ハルを巡る物語2《カラーパレット》
実験体、ハルの拉致に成功したカラーパレット。
大仕事をやってのけた黒田だったが……。
色彩製薬ビル。
その地下エリアに、カラーパレットの本拠地はあった。
攫ったハルは、意識のないまま研究者達に引き渡される。
直ぐにでも実験が行われるだろう。
ブラックはその様子を確認してから、社長室へと向かった。
ノックを二回し、相手の許可を得てから、
「……失礼します」
ブラックは静かにドアを開けて入室した。
「来たか黒田……いやブラック」
「はい、ご報告に参りました」
社長室には、会長と社長の二人がブラックを待ちかまえていた。
「随分待たせてくれたんだからよぅ、少しはマシな報告するんだろうな?」
社長が相変わらずの挑発的な口調で尋ねる。
「はい、先程の作戦で計画は最終段階に入りました」
「例の試験体、もったいぶっていたわりに、やけにあっさり手に入ったでは無いか」
「手前がサボって良い証拠だろうが」
「……返す言葉もございません」
ブラックは頭を下げて謝罪する。
勿論そんなことはない。
一つのミスも許されない緻密な計画を立て、それを完璧にこなす。
あらゆる事態を想定し、奇跡的とも言える好機を逃さなかった。
褒められこそすれ、罵倒される要因など欠片もない。
このやり取りで、二人がお飾りである事が改めて浮き彫りになった。
「それで、見通しはどうなんだ?」
「既に実験は始まっております。予定では七十二時間以内に終了するかと」
「三日も掛かるのかよ。休まずやればもっと早く出来るだろうが」
「全員不眠不休で作業にあたっての時間です」
勿論嘘だ。
三日も不眠不休で作業すれば、効率は落ちるしミスも出る。
納得させるためそう言ったが、実際は交替で休憩を取るシフトを組んでいる。
限界まで働くことが、必ずしも良い結果を生むとは限らないのだ。
「まあ良い。それで、邪魔者は入らないだろうな?」
「……最大限の配慮をしました。三日は恐らく持つかと」
普通なら誘拐後、何もアクションを起こさなければ、三日という時間は守られる。
だが、今回の相手は普通じゃない。
ブラックの予想を超える可能性も否定できないのだ。
「てかよ、三日過ぎたら正義の味方が来るんだろ? それはどうすんだよ」
「実験が完了すれば、悲願であった最強の兵士が誕生します。恐れるに足らずかと」
「くっくっく、そうだな……いよいよ我らが世界を牛耳る日がやってくるわけだ」
卑しい豚のように笑う会長。
その様子にブラックは内心毒づくが、表情には出さない。
「……では、私は業務に戻りますので」
「あん? 会社なんて放っておけば良いだろうが」
「会社経営に異常が出れば、そこから発覚する可能性もありますので」
本音を言えば、実験に専念したい。
だが、ブラックが居なければ色彩製薬は成り立たない。
自然を装うためにも、ブラックは通常業務をせざるを得ない。
一人の力に頼る泣き所だった。
社長室を後にしたブラックは、オフィスの自分の机に座る。
山のように詰まれた書類。
平日に数時間席を外しただけで、このざまだ。
可能であれば、周囲の動きや正義の味方とハピネスの動きを探りたかったが。
「……やむを得ないか」
業務を滞らせる訳には行かない。
ブラックは大きく息を吐くと、書類の山に挑んでいった。
偽装工作は完璧な筈だった。
犯行現場を誰にも目撃されず、現場の隠蔽も終えている。
正義の味方の目も、三日程度なら欺けるだろう。
急用で出かけると、でっち上げたメモをドアに張り出した。
これで隣人の少女を欺けば、最大の懸念だったハピネスも事態に気が付かない。
完璧な筈だ。
だがしかし、事件というのは思いも寄らぬ所で露見するもの。
何せ人というのは、何故かその日に限って普段と違う行動をとるものだから。
今のところ、カラーパレットの計画通りに事が進んでいます。
黒田と言う男、それなりに出来る男です。
それに比べて、会長と社長はとことん駄目な奴。
立場はNo1.No2ですが、実際組織を仕切っているのは黒田です。
今現在、ハルの拉致に気づいている人は、カラーパレット以外に居ません。
ハルの運命は如何に。
次回もまたお付き合い頂ければ幸いです