表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/130

男嫌いを治しましょう(1)

ハルに用意された依頼。

それは非常に厄介なもので……。


 それは、肌寒いある日の事だった。

 いつものようにハピネスの事務所にやってきたハル。

 そしていつものように掲示板の依頼を吟味していると……。

「?? 何だこれ?」

 張り出された一枚の依頼用紙に、思わず首を傾げた。


【急募】

 依頼内容:治療の協力

 受諾資格:見た目が男らしくなく、耐久力と忍耐力のある男性

 依頼期間:頑張り次第(最短一日~最長でずっと)

 成功報酬:要相談

   追記:ハル君にピッタリだと思います。是非受けて欲しいです。


 明らかに他の依頼とは毛色が違っていた。

 何というか、非常に抽象的な内容で具体的な事が何も書いていない。

 それ以前に名指しで指名とはこれ如何に?

「あらハル君。早速その依頼に目を付けるとは、流石ですね」

 困惑するハルの背後から声が掛けられる。

 ゆっくり振り返ると、そこには微笑みを浮かべた千景が立っていた。

「千景さん……これ一体何なんですか?」

「見ての通り緊急の依頼です。ハル君以外に適任者が居ない、ね」

「あのーどう考えても怪しいので、パスする方向で検討してますけど」

「別に構いませんよ」

 予想外の答えだった。

 てっきり無理矢理押しつけられると思っていたのだが。

「私達は依頼を提示するだけ。依頼を受けるかどうかはハル君が決める事ですから」

「そ、そうですか。じゃあ今回は見送りと言うことで……」

「ただ」

「……ただ?」

「いえ、ただこの依頼人は私なんです」

 嫌な汗がハルの頬を伝う。

「勿論断るのも自由ですけど……」

 笑顔で圧力を掛けてくる千景。

 言葉とは裏腹に、断ったらどうなるか分かってるな? と暗に告げている。

「話くらいは聞いてくれたら嬉しいな、と思ったりするわけですね」

「………………はい」

 断ることなど出来るはずがない。

 ハルは小さく頷くのが精一杯だった。



「それで、俺にピッタリの依頼って何なんです?」

 ソファーの置かれた応接スペースに移動したハルと千景。

 手元のお茶を啜りながら、ハルは尋ねる。

「実は奈美の事なんです」

「奈美? ああ、早瀬の事ですか」

 一瞬誰のことか分からなかったが、直ぐさま隣室の少女を思い出す。

 そう言えばあれから一度も遭遇していないような気がする。

「ええ。あの子が男性恐怖症なのは……知ってますね」

「そりゃまあ」

 いきなりぶん投げられ、床に叩き付けられたのだ。忘れるはずもない。

「……なるほど。話が見えてきましたよ」

「話が早いのは助かります。答え合わせをしても?」

「俺にあいつの男性恐怖症を治せっていうんでしょ?」

「グッド。補足するなら、恐怖症を治す手助けをして欲しい、と言ったところでしょうか」

 千景は満足げに頷きながら、ハルの言葉を肯定する。

 口に含んだお茶が一気に渋くなった気がした。

「えっと千景さん。聞きたいことがあるんですけど」

「答えられることなら、お答えしましょう」

「まず、何で俺を指名したんですか?」

「条件に当てはまると言うのもありますが……一番は可能性ですね」

 千景の言葉にハルは首を傾げる。

「どうもハル君はあの子にとって、普通の男と違う存在のようです」

「思い切り投げられましたけど……」

 それも意識を失うほど強く。

「あの子にとってはギリギリまで手加減してました。これは初めてのことです」

「あれで……ですか?」

「昔不用意にあの子をナンパしようとした男が居まして……」

「まあ外見は良いですからね。それで?」

「二度とナンパが出来ないような顔になりました」

 ゾッと背筋が凍った。

「あの子とは長い付き合いですが、初めてです。男を攻撃するときに手加減したのは」

「……よく今まで警察のご厄介にならなかったですね」

「まあ、まだ未成年ですから。日本の法律は子供に甘く出来てますので」

 さらりと危険な発言をする千景。

 どうやらハルが思っていた以上に、壮絶な過去があったようだ。

「そんな訳で、ハル君なら何とか出来るのではないかと思ったのです」

「俺に死ねと?」

「成功すれば大丈夫です。正に生か死かです」

 言葉とは裏腹ににこやかな笑みを浮かべる千景。

 だが纏った空気は真剣なまま。

 間違いない。

 この人は本気で言っている。

 そして同時に悟る。

 この依頼は今から断ることなど、出来はしないと言うことを。


「ハル君を指名した理由は以上です。他に何かありますか?」

 依頼を断れない以上、やるべき事は一つ。

 何としても成功して我が身を守るだけだ。

 その為にもここでの情報収集は重要だ。

「えっと、あいつが男性恐怖症になった原因とか……」

「それは直接本人に聞いてください。プライバシーに関わりますので」

 正論だ。理不尽ではあるが。

 情報収集は第一歩を踏み外した。

「個人的な情報も同様の理由でお見せできません。申し訳ないですが」

 情報収集は第一歩を踏み出す前に終わりを告げた。

「手段は全てハル君に任せます。お願い出来ますか?」


 1.分かりました。

 2.何とかやってみます。

 3.頑張ります


「な、何て根性のない選択肢だ……」

「どうかしましたか?」

「いえ、こっちの話です。えっと……2かな」

「引き受けて貰えるんですね。ありがとうございます」

 ありのまま今起こった事を言う。

 選択肢を頭に思い浮かべた。でも声に出してはいない。

 ひょっとして……。

「嫌ですよ。さとりじゃあるまいし、心なんて読めるわけないじゃないですか」

 本当ですか?

「ええ。勿論です」

 ……まあいい。喋る手間が省けて儲けもの、と思おう。うん、それがいい。

「ポジティブな人は好きですよ」

 微笑む千景に、ハルはこれ以上深く考えることを止めた。



 かくしてハルの、「奈美の男性恐怖症を治しちゃおう大作戦」は幕を開けるのだった。



タイトル通り奈美の話です。


これからはキャラクター紹介編に入ります。

予定している新キャラも順次登場させていく予定です。

と言いますか、彼らが登場しないとなかなか馬鹿話をやり辛いので。


一通り登場人物が揃ってからが、ようやくスタートが切れます。

投稿ペースを少し上げて参ります。


これからもお付き合い頂ければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ