文化祭へ行こう(3)
新訳ロミオとジュリエットは無事幕を閉じた。
ハル達は演技を終えた奈美達と会うことが出来たのだが……。
ゆっくりと降りていく幕に、観客からは盛大な拍手が沸き上がった。
原作など完全無視で、無茶苦茶な話だった。
だが、それを抜きにすれば若い二人のサクセスストーリーとして、完成度の高い劇だ。
「古きしがらみを破り、自ら道を切り開く。良い話では無いか」
「そうですね。希望溢れる学生の劇としては、面白い話です」
「……なんか、秋乃が妙に生き生きと演じてたのを見て、少し不安に思えてきた」
腹黒で策士のジュリエット。
秋乃はそれを自然体で演じ、はまり役と言える名演技を見せた。
兄として一抹の不安を感じずには居られない。
「運命に翻弄されずに切り開く、まさに新訳ですね」
「うむ、シェイクスピアは大した人物だな」
「……帰りに原作買って帰ろうな」
流石にシェイクスピアが可哀想過ぎる。
その後、ハル達は舞台を終えた奈美達と会うことが出来た。
「あ、ハル。本当に見に来てくれたんだね」
「まあ約束だったしな。理事長にも運良く見つからなかったし」
「……お兄ちゃん、後ろ後ろ」
秋乃に言われ、ハルは何気なく振り返る。
その時、初めて志村さんの気持ちが分かった。
「ふふ、こんにちは、ハルさん」
「は、ははは、ご無沙汰してます、理事長先生」
もう笑うしかない。
振り返れば奴が居る。まさにその通りだった。
「以前私が言ったこと、憶えてますよね?」
「……はい。約束を破ってすいません。どんな処分も受けます」
「ちょ、ちょっと待って下さい」
奈美がハルと理事長の間に割り込む。
「理事長、私が着て欲しいってお願いしたんです。怒られるなら、私の方です」
「貴方は……早瀬奈美さんですね」
「はい。お願いです、ハルを怒るなら私を……」
「身内の罰は身内で引き受けましょう。理事長、私に兄の責任を取らせて下さい」
二人を庇うように、秋乃が一歩前に出る。
「でしたら、共に来た私も共犯。罰するなら一緒にお願いします」
「柚子殿に同じくだ」
紫音と柚子も理事長に願い出た。
その様子を見て、理事長は少し困ったような表情を浮かべ、
「おやおや、困りましたね。別に、ハルさんを怒るつもりなんて無いのですけども」
優しい顔で微笑んだ。
「男性の立ち入りは基本的にお断りですが、あくまで基本的には、です。許可を得た人は出入りができるのですよ」
「でも俺は……」
「今朝千景さんから連絡がありまして、『先日の報酬として、御堂ハルの立ち入りを許可して欲しい』とお願いされたんです。大切な宝石を守ってくれた恩人の頼みは断れませんから」
ハル達は呆然とした顔で、理事長の話を聞く。
今朝女装をして貰ったときは、そんなこと一言も言っていなかったのに。
「騒ぎを起こさぬよう、この学校に相応しい格好で、と言う条件付きで許可致しました」
「そんなのアリ?」
「正直、本当に男の人なのかと見まごう程ですから、充分条件は満たしているでしょう」
「ははは、喜んで良いやら」
胸中は複雑だ。
「ですので、貴方を咎めるつもりは全くありませんよ」
その言葉に、ハル達は一斉に胸をなで下ろした。
「秋乃さん、奈美さん、先程の劇は大変面白く拝見させて頂きました」
「あ、ありがとうございます」
「お楽しみ頂けたのなら幸いです」
奈美と秋乃は揃って頭を下げる。
「運命とは自ら切り開くもの。若く力強いメッセージを感じましたね」
「えへへ」
「クラス全員で話し合い、テーマを決めました」
「なるほどな。しかし、秋乃殿ははまり役だったな」
「ああ、あれが素かと思うくらいだったぜ」
ハルの言葉に秋乃は一瞬驚き、
「……さて、どうでしょうね♪」
小悪魔的な微笑みを浮かべるのだった。
それから、ハルは奈美達と共に学園祭を回り、楽しい一時を過ごすのだった。
後日。
「おぉぉぉぉ、秋乃ぉぉぉぉぉ!!」
「うわ~可愛いね~。奈美ちゃんも格好いい♪」
ハルから送られてきたDVD映像を見て、大喜びの冬麻と菜月。
そしてそれを、呆れた顔で見守る黒田と白井。
「あの~冬麻様、菜月様、そろそろ作戦開始時刻ですが……」
「そんなの後だ後。今この時、これを見る以上に重要な事など無い!」
「へへ~みんな楽しそうだね~。良いな~私も劇やってみたい」
「……お二方、イタリア支部より出撃の催促が来てますが」
「無視しておけば良い。ほら、お前達もこっちで一緒に見よう」
傍若無人とはこの事か。
「う~ん、悪女な秋乃も素敵だな~」
「生き生きしてるよね~」
「……黒田、どうしましょう?」
「……気の済むまで待つしか無かろう」
結局そのまま一時間あまり、冬麻達は劇を見続けた。
これだけなら、タダの馬鹿親なのだが、
「ふはははは、気合い充分だ! さあ掛かってこい!」
「よ~し、私も頑張っちゃうよ~♪」
テンションマックスの二人は、ものの数分で一つの悪の組織を壊滅させてしまうのだった。
「……理不尽ですよね」
「……世の中そんなものさ」
炎上する悪の組織の基地を眺めながら、黒田と白井は寂しそうに呟いた。
ひとまず、文化祭に幕が降りました。
いい話で終わりそうだったのに、あの馬鹿親に掛かってしまえば……。
黒田と白井も苦労してそうです。
これを投稿している時に気づいたのですが、次回で百話なんですね。
フラフラぐだぐだの小説ですが、感慨深いものです。
そこで、次回は趣向を変えて「座談会」を行いたいと思います。
作者の前作では割とよくやっていたのですが、今回の小説では恐らく最初で最後になるかと思います。
本編では説明しづらい話など、色々紹介する予定です。
次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。