表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/130

ハルを巡る物語9《物語は幕を閉じ》

食事会の後編です。

前回の話を読んでいないと、全く内容が意味不明だと思うので、未読の方はどうぞそちらからお読み下さい。



「……少々重苦しい話をしてしまったな。秋乃、これで満足かい?」

「うん、ありがとう」

 秋乃に礼を言われ、冬麻はだらしなく顔を崩す。

「それにしても、全部ハルのモノマネに話が収束するのだな」

「言われてみるとそうかも。じゃあ原因はハルにあるって事?」

「え、冤罪もいいとこだろ、それ」

 徹底して無罪を主張したい。

「でも確かに便利よね。動物とも会話できるし」

「ほう、なかなか面白い話だな。奈美さん、是非詳しく聞かせてくれないか?」

「えっとですね、ハルってにゃんにゃん、とか言って猫と話したんですよ」

 奈美は透明人間事件の、ビルでの出来事を話し始める。

 知っていた千景と紫音以外の面々は、興味深そうにそれを聞く。

 張本人のハルは、物凄い羞恥プレイに身を縮ませていた。

「動物と会話かぁ、素敵じゃない」

「ですよね。私も話してみたいです」

「動物の意思が分かる装置はあるが、意思疎通できる発明と言うのも面白そうだ」

 ハルをネタに、わいわいと騒ぐハピネスメンバー。

 話題は次第にハルのモノマネ自体へと移っていく。


「よく考えてみると、モノマネって不思議よね」

「確かに。ねえお兄ちゃん、モノマネする時ってどんな感じなの?」

「そう言われても、特に意識してないし……」

「自分に出来ないことが出来るのに、違和感とかは?」

「いや、無いんだよ。何か……元々出来る様に思えるんだ」

「……結局、カラーパレットとやらは、モノマネを解明出来たのか?」

 蒼井がぶしつけに冬麻に尋ねる。

「押収したデータを見る限り、無理だったようだね」

「なら……その黒田という人の娘さんは……」

 命を維持するためにかかる莫大な費用を、悪の組織のボスから貰っていた。

 それが途絶え、更に頼りにしていたモノマネの解明も失敗したと言うことは。

 ハルの言葉に、円卓に沈黙が訪れる。

「……その事だが、事情聴取した黒田から、娘さんの情報を得た」

「年齢は五歳で~、とっても可愛い女の子だったわ♪」

「会ったのか!」

 驚くハルに、冬麻と菜月は頷く。

「病院関係者からも話を聞いてな、今後の対応を決めた」

「対応って……」

「正義の味方は~特殊な事情の子供を保護する事も出来るの~。だからその子も、正義の味方で保護して治療を続けさせようと思ったんだけど~」

「だけど」

 嫌な接続詞に、ハル達はごくりと唾を飲む。

「その必要は無くなったよ」

「…………」

 治療も保護も必要なくなった。

 その言葉が意味する事を察し、ハル達は悲痛な顔を浮かべる。

「今朝……彼女は…………」

「無事手術が終わって治ったの~♪」

 全員椅子から転げ落ちた。


「はっはっは、いいリアクションだね。どうだい、今度コントでも?」

「お~や~じ~!」

「お~と~う~さ~ん!」

 額に怒りマークをつけて、ハルと秋乃は冬麻に詰め寄る。

「紛らわしい言い方すんなっ!!」

「そうよ! 凄い嫌な想像しちゃったじゃないっ!!」

「おいおい、早とちりしたのは二人だろう。それに母さんだって」

「「お母さんは良いの!」」

 理不尽な二人に、冬麻は少し凹む。

「だが、今まで治療できなかった難病なのだろう。一体どうやって」

「そうね~。天は黒田ちゃんも見放さなかったって事かな♪」

「……柚子ですね?」

 千景の言葉に、菜月はニッコリ微笑んで頷く。

「ハルちゃんが運ばれた病院に~、たまたまその子も入院してたの~」

「あそこは日本でも指折りの医療設備がある病院だものねぇ」

「でね、折角だからゆーちゃんに、その子を診て貰ったのよ」


 事情聴取後、冬麻と菜月は黒田の娘を見舞った。

 その帰り、偶然ハルの治療を終えた柚子と会い、事情を説明した。

 柚子は快諾し、娘の診断を行い、

「……治せますよ。ほぼ百パーセント」

 周りの医者達も驚かせる結論を出した。

 手術には家族の同意が必要と言うこともあり、黒田と面会出来るまで待ち、昨晩ようやく手術が行われることとなった。

 今朝まで掛かる大手術は無事終わり、娘の臓器は正常な働きを行う様になった。

 長いリハビリが必要だろうが、やがては普通の生活が送れるらしい。


「と言うわけで~ハッピーエンドで~す♪」

「な、何というご都合主義……」

「そうでないさ。黒田という男が、必死にあがいた結果だからな」

「最初から柚子さんにお願いしたら良かったのに」

「……天使か悪魔かぁ、先に出会ったのがどっちかって話ねぇ」

「そして彼は、悪魔との契約を選んだ」

「人の巡り合わせは運命と言うが、やりきれない話だな」

 しんみりする一同。

「と言いますか、柚子さん知ってたなら教えて下さいよ」

 奈美は沈黙を続ける柚子に声を掛ける。

「どうせ親父達に、驚かせたいから黙っててくれって、頼まれたんだろ?」

「………………」

 苦笑を浮かべるハルに、しかし柚子は答えない。

 それどころか、先程からピクリとも動かない。

「柚子?」

「無駄だぞ、この女気絶してる」

「「はぁ~??」」

 蒼井の言葉に間の抜けた声を出す一同。

 試しに奈美が柚子の目の前で手を振るが、反応はなかった。

「一体どうして?」

「そう言えば、先程蒼井殿が何か柚子殿に言ってから、様子がおかしかったが」

 紫音の呟きに、一斉に非難の視線が向けられる。

「ちょっと蒼井、あんた何言ったのよ!」

「気絶するほど酷いこと言ったのか!」

「女の子にあんまりじゃないのぉ!」

「事と次第によっては……」

 ざわっと殺気立つハピネスの面々。

 そのあまりの迫力に、蒼井は大慌てで弁明をする。

「ち、違うぞ。吾輩はただ、この女に教えただけだ」

「何をです?」

「この女が、『この料理美味しい、何のお肉だろ』とか言うから、『そんな事も知らないのか、それはカエルの肉だ』と教えただけだ。そしたら急にこの女が……」

「……千景さん、ひょっとして」

「柚子はカエルとか蛇とか、つまりは虫類と両生類が大の苦手です」

 美味しいと食べていた料理の正体を知った。

 しかもそれが自分の大嫌いなもの。

 どれほどの衝撃が柚子を襲ったのか、ハル達には計り知れない。

「柚子……」

「全く、とんだ言い掛かりだ。大体貴様らは何時も……ぐぶぅえぇ」

「そもそもの原因はあんたでしょ! もっとビブラートに包んで言いなさいよ!」

「……奈美、それを言うならオブラート」

 秋乃は疲れた声で、そっと突っ込んだ。



 賑やかな食事会も、そろそろお開きとなった。

「それで、お二人はこれからどうなさるのですか?」

「明日朝一番の飛行機で、スイスに戻る予定だ」

「随分急だな」

「ボスが煩いのよ~。ちゃんと報告しに来いって~」

 ほわわん、と菜月は答える。

「こっちも丁度用があるから、一度直接会いに行く」

「用?」

「野暮用だ。朝早いから見送りは結構だぞ」

 冬麻は短く答え、話題を切った。

「当分身の危険は無いと思うけど~、何かあったら直ぐ連絡してね♪」

「秋乃は何もなくても連絡してくれて良いんだぞ。むしろしてくれ」

「この親父は……」

 変わらぬ父親に、ハルは呆れ半分で呟いた。



 ハルを巡る一連の騒動は決着をみた。

 これからは、再び日常が戻ってくる。


随分長いこと引っ張ったハル編、いよいよ完結です。

ある程度救いのある終わりだったかと。


ハル編は終わりですが、この話の後日談が続きます。

視点はハピネスから、冬麻達に。

この機会に、正義の味方の話も片づけちゃおう、と言う勢いです。


次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ