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ハルを巡る物語7《チート両親登場》

千景とローズは、ハルの母親と対面を果たす。

そして、病院に運び込まれたハルの元へと向かうのだが……。


 色彩製薬ビルの周囲は、騒然とした空気に包まれていた。

 正義の味方と警察が、忙しげに動き回る。

 悪の組織摘発と言うことで、大物取りになっているようだ。


 ビルから出てきた二人を、一人の少女が出迎えた。

 栗色の大きな瞳をした、ショートカットの美少女。

 千景とローズを見て、ニコニコ笑顔で声を掛ける。

「あ~来た来た~。お疲れさまです♪」

 ぺこりと頭を下げた。

 見覚えのない少女に、千景は少し戸惑ったが、ふと気づく。

「……その声、もしかして……」

「ふふ、直接会うのは初めましてだね。御堂菜月って言います、よろしくね♪」

 眩しい笑顔を見せる菜月。

 対する千景達は驚きを隠せなかった。

「ほ、本当に……貴方が、ハル君の母君……」

「これが……高名な『戦女神』なのぉ?」

 どうみても紫音と同い年位にしか見えない。

 ハルの母親、世界でも指折りの正義の味方、どちらも連想出来なかった。


「今回はハルちゃんの為にありがとうね。本当に助かったよ~」

「い、いえ……ご子息は私達にとっても、大切な仲間ですから」

「えへへ~、そう言って貰えると嬉しいな♪」

「それでぇ、ハルちゃんの様子はどうでしたかぁ?」

 菜月の笑顔が曇る。

「良くないの。直ぐにでも治療が必要な感じかな」

「……そうですか」

「私達がもう少し早く動いていたらぁ……」

「ううん、もし二人が居なければハルちゃんは無事じゃ済まなかったかもしれない。だから二人には本当に感謝してるんだよ」

 暗くなった空気を吹き飛ばすように、菜月は再び笑顔を見せる。

「それに腕のいいお医者さんの知り合いも居るし、頼んでみるから」

「でしたら、私の仲間にとびきりの医者がおります。是非ハル君の治療を」

「本当?」

「ええぇ、見た目はともかく、『神の手』って呼ばれる程の凄腕ですよぉ」

「うわぁ~凄そう。じゃあお願いしちゃうね」

「はい、直ぐにでも。それで、ハル君が運ばれた病院は?」

「えっとね~、桜ヶ丘国際病院だよ」

 千景は頷くと、携帯で直ぐさま柚子に連絡を取る。

 詳しい事情は後で説明すると話して、病院に直行して貰った。

「直ぐ向かうそうです」

「よ~し、じゃあ私も行くね」

「私達も同行して良いかしらぁ?」

「勿論だよ♪ じゃあみんなで行こう」


 病院までは多少距離がある。

 足が欲しかったので、菜月は部下から車両を借りる。

 運転をローズに任せ、後部座席に乗り込もうとしたところで、不意に声を掛けられた。

「御堂様、どちらに行かれるのです」

「あ、みーちゃん。ハルちゃんの所だよ」

「困ります。この場の責任者は貴方なのですから」

 声を掛けたのは、美園だった。

「あら美樹。貴方が担当だったのですか?」

「……管轄範囲でここまで大騒ぎになって、私が出てこないわけ無いでしょう」

「みーちゃんが責任者って事でお願い♪」

「気持ちは分かりますが、私では正義の味方への指揮権が……」

 美園は心底困ったように顔をしかめる。

「ん~じゃあ…………お~い、がーちゃ~ん」

 菜月は事後処理をしている正義の味方達に向けて、大きく呼びかける。

 その声に気づき、一人の大柄な男が近づいてきた。

 ローズに引けを取らないがたい。

 頭はスキンヘッドに剃り上げ、丸いサングラスが威圧感を与える。

「……菜月様、お呼びでしょうか」

「うん、私これからハルちゃんのとこに行くから~、責任者やって♪」

 丸投げした。

「……承知しました。どうぞ、ご子息の元へ」

「ありがと~。警察の責任者はこのみーちゃんだから、仲良くやってね~」

「はい、報告は纏めて後でお持ちしますので。行ってらっしゃいませ」

 深々と一礼する男。

 そして唖然とした表情で立ち尽くす美園。

 そんな二人に見送られながら、菜月を乗せた車は病院へと向かうのだった。


「……さて、美園警視。今後の段取りについてですが」

「…………」

「警視?」

「……あの方は、いつもああなのですか?」

「何分自由奔放な方ですので。それに、今回はご子息が被害にあっていますから」

「そ、そうですね」

「事後処理程度で、手を煩わせる事もありません。頼りないかもしれませんが、どうぞよろしく」

「い、いえ、こちらこそ」

 ようやく冷静さを取り戻した美園は、サングラスの男に頭を下げた。

 組織構成員の逮捕、証拠の押収、施設の調査etcetc……。

 やるべき事は山ほどあるが、テンパら無ければ優秀な美園。

 的確な指示を下し、事後処理をこなしていった。



 病院に辿り着いた菜月達。

 そこで三人は、手術室の前で仁王立ちしている冬麻と出会った。

「パパ~」

「おお、菜月。そっちは片づいたのか?」

「うん、がーちゃんに任せて来ちゃった♪」

「そうかそうか、岩田君なら俺達よりよっぽど上手くやってくれるだろう」

 胸に飛び込んだ菜月を抱きしめながら、冬麻は豪快に笑う。

 その様子を、呆然と見つめる千景達。

「ん、菜月、そちらの方々は?」

「えっとね~、ハルちゃんが働いているハピネスの人よ~」

「おお、君達が」

 菜月を降ろし、千景達に向き合う冬麻。

「お初お目に掛かります。便利屋ハピネスの所長、柊千景と申します」

「同じく、ハピネス社員のローズですぅ。お二人のご勇名はかねがねぇ」

「ほう、これはまた……。いや、失礼した。私は御堂冬麻、此度は愚息が迷惑をかけた」

 冬麻は深々と千景達に頭を下げる。

 先程の菜月と同じようなやり取りをし、話題はハルの事に。


「それでパパ~、ハルちゃんはどうなの?」

「うむ……ここは隠さず言うが、あまり芳しくない状態の様だ」

 冬麻は渋い顔で答える。

 まず、血液が致死量ギリギリまで抜かれていた上、多量の薬物投与。身体のあちこちに、人体実験と思われる傷がくっきりと残っていた。

「命は大丈夫だろうが……後遺症が残るかもしれん。最悪、日常生活に影響が出るだろう」

「…………」

「な~に、そんな顔しないでくれ。知り合いの医者に頼んで、意地でも完治させてみせるさ」

 ニカっと笑みを浮かべる冬麻。

 動揺を見せない姿が、巨漢と相まって安心感を与える。

「確か、ドイツで闇医者してるあいつが暇そうにしてたな。取り敢えずそいつを引っ張ってこよう」

「その事ですが……私どもの仲間に、腕利きの医者が居ます」

「是非ハルちゃんの治療を任せて貰えませんかぁ?」

「なんでもね~、『髪の毛』って呼ばれてるらしいわよ~」

 柚子涙目。

「いえ、正しくは『神の手』でして……」

「ほう、そこまでの医者が居るとは僥倖だ。是非お願いしたいな」

「ここに来るよう連絡してあるのでぇ、間もなく来る頃かとぉ」

 その時、千景達の元に近づいてくる足音が聞こえてきた。


「二人とも~来たよ」

「待っていましたよ、柚子」

 現れたのは、小さなお医者さんこと、和泉柚子だった。

「はあ、はあ、急いでこいって言うから来たけど、何があったの?」

「ええ実は……」

 千景はざっと事情を説明する。

 細かい所は端折り、ハルが危険な状態だと言うことを伝える。

「事情は分からないけど、ハルさんが大変なのね」

「今、そこの手術室で治療を受けています」

「うん、任せて。全力で挑むわ」

 柚子は気合いを入れると、手術準備室へと入っていった。


 無言でその様子を見ていた冬麻と菜月。

「不安に思われるかもしれませんが、ああ見えて腕は超一流です」

「ええ。外見で判断しないで下さいねぇ」

 二人に言われ、冬麻と菜月は一瞬キョトンとした後、直ぐさま微笑む。

「はっはっは、心配などしていないよ」

「うん♪ あの子凄いね~。私達の知り合いよりも腕が良いかも」

 予想外の反応に千景達は驚く。

 大抵は、柚子の姿を見て不安を抱くのだが。

「仕事柄、人を見る目はある方なんだ。一目で分かったよ、信頼に足る人物だと」

「ハルちゃんは友達に恵まれてるわね~」

「勿論、君達も含めてだが」

 笑いかける冬麻に、恐縮です、と千景達はお辞儀をする。


 一同が見守る中、ハルの治療は続けられる。

 手術中のランプが消えたのは、それから数時間後の事だった。


冬麻と菜月、この二人が出てくると途端に空気が緩みますね。

ここから物語は、シリアスから脱却していきます。


正義の味方については、次回以降簡単な説明が入ります。

その時後書きで補足させて頂きます。


ハルの状態は、詳しく書くと重くなるのでスルーの方向で。

結構酷い実験され、通常なら日常生活復帰できない位のダメージを負っています。

まあ、この小説にはチート医者が居るので、問題は無いのですが。


次はこれまでの空気を振り払うべく、和やかな話となります。

今まで触れなかった部分も、少し紹介する予定です。


次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。



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