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4.彼女の本音

「いやー、助かったよ。やはり君たちとは何か縁があるようだ」

 ピエロの仮面をかぶった、どこからどう見ても怪しい男は、キセキたちと同様に火を囲んでレトルトパックのご飯と缶詰の焼肉を食べている。

 食べるときも男は仮面を外さない。口の部分は開閉自由のようだ。

「しかし驚きましたよ。もう貴方は随分先へ行かれたと思ってました」

 ジンは青年の姿になっている。

 茂みから出てきた男を見た直後、この姿になったのだ。

 すると男は心底嬉しそうな、安心したような声を上げて彼に握手してきたのだ。続いてキセキにも。

「うむ。私もそのつもりだったのだが、ちょいと昼食を取る場所に困ってね。最初に入ったところで強盗扱いされてしまったりとか、まあよくあることなのだが。それでやっと食べられる場所を探して、済ませたのだがその後どうにも柄の悪いやつらに目をつけられてね、車を盗られてしまったのだよ」

 男はよく喋った。ジンの言っていた通り、若干饒舌ではあるが普通のおじさんだ、とキセキは納得した。

 なんだかこんな人が身近にいたような気さえする。

(えーと……おやっさんとか、アレンとか。あともっと前にも……。うーん、思い出せない)

 ひとりでに考え込むキセキを傍目にジンは会話を続ける。

「車を盗られたって、この森の近くで?」

「ああ。何が始まるのやら、やけに多くの同車種の車が止まっていてね、そこをまずいかなあと思いつつ通ろうとしたらやっぱりつかまっちゃって」

 ははは、と笑う仮面の男。確かに彼が乗っていた車はなかなか高そうなスポーツカーだった。

「で、森に迷い込んじゃったんですか?」

「逃げ込んだ、と言ったほうが正しいね、ジン君。相手が本物のヤクザっぽかったからなあ……」

 男は思い出すようにそう嘆いた。

「はあ。それはどうも、僕たちのせいでご迷惑をお掛けしたようです……」

「?」

 素直に謝るジンに、男はなんのことかと首をかしげる。

 キセキも溜め息をついた。おそらく森の周りを張っているのは『命あるもの』を狙うヤクザだろう。

「私たち配達屋なんです。今実は『命あるもの』を運んでいて、それで……」

 キセキが仕方なく事情を説明する。男から邪気は感じられない。ならば男に迷惑をかけた分、やはり事実を説明するのが筋だろう。

「なるほど。ふむ」

 男が特に怒る風もなくそう納得したかと思いきや

「……おお! するともしや君たち、ミキシカン海岸沿いの洋館に行くのでは?」

 やけに陽気に尋ねてきた。しかも図星だ。

「え、そうですけど……?」

 キセキは少したじろいだ。

「はは! やはりな! 目的地まで一緒だったか! あの時一緒に行こうともっと誘っておけばよかった! なあジン君!」

 やけに男はハイテンションだ。

「は、はあ? そうですね」

 ジンはそれについていけそうにない。

「実は私もそこに行こうとしていたんだ。この仮面を外す方法を探しに」

 男はそう言った。

「え?」

 キセキは男の仮面をじっと見る。仮面は、普通の仮面、だった。だが、何か異常を感じる。

「……見えない?」

 キセキはもう1度、サングラスを外してその仮面を凝視する。

 それでも、その仮面の先にある、男の顔は透視出来なかった。

 男の顔がないわけではない。その仮面が、まったくもって、眼の力を受け付けていないのだ。

「どういうこと……?」

 神妙な顔でひとり呟くキセキに答えるように男は続けた。

「この仮面はね、抜け殻なんだ。今は石になっていると考えてもらっていい」

「抜け殻……? それはつまり……」

「『命あるもの』だったんだよ。だけどその命、魂が抜けてしまっている。だからこれは不完全なもの。普通の物質でもないし、『命あるもの』でもない」

 男はそう言った。

「……なるほど」

 だから透視できないのだ。

 蒼天の瞳は物質という概念を外す。だがこの仮面はどっちつかずな領域をさまよっているのだ。

 ゆえに眼の力を受け付けない。

「その仮面、やっぱり外せないんですか?」

 ジンが心配そうに尋ねる。

「ああ。この仮面の対になる仮面が壊れてしまったとき、この仮面の魂もどこかへ行ってしまったらしいということは人から聞いて知っていたんだが。この仮面にはね、願いを叶えるというジンクスがあったんだ。で、面白半分にかぶってみたのさ。すると、外せなくなってしまって……で、困っていたら同僚に、ミキシカンの保管庫の管理人がそういうものについていろいろ詳しいだろうって言われて、休暇を使って訪ねにね」

「なるほど……。黒い仮面の器が壊れたとき、逆に白い仮面のほうは魂が壊れてしまったということでしょうか。でもどうして自力で外せないんでしょう」

 ジンがキセキのほうを見る。

「黒いほうもそうだったわよね。もしかして、待ってたのかしら」

 キセキがそう言うと、白い立方体から黒い仮面の女が出てきた。

「呼びました?」

「!?」

 表情は分からないが男はひどく驚いたようだった。それはそうだろう。出てきたのは間違いなく幽霊なのだから。

「え、ええと? そちらのマドモアゼルは?」

 男はそれでも必死に紳士らしくしようとしている。なかなか男らしいおじ様ではないかとキセキは感心した。

「はい。お初にお目にかかりますわ。私はこちらの方たちが運んでいる品……兼それに宿る怨霊? です」

 無駄にお茶目に振舞う女にキセキは呆れた。

「あ、ああ。どうもご丁寧に。えーと、拝見する限りお嬢さん、私とおそろいの仮面をお召しになっておられるようだが。縁を感じますなあ」

(……このおじさん、やるわね)

 キセキは心からそう思った。

「おほほほ。お上手」

 女も笑ったその時、女の仮面がふっと外れた。

 ごく、自然に。

「あら」

 女の、予想外の美顔に目を奪われるより先に、その顔から離れた黒い影が男の仮面の方へと近づいたのに全員が注目する。少しためらったように一瞬止まったが、すぐにすっと白い仮面へ入っていった。

「え」

 男が声を出さないうちに、仮面がずりおち……そうになったのを男はさっと支えた。まるで顔を隠すように。

「?」

 その行動に疑問を感じる空気が漂ったが

「おお! 外れた!」

 とやや大げさに男が言うと

「おほほほ、私のも。これで安心して保管庫に行けそうだわ。なんといったって『命あるもの』の皆さんってば揃いも揃って美人らしいじゃないですか」

 と女が言うとジンはくすくすと笑い出した。つられてキセキも笑う。すると男が持つ仮面から、青白い光がこぼれ始めた。

「ん?」

 今度こそキセキと、同族である髑髏の女にしか見えない、『命あるもの』の精神の姿が現れたのだ。

 それは少女の姿をしていた。纏う装束は、仮面の精らしい、ピエロのような格好で、黒い仮面の精ではあるが、不気味さを全く感じさせない愛らしいものだった。

『ありがとう。私はずっと還るからだに出逢える日を待っていました。白い仮面の精は消えてしまったけれど、私に場所を残してくれていた。それにたどり着くまで、髑髏の精に憑いていなければ消えてしまうところだったのです。貴女にはご迷惑をお掛けしました』

 そう言って仮面の精はぺこりと女にお辞儀する。いえいえと女は笑顔で応える。

『そして白い仮面を連れてきてくださった方も、ありがとうございます。そして配達屋さんも、ありがとう』

 声は聞こえるのか、ジンと男もうんうんと満足そうに頷いている。

「めでたしめでたし、か。えーと、じゃあ貴女も保管庫に連れて行っていいのかしら?」

 キセキが仮面の精に尋ねると

『はい。できれば。仲間がいるほうが楽しいですし』

 と素直に彼女はそう言った。

「あら、じゃあ私と最初のお友達になりません?」

 髑髏の女はすかさずそう申し出た。

『ええ。喜んで』

 そうこうして、髑髏の女は見事にお友達をゲットしたのだった。

 

 

 

 真夜中。静まり返る森。ところどころでフクロウの啼く声が聞こえる。獣の声は……幸いしない。

(えーと……問題は明日ねー……あのおじさんと、あと2人も連れて行かなきゃならないんだから、失敗は許されないわ)

 キセキはひとり、燃え残った薪を前に毛布を肩から羽織って、髑髏の壺が入った箱を抱えたまま明日の作戦を練っていた。

(うーん、森の出口か……でもこの地図に載ってる出口っぽいとこは全部押さえられてると見て間違いないでしょうし。ていうかそもそもここがどのへんかもよく分かってないからなーー……。朝イチで動いて出られそうなとこから出て逃げ切るしかないか……って結局いつもこういう計画性なしっぽいことになってジンに迷惑かけるんだよなー……あーどうしよ……)

 と悶々と考えていると、燃えかすをはさんだ向かい側で眠っていたはずの子犬姿のジンが、不意に青年の姿になった。

「うわあっ! 何よいきなり」

 キセキは思わず声を上げた。

「何って……もう遅いですよ。まだ寝ないんですか?」

 ジンは妙に小声で、かつ真剣に尋ねてきた。小声なのはその隣で眠っている、解放されたにも関わらずまだ仮面をつけたままの男を気遣ってのことだろう。なぜ顔を隠しているのか気にはなったのだが、見せたくないなら無理強いするのもあれなので、キセキはあえて透視もしなかった。

 指名手配犯……などなら困るが、話をする限りそんな物騒な人でないのは勘で分かる。

「明日のことを考えてるのよー、いろいろ」

「考えなくたって明日になればどうにでもなりますよ。いつもそうだったじゃないですか」

 ジンは何をいまさら、といった顔でそう言う。なんだかそれに少々腹が立ったキセキは

「あー、もう! そうよ!! どうせいっつも考えなしに無茶してあんたによく働いてもらってるわよ!」

 と、自分でも驚くほど、けんか腰になって叫んでいた。

「え、いやそういう意味じゃ……って何怒ってるんですか?」

 ジンがあまりに落ち着いているせいなのか、それとも他になにかあるのか、自分でもわけも分からずキセキはさらにヒートアップしてしまった。

「別に怒ってなんかいないわよ! あーもういいわ!ちょっと散歩してからちゃんと寝るからほっといて!」

 勢いよく立ち上がって、背を向けて早歩きで歩き出す。

「え、ちょっとキセキさん!? 今から散歩って危ないですよ!?」

 彼が追いかけてきそうだったのでキセキは意識する前に駆け足になっていた。立ち上がる前に駆け出されたので、ジンも追うに追えなかった。

 

 静まり返る森。ジンはぽつんと取り残されたような気分になった。

「……どうして怒ってるんですか……?」

 ジンがひとり呟くと、突然隣で寝ていた男がむくっと体を起こした。

「うわあ!?」

 これには正直ジンも驚いた。

「起きてたんですか!? ……いや、起こしちゃったんですよね……すみません」

 最初こそ声をひそめていたものの最後のあたりなどキセキは叫んでいるに近かった。

「いやいや気にするな青年。ははは、困っとるかね?」

 男は陽気にぽんぽんとジンの肩を叩く。

「えー、あー……そうですね……困ってます……。どうしてキセキさん怒ってるんでしょう」

 素直に心中を語るジン。

「ふむふむ。女性の考えていることは男には全く分からんものだよ。はは、小さな女の子ならまだ分かりやすいんだがな」

 男はそう、懐かしそうに言った。

「? おじさん……あ、名前訊いてなかったですね……」

 ジンはふと思い出すようにそう言った。

「ああ、いや、名乗るほどのものではない。おじさんでいいよ」

「あ、じゃあ……。おじさん、お子さんがいらっしゃるんですか?」

 さっきのそれはそのように聞こえたのだ。

「ん? いや、いないよ。実はまだ独り身でね。なに、恋の経験ならおそらく君より積んどるさ、はは」

 そう言われて少しジンは赤くなる。怒っているのではなく、それは図星だからだ。

「はは、青いなー君は。だが見ていて爽やかだ。うん」

「えーと……それは褒められてるんでしょうか?」

 ジンは自信なさげにそう尋ねた。すると

「もちろんだ。私が人を褒めるのはめったにない。誇りなさい」

 男はむんと胸を張っている。やはり面白い人だとジンは微かに笑った。

「へへ、それじゃあそうします。……でもキセキさんを連れ戻しに行かないと、駄目ですよね?」

 ジンが立ち上がる。

「うむ。それでこそ私が見込んだ男だ」

 男は、仮面でジンからは分からないが、満足げな顔で彼を送り出した。

 

 

 

 一方、キセキはひとり、髑髏の壺入りの箱を抱えたまま、どこぞの樹にもたれかかっていた。

「あらあら、どうしましたの? 貴女、失礼だけどあんまり悩むタイプのようには思えませんけど」

 と、冗談半分少し本音で髑髏の女が出てきた。仮面もはずれているため、ぞっとする驚きももうない。

「ふふ、そうね。私はあんまり悩む人間じゃないんだけど、今回は珍しく悩んでるわねー……。でも何を悩んでるのか自分でもさっぱり、分かんないのよねー……」

 キセキも女の率直さに助けられて本音を喋ってみる。

 すると

「ほほほ、なんだかあれね、妬いてるのかしら」

 女が言う。

「妬くぅ? 誰に? 私が?」

 キセキはそう声に出して尋ねてみてから、なんとなくその意味が分かった。

「ああ、そうかー。なるほど」

「あら、もうお分かりになったの?」

 今度は逆に髑髏の女が意外そうに尋ねた。

「うん。なんていうのかなー。妬くっていうかそのー……子離れできてない親みたいな? そんな感じかも」

 キセキがそう言うと、女は軽く笑った。

「ほほ。そうね、貴女の場合、そうかもしれないわね。旅館でのこと、私見てましたから。まるで貴女、母親みたいでしたものね」

 女は旅館でキセキがジンになにやらいろいろと教え込んでいたのを思い出す。見ていて微笑ましかったとはあえて言わないが。

「でもね、ちゃんと分かってたつもり。ジンだってもう結構頼りになるって。でもそれで私、頼りすぎないかが心配なの。私自身が」

 キセキは自分でも驚くほど素直に喋っていた。自分はどこかひねくれていると自覚していたほどなので、こういうことは珍しい。話し相手の同性がまわりにあまりいないというのもあるのだが。

「あら、別にいいじゃない、甘えたって。甘えるのは女の特権でしょう? 彼ならそれくらい許してくれるわ」

 女はそう言ってくれる。だが

「まあね、あいつは何にも言わずに私のこと、守ってくれるんでしょうね……。でも……その……」

 ここにきて、キセキは急に言葉を濁した。ここから先は、ずっと前から感じていた不安で、やはりすらすらとは言葉に出来なかった。

「言ってごらんなさいよ。聞くぐらいなら、幽霊の私にだってできるわ」

 女は優しく笑っていた。改めて見るとやはり相当な美人である。こんな女性を差し置いて、天を愛した男の気が知れない。

「私がジンを縛っちゃったんじゃないかって……彼の道、制限しちゃったんじゃないかって、思って。初めは、まあいいのよ。でも形はどうであれ配達屋に引き込んだのはやっぱり私だし、あれから外の世界を知って、あいつにも他にやりたいことができたかもしれない、でしょ? でも、ああいうやつだから、多分私の前からいなくなるなんてことはない……だろうし……っていうかそういうこと、考えもしないかもしれない。私はそれが嫌なのよ。でも、好きなことしていいよって言える勇気も、なんでか……ないのよ」

 キセキは息もつかずにそう告白した。なんだか少し、泣きそうな気分だった。それは罪悪感からか、それとも別の理由があるのだろうか。

 だが彼女は涙を見せない。それは彼女の信条のひとつでもあるからだ。

「ふふ。そこで泣かないあたり、やっぱり貴女、強い人ね。そういうところ、結構好きよ? 今までさんざんからかってきたけど」

 こちらの、やはり少しひねくれたところのあるお嬢さんも、今だけは素直になっている。

「ふふ。私が見る限り、貴女が思ってるほど彼は今の仕事を重荷に感じていないと思うわ。むしろ、楽しそうじゃない?」

 キセキは運転中、常に前方を見ているため気付かないのだが、女はその代わりに、きちんと目撃していた。

 かの犬が、ポケットに収まりながらも、嬉しそうにしっぽを常に振っている様子を。

「……そう? ……ふう。ありがとう。なんか聞いてもらっただけですっきりしたわ」

 そこでキセキはやっと、いつもの自分に戻れたような気がした。

「いえいえ。私などでお役に立てれば」

 肌寒かった空気が、少し温まったような気さえする。

「……言いそびれてたんだけど、貴女、すごく美人よね。羨ましいくらい」

 キセキが唐突に言うと女は少し驚いたようで、

「あらあら、突然なにを言い出すのかと思えば……まあ、有り難くお言葉は頂いておくわ」

 いつものようにほほほ、と笑った。

「ところでさ、貴女はこのまま、ずっと『命あるもの』として生きていくの? 一応、怨霊なんでしょ? 成仏とか……いろいろあるじゃない」

 キセキはこの女性のこれからのことを思った。

『命あるもの』たちは皆、どんな風に永い時を過ごしていくのだろう、と。

「うふふ、私のことを気にかけてくださってるのね。ええ、確かに私は半分怨霊。でももういいの。死んでから、『命あるもの』としてもう一度生を受けたんだから。最期にこの髑髏の壺に込めた願い。それは実はもう叶っているの。あの、仮面のおじさんと同じでね」

 女はウインクをした。

「?」

 この意味は、さすがにキセキは分からなかった。

 その時

「キセキさん」

 聞きなれた声が後ろからいきなり響いた。

「わっ! ジン!?」

 振り返るとそこにはかの青年の姿があった。

「捜しましたよ。あんまり走ったら戻れなくなっちゃいますよ?」

 そう言うジンはいたっていつもどおりだった。

「あ……そうね。ジン、戻れる?」

 それに少々ほっとしてキセキはいつもの自分に完全復帰する。

「はい、勿論。薪の匂いで分かりますから」

 ジンは鼻が利くのだ。

 ジンがキセキの手を掴む。なぜか、彼女はそれに一瞬戸惑ってしまった。ジンが半ば強引に手を引いて2人は歩き出した。

「あ、ジン……」

「? なんですか?」

 彼の反応があまりに穏やかで、

「その……さっきはごめん。なんか気が立ってたみたいで」

 と、キセキは素直に謝った。

「いえ」

 それ以上、彼は何も言わなかった。

 

 ところで彼は、キセキと髑髏の女の会話を、少しばかり聞いていた。割り込める雰囲気ではなかったのでしばらく立ち聞きしてしまったのだ。

『私がジンを縛っちゃったんじゃないかって……彼の道、制限しちゃったんじゃないかって、思って』

 彼女はそう言っていた。

(縛る? まさか)

 今すぐにでも彼女に伝えたかったが、今言うと立ち聞きしていたことがばれて、なんとも居心地が悪くなりそうだったので彼は躊躇した。

 結局その日、彼は何も言えなかった。


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