってくるよりも先んじて自衛団はゴブリンの正面に展開することに成功した。

「ゴブリンの数はわかるか!?」

皆が気になるのはやはりゴブリンの数だろう。それがわからないことには対応策も違ってくるのでいつまでも動くことが出来ないでいる。

見張り台に立つ若者は月明かりに目を凝らしてうごめく影にあたりをつける。

「はっきりとまではわからないが、100はまちがいなくいる」

「100匹も・・」

その数を聞かされた自衛団の若者は騒然となった。自衛団の総数は30人、この時点で数の上で圧倒的に劣勢であった。こちらの利点は村の柵によって防御の面で効力が発揮されていることくらいである。基本戦術としてはまず敵をひきつけるだけひきつけて弓矢などの飛び道具で遠巻きに攻撃を与える。その後に接近してくる敵を複数の人数で敵を囲んでの攻撃を展開させるようにすることではあるが、まともに戦いの経験のあるのがわずかな人数しかいない。

「ガイナー」

カミルも自衛団たちと同様に駆けつけてきてくれたことはガイナーにとってなんとも心強いものだったに違いない。ほんの数日前に出会ったばかりだというのに、すでに数年来の戦友のような感覚がガイナーにはあったであろう。

「ようし!橋に差し掛かったら弓を射掛けてやるんだ!

あと何人かは村の周囲の警戒にあたっておいてくれ。ゴブリンがここからだけとも限らないからな」

ガイナーは的確に指示を送っていくと自身も剣を抜いてゴブリンの到着を待ち構えた。

ゴブリンが村の正面の橋に差し掛かろうとしたとき、ゴブリンに向けて矢の応酬を与える。

十数匹のゴブリンに矢は当たり、そのまま橋で倒れたりあるいは堀のほうに落ちていくゴブリンもあった。それでもゴブリンは怯むことなく柵に取り付こうとする。柵の高さは3メートルくらいだろうか、ゴブリンはそのまま柵をよじ登ろうとしてきていた。

「今だ!槍で突き落としてしまえ!」

柵に空いた隙間から槍を突き出して柵の外側のゴブリンにみまう。不意に現れた槍の攻撃にゴブリンはまた十数匹崩れた。だがその攻撃をかわしてきて残りのゴブリンは柵を越え始めてきたのである。

「くそっ、みんな一人になるなよ!複数でゴブリンを袋叩きにしてやるんだ!」

戦闘経験のあるガイナーは単身でゴブリンたちに立ち向かう。村の出入り口付近での夜中の戦闘はこうして幕を開けた。

自衛団の若者達はゴブリンたちを二人以上で囲む形で近付き、牽制しつつゴブリンを倒していった。ガイナーは襲ってくるゴブリンの攻撃をぎりぎりでかわし、そのままカウンター越しにゴブリンを斬り払う。だが単身で戦い続けていることをゴブリンは見逃さなかったのだろうか、ガイナーのほうへ取り囲む形で接近している。だが、ゴブリンの思惑を完全に砕く存在もいたことはゴブリンにとっては誤算に等しかったであろう。

ガイナーに近付こうとするゴブリンの集団にことごとく斬りつけてガイナーに近付く若者がいた。

カミルである。

「ガイナー、無理をしちゃいけないよ。敵はまだ多いんだ」

カミルの指摘はガイナーも知るところだった。だがガイナーも別の思惑を持っていた。

「ここのどこかにこいつらをあやつる親玉がいるはずなんだ。でないとこいつらがこんなに集団で襲ってくるはずがないからな」

ガイナーの言葉にカミルの納得したのだろう。

「なるほど、そういうことならこいつらは僕に任せて」

カミルは剣を掴む左手にさらに力を込めゴブリンに向かって斬りかかった。

ドシュッッ!!!

本来剣というものは突く、叩き斬るといった戦法が主流なのだが、カミルの場合はまさしく“斬った”といった感覚に等しいだろう。そのため、動作に無駄がなく、ゴブリンたちは次々とカミルの手によって地に伏していくのである。カミルの援護も功を奏したのだろう。ゴブリンたちは積極性を失ってゆき、攻撃の手が緩み始めてきていた。ガイナーはそのまま門をぬけ、ゴブリンたちを指揮している首領格がいるであろう場所に走りこんでいた。首領格にたどりつくまでにさらにゴブリン数匹がガイナーの行く手を阻んだがガイナーの勢いは止まらずに斬り抜けて行った。

ゴブリンの首領格は通常のゴブリンたちよりも一回りほど高くも大きく、ガイナーよりも少し大きな存在だった。その首領ゴブリンに剣を向けたまま、突進していった。


シャッッ!!!


首領ゴブリンはいきなりの突撃に一瞬表情をかえたものの、ガイナーの攻撃をかわしきると、すぐさま反撃に転じてきた。


ガキッッ!!


ゴブリンの手にする巨大な棍棒とガイナーの剣が交錯する。その後も首領ゴブリンに反撃の暇も与えぬまま、剣を振りぬく。すかさずに身を捻り今度は袈裟懸けに斬りつける。

再び巨大な棍棒に剣が受け止められる。袈裟懸けから一転して突きに切り替えて踏み込んだ。しかし、結果は同じことだった。棍棒の材質がよほど硬いもので出来ているのであろう。ガイナーの剣は棍棒に刺さることなくはじかれる。

首領ゴブリンもまたむざむざとやられまいとガイナーの攻撃をことごとく防ぎきる。

数合の剣戟を行った後に両者はいったん距離をとる。

「くそっ、やるじゃないか…」

不意をつき損ねてしまった以上、今度は正攻法で戦うしかない。

ガイナーが先んじて再び大きく一歩を踏み込むと、さらに剣を振りぬく。


ブンッ!!


「くっ!」

大きく空振りしてしまったためにガイナーに一瞬とはいえ隙が生じてしまったのをゴブリンは見逃さなかった。今度はゴブリンが棍棒を大きく振り上げてガイナーの頭上めがけて今にも振り下ろされようとしていた。

「・・・・・っ!!!」


ズシャッッ!!!!


自分自身に直撃を受けるのとは異なる音を耳にした。

「・・・!??

これは・・・??」

ガイナーへの直撃は、すんでのところで阻止された。

ガイナーが眼にしたときは、首領ゴブリンの胴体の中心すなわち心臓がある場所に剣が突きつけられていたのである。首領ゴブリンは一瞬で自身に何があったのかを理解できずにその場に崩れさった。全身を朱に染めて・・・

「大丈夫だった?」

剣を突きたてた張本人がガイナーに声をかける。ガイナーのすぐ後を追いかけるように来ていたのだろう。その剣の主、カミルの対応は疾風と呼ぶにふさわしいものであった。

「ああ、助かったよ」


乱戦の最中、首領格を失ったのをその場の空気で悟ったのだろう。ゴブリンたちはこれまで行い続けた戦闘を突如として中断し、方々の体で蜘蛛の子を散らすかのようにして村を離れていった。


自衛団の面々もゴブリンが退散してゆくさまを呆然と見つめていたが、やがて状況を飲み込むと、一斉に戦闘によって張り詰めていた空気と緊張感を払い、喚起の声に変わってゆく。

「ゴブリンどもを追っ払ったぞ!!」

「俺達で村を護ったんだ!!」

村の門の付近で自衛団の若者達の喚起の声が聞こえてくる。


被害といってもまさに早期発見が幸いしたであろう、自衛団の若者の数人がかすり傷を負ったくらいであった。

夜が白み始めても喚起の声はつづいた。

それでもガイナーの表情は朝日が昇ってからも晴れることはなかった。


これまで起き得なかったことが起こり始めている。

サーノイドのライティンへの襲撃、魔物の増加、西の洞窟の封印、そしてそれを解こうとするものがいること。

なによりガイナーには封印が解かれたことと、そのときに聞こえた声が大きく脳裏をよぎらせていった。

“世界が終わってしまうその前に…”

その言葉だけが何度も反芻されていた。



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