表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/130

ハルを巡る物語後日談《正義の味方》

ボスへの報告のため、本部へと向かう冬麻と菜月。

ただ今回は、二人旅ではなく……。


 一機の飛行機が、早朝日本を飛び立った。

 小型のそれは、旅客機とは明らかに違うフォルムをしている。

 両翼が無く、大きな涙のような流線型をしていた。

 定員十名にも満たない機内には、四人の乗客があった。


「到着までは五時間程か」

「朝食は向こうに着いてからにしましょ♪」

「ふっ、問題ないさ。昨晩は君をたんまり頂いたからね」

「もう、パパったら♪」

 冬麻と菜月は隣に座り、何時も通りのいちゃつきぶりを見せつけている。

 見せつけられているのは、通路を挟んで反対側の席に座る二人の男女。

 何とも言えない表情で黙っていた。

「……おや、どうした? ひょっとして飛行機苦手なのかな?」

「いえ、問題ありません」

「同じく」

 二人は冬麻の問いかけに短く答える。

「そうか、まあ向こうに着くまで五時間ある。何なら眠っていても良いぞ」

「もし眠くないなら~、一緒にトランプやらない? 私ババ抜き得意なの♪」

「…………」

「どうしたのかな?」

「何故、私達を連れてきたのですか。貴方達にとって、忌むべき相手でしょう」

「息子さんを拉致し、非道な実験を行った……私達を」

 男女、ブラックとホワイトは沈んだ顔で尋ねた。

「理由は色々あるが、まあ詳しくは向こうに着いてから話すよ。どうせボスに報告するしな」

「正義の味方のトップ……」

「あはは~そんな緊張しないで平気だよ。とっても面白い人だから♪」

「直接……私達を裁くつもりですか」

「ん~どうにもネガティブだな。そんなんじゃ人生詰まらんぞ」

 硬い表情の二人に、冬麻は苦笑しながら告げる。

「どの様な裁きも受けます。私の目的を果たしてくれたお二人に、逆らうつもりはありません」

「ブラック……」

「心配しないでよ~。別に食べたりはしないから~」

 菜月は心配そうに呟くホワイトに答えると、素早くトランプを手渡す。

「じゃあやろう、最初は大貧民ね♪」

 暗くなりがちな空気を振り払うように、菜月は強引にゲームを始めるのだった。



 一行を乗せた飛行機は、五時間のフライトを終えてスイスに到着した。

 上空を旋回しながら、着陸の許可を待つ。

「……本当に五時間で……通常の半分以下だぞ」

「はっはっは、まあ発明好きの爺さんが作った特別製だからな」

 驚愕の表情を浮かべるブラックに、冬麻は軽く答える。

 考えられない速さなのだが、冬麻にとっては驚くことでは無いようだ。

「空港では無いのですか?」

「君達の身柄は少々複雑だからな。直接うちの本部に来て貰った」

「あれが……正義の味方の本部」

 大きなビルを中心に、大小様々な施設が集まっていた。

 敷地は六角形の形に区切られている。

「流石、攻めにくそうですね」

「防衛力なら間違いなく世界一だろう。お、着陸許可が出たな」

 飛行機はゆっくりと高度を下げていく。

 垂直に。

「とんでも無い科学力ですね」

「はは、本音は滑走路を作るスペースが勿体ないってだけなのだがな」

 その間にも、飛行機は地面へと近づいていく。

「そろそろ着くぞ。降りる用意を……」

「もう少し、もう少し時間を。せめて一矢報いねば」

 声を掛ける冬麻に、ホワイトが必死な形相で願い出る。

「さあ菜月さん、もう一度勝負です!」

「ん~じゃあこれで最後ね。これから幾らでも遊べるし♪」

 菜月は笑いながら、トランプをシャッフルして配る。

「……すっかり打ち解けてる」

「菜月は人見知りしないから、友達を作るのが上手いんだよ」

 大貧民で大敗を喫したホワイトは、菜月にサシでの勝負を持ちかけた。

 ブラックが冬麻と話をしたかったこともあり、二人で出来るポーカーで遊んでいたのだが。

「五百戦零勝五百敗……せめて一度だけでも」

「えへへ~はい、じゃあ始めよう」

 配り終わったカードを互いに手に取り、ホワイトは唇を笑みの形に歪めた。

「くっくっく、勝利の女神は私に微笑んだようです。ノーチェンジで」

「おぉ、いい手みたいだね~。なら私は全取っ替えで」

 菜月は手札を捨てて、新たに五枚のカードを引く。

 それを裏返しのまま確認しない。

「勝負を捨てましたか? なら勝たせて貰いましょう。オープン、ストレートフラッシュです!」

 ダイヤのストレートフラッシュを、誇らしげに見せつける。

「うわぁ~凄いね。さてと、私の役は~」

 伏せたままのカードを、一枚ずつ捲っていく。

 ダイヤのエース。クラブのエース。ハートのエース。クローバーのエース。

「ふぉ、フォーカード!?」

「さ、流石ですが……私の役の方が上です」

 冷や汗を掻きながら強がるホワイト。

 全員が見つめる中、最後の一枚が捲られ、

「「ふぁ、ファイブカード!!?」」

 姿を見せたジョーカーに、ブラックとホワイトの絶叫が重なり合った。

「えへへ~私の勝ちね♪」

 ファイブ・オブ・ア・カインド。

 ルールにもよるが、ロイヤルストレートフラッシュすら上回る幻の役。

 全取っ替えでそれが入る確率など、計算したくもない。

「気に病む事はない。トランプで菜月に勝てる人間など、この世に居ないだろうからな」

「……身をもって知りました」

 ガックリ肩を落とすホワイトは、参りましたと菜月に頭を下げるのだった。



 着陸した飛行機を降りた四人。

 車で敷地内を移動し、中央のビルへと向かった。

「ここは?」

「本部の中枢施設だよ。さて、手続きをするから少し待っていてくれ」

 冬麻は一人受付へと向かい、何やら話をする。

 受付嬢が内線で何処かと連絡を取った後、小さく頷き戻ってきた。

「丁度良いタイミングだった。早速行くか」

「えへへ~、さーちゃんと会うのは久しぶりだね~」

「最上階がボスの部屋だ。案内するから着いてきなさい」

 四人はエレベーターで最上階まで移動する。

 そして、廊下の一番奥にあるドアの前に立った。

「ボス、俺です。入ります。返事はいりません」

 軽くノックをすると、返事も聞かずにドアを開く。

 ドアの向こうには、広い執務室があった。

 その部屋の主は、椅子に座って来客を待ちかまえていた。


「まったく、あんたは礼儀をしらんね。女の部屋に入る時は少し遠慮したらどうだい?」

 冬麻に悪態をつくのは、一人の女性だった。

 美しい黒髪、透き通る様な白い肌、神秘的な紫の瞳。

 寝間着の様な浴衣を雑に着崩し、気怠そうに煙管を加えている。

「そりゃ失礼。「女」の部屋に入る時は気を付けますわ」

「はぁ~、そんなんだから娘さんに嫌われるのさね」

「うう、そうなんですよ……最近メールの文章が短くなってきて……」

「菜月も久しいね。直接会うのは何ヶ月ぶりかな」

「うん、さーちゃんもお久です♪」

「元気そうで結構。そんで、そこの二人が……例の子達かね?」

 女性は値踏みするような視線を、ブラックとホワイトに向ける。

 言いしれぬ威圧感を感じながら、二人は姿勢を正す。

「初めまして、黒田雅也と申します。ブラックと言うコードネームで悪事を働いていました」

「同じく、白井京子です。コードネームはホワイトでした」

「へぇ、これはまた……」

 興味深そうに二人を見つめる女性。

「名乗らせっぱなしか、婆さん?」

「お黙り、青二才。コホン、あたしが国際正義の味方機構の頭、西園寺要さね」

 ニヤリと笑って、要は名乗る。

「まあ、大抵はボスって呼ばれるけどね。あんたらも好きに呼びな」

「それにしても、客が来るって分かっててその格好は酷いな」

「徹夜後の仮眠中だったから大目にみな。それとも、この艶姿に欲情しちまったかい?」

「黙れババア。俺は菜月一筋だ」

「もう、パパったら♪」

 ノロケモードに入り掛けた二人を、要が煙管を叩いて押し戻す。

「ったく、寝起きに胸やけさせるつもりかい」

 要はさっと浴衣を直すと、真剣な顔で一同を向く。

「……こっからは仕事モードで行くよ。では冬麻、まず報告から聞こうかね」

「オーケーボス。まず――」

 先程までの空気は何処へやら。

 引き締まった雰囲気の中、冬麻は事件のあらましを要に報告する。

「――以上が顛末です」

「なるほどねぇ、いきなり日本に行くなんて言い出すから、何事かと思ったけど」

「一応悪の組織は潰したので、活動権限内ですよね?」

「たかがD潰すのに、『闘神』と『戦女神』が出張ったから、あちこち大変さね」

「そうなの~?」

「子供の草野球にメジャーリーガーが出るようなモンだからね。日本支部はSやAが動き出したかってハチの巣を突いたような騒ぎさ。ま、一喝したら大人しくなったけどね」

 くっくっく、と人の悪い笑い声を上げる。


「まあそれは良いさね。報告は終わりとして……今度はそっちの用かい?」

「ええ、実はこの二人の事です」

 冬麻の言葉に、ブラックとホワイトの身体が強張る。

 いよいよ断罪されるのだと、覚悟を決める。

「二人とも、あらゆる処分を受け入れる覚悟はあるな?」

 無言で頷くブラックとホワイト。

 それを見て、冬麻はニヤリと笑う。

「では……『闘神』御堂冬麻と」

「『戦女神』御堂菜月の連名で~」


「「黒田雅也と白井京子の両名を、正義の味方に推薦します」」


「「…………えぇぇぇぇぇ!!!」」



凄い中途半端な所で切ってしまいすいません。

少し長くなったので、前後半で分けました。


色々話がぶっ飛んでいますが、詳しくは次回に。


正義の味方のボスは、日本人の女性です。

年齢国籍に関係なく、国連加盟国の人間であればなれます。

勿論、それ相応の実力は必要ですが。


突然勧誘を受けた、黒田と白井の運命は如何に。

ハルを巡る物語、本当の意味で、次の話で完結です。


次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ