俺があいつであいつが俺で?(4)
中身が入れ替わってしまった、ハルと奈美。
それを戻す装置を、蒼井が完成させたのだが……。
「はっはっは、待っていたぞ!」
まるでラスボスの様な台詞で、蒼井はハルと奈美を出迎えた。
こけた頬と目の下の隈から、相当急ピッチで作業したのが伝わってくる。
「蒼井大丈夫なのか……あんまり寝てないみたいだけど」
「ふふふ、これほど興奮した発明は久しぶりだった。睡眠など最低限で充分だ」
「……蒼井、私達のためにそこまで……」
ちゃうちゃう、とハピネス全員が首を横に振った。
「それで、元に戻す装置は出来たのか?」
「くく、見るが良い。これが吾輩の発明した『入れ替えちゃん1号』だ!」
蒼井は誇らしげに、発明品をお披露目した。
現れたのは、銀色のヘルメット状の機械。
複数のコードで、二つのヘルメットと端末らしき機械が繋がっていた。
「……これ?」
「ああ。これを被った状態で起動させれば、見事中身を入れ替えられるのだ!」
「何か凄い胡散臭いわね」
奈美の言葉にハルも同意する。
そもそも何が入れ替わったのかも分からないのに、果たして戻せるのだろうか。
「二人とも、気持ちは分かりますが、今は他に選択肢がありません」
「失敗のリスクが少ないしぃ、駄目元で試してみたらぁ?」
「万が一の時は、私が全力で治療します」
「虎穴に入らずんば、と言う奴だな」
励ましの言葉を掛ける面々。
微妙に不吉なことを言っているような気もするが。
「ま、選択肢が無いってのは確かだし、やるか」
「ええ」
頷きあい、ハルと奈美はヘルメットを装着しようとした。
のだが、千景が待ったを掛ける。
「その前に、少し良いですか?」
「何かありました?」
「確かめたい事があります。紫音、あの幽霊が見える術を使ってください」
「む、構わないが……」
紫音は首を傾げながらも、霊的な力を増幅する術を使った。
そして、
「……あ~久しぶりに見えた」
ハルは苦笑しながら呟いた。
「奈美は何も見えませんか?」
「ええ、まるっきり何も変わりません」
「……これは興味深い」
「どういうことぉ?」
「ハル君の身体に入った奈美はモノマネ出来ず、奈美の身体に入ったハル君がモノマネ出来た」
つまり、と千景は続ける。
「モノマネは身体的能力ではなく、魂や心などのソフト面による能力だと考えられます」
「えっと、それが何か?」
「……いえ、ただ少し気になっただけです。時間を潰してすいません」
そう言うと、千景は二人にヘルメットを着けるように促した。
ハルと奈美は、銀色のヘルメットを頭に装着した。
「準備は整ったな。では始めるとするか」
蒼井は端末らしきものを操作し、装置を起動させる。
ブゥゥン、という駆動音がなり始めた。
「吾輩の発明の力、存分に見るが良い。それでは、システム解放!」
ポチっと蒼井が最後のキーを押す。
すると、ヘルメットから明らかにやばそうな黒煙が立ち上る。
「お、おい蒼井。これ……大丈夫なのか?」
「……と、当然だ」
「今の間は何だよ!」
「気にするな。とにかく今、装置を停止させるから……」
「やっぱり駄目じゃない!!」
「奈美、とにかくこれを外して……」
「あ~止めておけ。今外すと、下手すれば廃人だぞ」
「「馬鹿野郎ぅぅぅ!!」」
こうしている間にも、黒煙はどんどん勢いを増していく。
「……ここまでですね。総員退避! 直ちに事務所の外に退避を!」
「「イエス・マム!」」
「止むを得まい。ここは一度引いて……」
「「あんたは逃げるなぁぁ!!」」
この突っ込みが、逃げ出す足を遅らせた。
そして、
ドッカ~ン
事務所は爆発した。
現場は酷い有様だった。
机やパソコンは無惨に破壊され、建物のあちこちに亀裂が走る。
窓ガラスは全て割れ、天井からはコンクリートの破片が落下していた。
「う、うう……」
全身の痛みで、ハルは意識を取り戻した。
根性で身体を起こそうとするが、思うように動かない。
「何てこった……」
窓から煙が逃げたお陰で、視界が徐々に晴れていく。
そうして目に入った光景に、ハルは呆然と呟いた。
以前の面影など欠片も残さぬほど、破壊された事務所。
そして、吹き飛ばされた所員達が床のあちこちに倒れていた。
「とにかく……救急車を…………」
何とか立ち上がろうとして、ハルは動きを止めた。
床に着いた自分の手が、明らかに子供の物だったのだ。
「……まさか……」
恐る恐る視線を自分の身体へと向ける。
子供用の、青いワンピース。
ついさっきまで、紫音が着ていた服だった。
「今度は紫音かぁぁぁぁ!!!」
絶叫するハル。
他の面々を意識を取り戻して、同じようなリアクションをする。
「これは……剛彦の身体?」
ローズには千景が。
「あらぁ、私ドクターになっちゃったぁ!」
蒼井にはローズが。
「今度は柚子さんなの?」
柚子には奈美が。
「千景の身体か……やはりただ者では無いな」
千景には紫音が。
「……この身体、これこそ私が求めていた物……うう」
奈美には柚子が。
事務所員達も、それぞれが入れ替わって居るようだ。
原因は考えるまでもなく、
「「あいつは誰だ!!!」」
蒼井賢、その人だった。
大混乱に陥ったハピネスだが、
「……全員冷静になりなさい! これより私の指示に従って行動して下さい」
千景の一喝により、落ち着きを取り戻した。
ローズの体躯もあり、恐るべき迫力だ。
「まずこれから、誰が誰と入れ替わっているのかを確認します」
「事務員は関係筋に連絡を。警察と消防には、ガス爆発で誤魔化しなさい」
「柚子は信頼できる病院に話をつけて、治療の段取りを」
手早く指示を出す千景に、ハル達は直ぐさま応える。
こう言うとき、具体的に何をすべきか指示が出ると動きやすい。
「千景さん、俺達は?」
「この事件の張本人に、早急に爆発しない装置を作らせる手伝いを」
「了解です。思い切り殴ってやりますね」
「……元に戻ってから頼む」
なにせ、蒼井が入れ替わったのは自分の身体なのだから。
数日後。
蒼井が作った装置によって、全ての入れ替わりは元通りになった。
「……ハピネス始まって以来の大損害です」
「事務所は全壊、備品や器具も大破、怪我人多数、これは酷いわねぇ」
「幸い、データは別の場所にリアルタイムでバックアップを取っているので無事でしたが」
「当分は営業停止ねぇ」
千景は頭痛を堪えるように、頭を押さえる。
「入れ替わりが戻ったことだけが、唯一の救いですけどね」
「取り敢えずぅ、事務所の復旧を急がせるわぁ」
「頼みます。経費に糸目はつけません、超特急工事でお願いしますね」
「ドクターの貯蓄全部使い切るつもりでぇ、前より良い事務所にしてみせるわよぉ」
こうして、入れ替わり事件は解決した。
信じられないほど、甚大な犠牲を払って。
まさかの爆発+全入れ替わりオチでした。
因みに、ハピネス所員は全員軽傷で済んでいます。
さり気なくタフな奴らです。
入れ替わりは戻りましたが、事務所が全壊してしまいました。
当分活動休止をせざるを得ない状況です。
次の話から、ほぼギャグ無しのシリアス話が長く続きます。
この小説に合わない話ですが、進行上必要と言うことで。
次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。