俺があいつであいつが俺で?(3)
入れ替わりから数日。
ハル達は、病院に訪れていた。
入れ替わりから三日後。
ハルの身体、つまり奈美の意識が戻ったと連絡があった。
急ぎ駆けつけたハル達を見て、
「あたしがそこにいるぅぅぅぅ!!」
お約束通りのリアクションをしてくれた。
動揺しまくりの奈美に、千景が根気強く説明をする。
「……と言うわけです。分かりましたか?」
「はぁ……まだ信じられない気持ちですけど……流石に自分が目の前にいるんで」
「俺も同じ気持ちだよ。自分が女言葉で話す姿は、結構きついな」
「ハルちゃんの声は元々女の子っぽいしぃ、違和感は無いけどねぇ」
千景と柚子が頷き賛同する。
何とも複雑な気分だった。
「それで奈美、身体はどんな感じですか?」
「頭が少し重いくらいですね」
「ハルちゃんの身体の居心地はどう?」
「……何というか、凄い頼りない感じがします」
サクッとハルの胸に言葉の刃が突き刺さる。
「奈美さんの身体が規格外なだけですから、あまり気にしちゃ駄目ですよ」
「そうよぉ。奈美ちゃんと比べたらぁ、誰だってF1と軽自動車位の違いがあるものぉ」
「ありがとうございます……半分慰めになってないけども」
心で涙した。
「ドクターの装置は、順調に開発が進んでいます」
「数日中には完成するみたいよぉ」
「奈美さん……ハルさんの身体も、数日中には退院できる位回復してます」
「本当にか? 頭蓋骨陥没したんだろ?」
「ええ。信じがたいのですが、異常なほど回復が早くて、もう外傷は完治してるんですよ」
そう言えばいつの間にか、ICUから一般病室に移されていた。
ハルの身体は一般人そのもの。
だとすると、その回復力の源は……中の人しか考えられない。
((奈美、恐ろしい子!))
某演劇先生の様に、ハル達は奈美を見つめるのだった。
暫く話をして、ハル達が引き上げようとした時。
「あのね、ハルはちょっと残ってくれる?」
「ん?」
「話したい事があるの」
みんなの前では言いづらいのだろう。
ハルは頷き、千景達に残ると告げた。
「では私達は先に引き上げますね」
「奈美ちゃん、お大事にねぇ」
「ご自愛下さい」
三人は病室を後にした。
静かになった病室に、ハルと奈美が残された。
「それで、話って何だ?」
「……あのね…………ごめんなさい」
奈美は頭を下げて謝罪した。
「急になんだよ」
「だって、私のせいでハルの身体怪我させちゃったから」
「……いいよ、許す。もし謝らなかったら、少しお説教する所だったけどな」
少し茶化すようにハルは笑う。
「それに、ある意味おあいこだしな」
「ん?」
「ああ、こっちのことだ。まあもうすぐ戻れるんだし、綺麗さっぱり忘れようぜ」
何時までも気にしていては仕方ない。
不幸な事故だったとして、水に流すのが一番だ。
「ありがとうね、ハル」
「どういたしまして」
戯けて礼を返した。
その後軽い雑談を交わしていると、
「……あの~ハル。一つ聞いても良い?」
「構わないけど」
「ハル……私の身体に変なことしてないわよね?」
「アホか。するわけ無いだろ」
「……そんなに魅力無いかな?」
「いや充分魅力的だが……ってそう言う話じゃないだろ! 常識で考えてくれ!」
変な流れになった話を強引に引き戻す。
「俺はそんなに信用が無いか?」
「違うの。違うんだけど……やっぱり気になるし」
「無宗教だから神には誓わないけど……やましいことは何もない。信じて欲しい」
「……うん、変なこと聞いてごめんね」
真っ直ぐ見つめるハルの眼差しを奈美は信じた。
身体は逆なので、傍目には奇妙な光景だが。
「あ、それじゃあお風呂とかトイレとかは……」
「それはある程度諦めて欲しい」
ハルだって相当辛かったのだから。
「そう、よね。仕方ないものね……あ、部屋とか学校は?」
恥ずかしさを誤魔化すように、奈美は話題を変える。
「部屋はお前のを使ってる。何処に人の目があるか分からないしな」
「そっか……学校は?」
「申し訳ないが、秋乃にはばれた。他の人には気づかれてないと思う」
「秋乃に……ばれたんだ」
「すまん。初日にいきなり突っ込まれた。あいつの勘の良さはお前レベルだな」
「ハルの事に関してはね。まあ秋乃なら大丈夫だと思うけど」
複雑な表情の奈美。
戻ってからどうなるかを考えているのだろうか。
「もし何かあったら言ってくれ。俺にも責任はあるから」
「……うん、ありがとね」
「さて、そろそろ俺も帰るよ」
「……また来てくれる?」
「ん、ああ。一応毎日顔を出すつもりだけど」
「そっか……それじゃあまた明日ね」
「ああ、また明日」
数日前なら、毎日行っていた挨拶。
久々にそれを行ったハルは、少しだけ心に暖かいものを感じた。
病室を後にして、アパートへと帰る。
大切なものは無くしてから気づく。
ハルはその言葉を、改めて実感するのだった。
数日後、蒼井の発明が完成したと報告が入った。
いよいよ、元に戻る日がやってきた。
今回一番複雑な心境なのは、奈美なのかもしれません。
恋心を抱いている男が自分の身体に……。
口には出しませんが、色々と思うところがあったかと。
入れ替わり編は次回で完結です。
ハルの学校生活も書いてみたのですが、凄まじく長く間延びしたのでカットしました。ハルと秋乃を組ませると、ホントろくな事にならないので。
次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。