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エピローグ

 昼食を頂いてから、帰り支度に入る。キセキが外でレオの点検をしている時、その様子を2階のテラスから眺めていたジンに、ファンデルは声をかけた。

「ジン君」

「あ、ファンデルさん。僕達もうすぐ帰りますけど、貴方は?」

「ああ、私は知人を訪ねにミキシカンの都市部へ行くんだ。ここでお別れだね」

 少し寂しげに無精髭の男は言った。

「そうですか……あの、どうして仮面が外れた後も、ずっと黙ってたんですか? キセキさんに」

 ジンは少し前から気になっていたことを尋ねる。

「いや、ほら、その、なんだか恥ずかしいじゃないか。久しぶりに会うのって。それに全く覚えられてなくても不思議じゃなかったんだが、その、ショックだし」

 照れくさそうに男は笑っている。その様子は、あの森で小さな女の子の話を持ち出したときの雰囲気に似ていた。

「でも、こちらも半信半疑だったんだよ。君からキセキという名前が出たとき、まさかとは思ったんだ。でも同じ名前の人だっているかもしれないだろう?」

 そうそうそんな大胆な名前を持っている人はいないだろうが、確かにまったくいないとも言い切れない。

「会って、実際間近で見たら、やっと確信できた。暗いのにサングラスかけてたしね。あとね、仮面に願いをかけていたって言っただろう? あれ、実はあの子にもう一度会いたいって、お願いしたんだよ。まさか、ほんとに叶っちゃうなんてねー。『命あるもの』はやはりすごく神秘的だ。……しかし女の子ってのはしばらく見ないうちに変わるもんだねえ……見違えたよ、ほんとに」

 それは無理もない。彼が知っているキセキ・アルディアスは、6歳の小さな女の子だったのだから。

「小さい頃のキセキさんって、どんなでした?」

 ジンは面白半分に訊いてみた。

「ふむ。天真爛漫で、周りの大人を振り回してばっかりだったね……ってあんまり今と変わらないんじゃないかい?」

 男が笑いをこらえつつ尋ねる。

「へへ、そうですね。変わらないですよ」

 ジンがそう答えたところ、外からくしゃみをする音が聞こえた。ファンデルもジンも声を押し殺してくすくす笑う。ここにあの老人がいたら声を上げて大笑いしていただろう。

「はは。でも確かにあの子はもう大人になってるよ。森で怒ってひとりでどこか行ってしまっただろう?」

「ええ……」

 あの時垣間見てしまった彼女の、辛そうに独白していたときの顔をジンは思い出す。あのときの答えを、今日、さり気なく言ってみたつもりなのだが、彼女は気付いてくれただろうか?

「ああやってね、ほんと、男にはよく分からない行動に出たら、もう女の子は大人の女性なんだ」

「そうなんですか……?」

 ジンはふとアレンが言っていたことを思い出す。

 謎の多い女性のほうが魅力的なんだ、とか。

「でも……僕は分かってあげたいです。なんていうか、そういうの……辛そうだから」

 ジンは心底そう思った。彼女には常にあの、天真爛漫な笑顔でいてほしい。彼はそう願っている。

 ファンデルはしげしげとジンのその真剣な顔を眺めていた。

「ふむ。やはり君は今時にしては珍しい、誠実すぎるくらいの男のようだ。それも私としては気持ち良いのだが、そうだな、もっと柔軟に考えるのも、自分を追い詰めなくていいかもしれんよ。うーん……でも実際どうなのかね? 君たち」

 そう言われて、ぼっとジンの顔が赤くなる。

「え!? 別に何もないですよ!? ほんとに!! 前に言ったじゃないですか!!」

「ははは、それは現状だろう? 君はどう思っているんだ?」

 半ば真剣に尋ねられていることぐらい、ジンにも分かる。ファンデルにとってキセキは本当に、娘のような存在なのだろう。そう考えると余計に返答に困る。

「あ、いや、その、えーと……」

 と、ジンが言葉を濁している時、助け舟のように下から声がした。

「おーいジン! 準備できたわよー。そろそろ降りてらっしゃい」

 ジンは手すりから少々身を乗り出して

「はーい」

 とわざと元気に声を張り上げる。

 1階に降りて、玄関を出ると、キセキがもうスタンバイしていた。

「ファンデルおじさん、また連絡してよ。これ私の携帯の番号」

 キセキはそう言ってちぎったメモをファンデルに渡す。このときのファンデルは本当に泣きそうだった。

「ああ、ああ。君のことはちゃんと黙っておくから。自分の生きたいように、生きなさい」

 そう言った彼は、本当に、父親のようだった。

 すると老人もあの髑髏の壺を抱えて出てきた。

「またここで会える日を楽しみにしているよ。ファンデルさんも、いつでもいらっしゃい。茶菓子くらいすぐ調達できるからね。実に君たちの話は面白かった。ふははは」

 と、思い出し笑いを始める老人。そうしていると壺からあの女性も出てきた。

「本当にお世話になったわ。これからも頑張ってね」

 と、キセキとジンに向かって意味ありげにウインクした。

「貴女も、これからの命、大切にしてね」

 キセキは他にもいろいろお礼が言いたかったのだが、ここでは言えなかった。でもそのもどかしそうな表情から、女はちゃんと彼女の心中を察してくれたようだ。目が合って、そして少し笑いあう。これは心中をさらけ出しあった女同士にしか出来ないアイコンタクトだろう。

「じゃあ、行くわね」

 キセキがレオに跨る。ジンも、荷がなくなったので今回は後部座席に青年の姿で座った。

 今日ばかりは名残惜しそうに、ゆっくりと走り出す青い獅子。ジンは振り返って、ファンデルのほうを見る。

 そして、言葉にはしないが、口だけを動かして、さっき答えられなかった言葉を伝える。

 

 ボクハ、キセキサンノコト、スキデスヨ。

 

 ふ、と優しく笑った男の顔が見えた。

 

 

 

 

 ちゃんとした、まともな道を走る帰り道。

「あーーー。やっぱ今回もいろいろ苦労したわよねーー。この仕事も骨が折れる折れる」

 と、首を左右に傾けながらキセキがぼやく。

「でも、やりがいのある仕事、なんでしょう?」

 いつも彼女が言っている言葉になぞってジンが後ろからそう言った。そこでふとキセキは思いついた。

「……ジンは?」

「え?」

「ジンはどう思ってる?」

 このときジンはなんとなく理解した。これも、あの、彼女の不安の延長線上にある質問なのだと。

「……楽しい、ですよ?」

 それは、本音だった。決して、彼女のことを気遣った上の答えではない。

「……ふうん。そっか」

 キセキは何気なくそう言ったつもりだったが、かすかに声が震えていた。

 それをごまかすように、彼女は軽く空を見上げて、ただ思い、願った。

 

 そう言ってくれれば、まだ、走っていられる、と。

 私も、このまま、走っていたい、と。

 

 

「あー、でもまた今回あんたに助けられちゃったわねー」

「それは僕の役目ですから気にしないでください」

 ああ、そういえばそんなことを、あの時彼は口にしていたっけ、とキセキは思いつつも、あまり思い出すと恥ずかしいのでやめておくことにした。

 

 前方に、地域を区切る境界線を示す関所ゲートが見えた。

「あー、パス出さないと」

 と、キセキがジャケットのポケットを探る。ジンも探す。

 探す。ぱんぱんと、ポケット中を探してみた。

「キセキさん、なんだかパスが見当たらないんですけど」

 目が点のようになったジンが優しく語り掛ける。

「あら、奇遇ね。なんだか私のパスも見当たらないんだけど」

 ショックのあまり放心状態なのか、こちらも穏やかに、キセキは答えている。

 なぜ2人ともパスをなくしたのか。考える余裕はなかったのだが、実はというと、行きに立ち寄った街中で、旅人を標的とする一種のスリに遭っていたのだ。

 前の車が、チェックを終えた。

「ジン、行くわよ」

 キセキが俯き加減にそう言った。

「え、どこに」

「ふははははは! もちろん突破よ! この関所ゲートの向こう側よ!! 温泉が待ってるんだから……ねっっ!!」

 車体を持ち上げ、いきなりスピードを上げたバイクは難なく関所ゲートの役員の手から逃れた。後ろから何か叫ばれているが、気にしている余裕はない。

「ちょっとおお!? これじゃ警察に捕まっても文句言えないですよおおおおお!?」

「だいじょーぶだいじょーぶ! 捕まるようなヘマなんて、絶対しないんだから!!!」

(だーー!! やっぱりこの人は、いつもこうなんだ!!!)

 ジンは心の中で目いっぱい叫んだ。

 

 立派に法を犯しつつも、どこか楽しそうな2人を乗せた青い獅子は、ペペロンへの帰路を行く。

 見上げる空はいつものように蒼く、どこまでも広がっていた。


どうもこんにちは。はじめまして。あべかわきなこです。

今回、自分にしては珍しく、連載なんだけど連載じゃない、ライトノベル形式で長編小説を書いてみました。

「DELIVERER」という大本の話があって、それの「天の髑髏と道化の仮面」編、というわけです。

そもそもこの「DELIVERER]、高校の部活で「赤蒼の盃」「蒼天の瞳」の2編を書いて終了してしまったものです。

ちょっとその時書き足りなかったというのもあるんですが、少し失敗した感があってやり直すつもりで今回の話を書きました。


主人公は、この世の全てを解すというすごい眼を持ちながらも、案外普通・・よりも無茶で向こう見ずなアクティブな女性・キセキ・アルディアス。

そのアシスタントで獣の血を持ち、さらに『命あるもの』の盾もその身に潜めているが、大人しめであどけなさが残る青年・ジン。この二人のなんとなく微笑ましいやり取りを中心に、仕事である配達を、どうこなしていくのかという、キャラの能力が異常なわりに案外普通なラブコメ?とちょっぴりアクション?なファンタジーです。

 あと今回は髑髏のお姉さんがよく喋りました。今まではあんまり『命あるもの』に喋らせていなかったんですけれど。

困ったのが仮面なんですけど、おじさんも仮面かぶってたから表情の描写が出来ない(笑)というのが今回の難点でした。

何はともあれ無事書き終われたのですが、今回は長編ということもあり、キセキさんのちょっとした微妙な心情も入れてみたりしています。いやあ女心って複雑ですね。

ってあんまり言えた立場ではないのですが。

書けそうだったらまた、大きな休みがあるときに別の話を書いてみたいと思います。


ここまで読んでくださった方(いらっしゃったら(笑・汗))、

どうもありがとうございました。


追記:2009年12月31日、悩んだ末に改稿しました。文章表現を改めただけで内容に差異はありません。

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