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怪盗コレクト再び(3)

いよいよ怪盗との再戦の時。



 時計の針が動き、正午を告げる鐘が鳴り響く。

 理事長室の緊張感が極限まで高まる中、鐘は鳴り続ける。

 そして、

 パリィィィン

 派手な音を立てて、窓ガラスが割れた。

 同時にゴトリとカーペットに何かが落ちる音がする。

「来ますよ!」

 千景の言葉とほぼ同時に、室内に白煙が満ちた。

「発煙筒か?」

「各自警戒を続けてください!」

 視界が失われたが、身体の自由が失われた訳ではない。

 ハル達はこの後やってくるであろう、怪盗の登場に備えて身構えた。

「はははは、美園君、そしてハピネスの諸君、ようこそ我のショーへ」

 白煙の中、怪盗コレクトの声が響く。

 比喩ではなく、本当に部屋中に声が響き渡っているのだ。

「これ、マイクでも使ってるのか?」

「恐らく位置を特定できない様にでしょう」

「発信源は、壁のスピーカーからですね」

 部屋の壁には、校内放送用のスピーカーが設置されている。

 声は確かにその方向から聞こえてきた。

「見事私の招待に応じてくれて、嬉しく思うよ」

「コレクト! 姿を見せなさい!」

「ふふふ、これもショーの一環さ」

 怒鳴る美園に、しかしコレクトは平然と答える。

「それではご堪能あれ。この怪盗コレクトの奇術を!」

 コレクトの言葉が終わると同時に、

 ジリリリリリリリリ

 目覚ましをパワーアップした様な音が、理事長室に響き渡った。

「ぐっ、これは……」

 耳障りの音が、大音量でハル達に襲い掛かる。

 慌てて手で耳を押さえるが、僅かに音を押さえられただけで、根本的解決にはならない。

 煙と音の合わせ技で、コレクトは視覚と聴覚、そして両手の自由を奪った。

 やがて、けたたましい音が止む。

「と、止まった?」

「くっくっく、既に輝きは我が手中に……」

「馬鹿な……不可能だ!」

「不可能を可能にしてこそ奇術。さて、此度のショーはこれにて終幕だ」

「巫山戯るな! 姿を見せなさい!」

「ふっ、さらばだ!」

 怪盗コレクトの言葉と共に、窓ガラスが再び破られた。

 恐らく外に逃げたのだろう。

「おのれぇぇ、逃がしはしませんよ。こちら美園、コレクトが外に出ました」

 美園は携帯で、外に待機していた警官達に指示を送る。

「全員警戒態勢。ネズミ一匹逃がさぬように!」

「……私です。警官の皆さんと協力し、コレクトの行方を確認しなさい」

 千景もローズに連絡をする。

 この攻防は、コレクトに軍配が上がったようだ。



 煙が消え、ようやく視界が戻ってきた。

「全員無事ですか?」

 千景の問いかけに、ハル達は頷いて答える。

 理事長も含め、負傷した者は誰もいないようだった。

「それよりも千景、早く「天使の肝臓」の確認を」

「ええ、分かっています。理事長、お願いできますか?」

 千景に促され、理事長は引き出しから箱を取りだし、蓋を開けてみせる。

 そこには、先程と同じく布に包まれた宝石が入っていた。

「……やっぱりブラフだったのかな?」

「紫音、どうですか?」

「…………やられたな。これはさっきの宝石とはまるで別物、いや宝石ですら無い」

「イミテーションですか」

「そんな馬鹿な……一体コレクトはどうやって……」

 美園は信じられない、と驚愕の表情を浮かべる。

 ハル達も同じ気持ちだ。

「千景、貴方移動しましたか?」

「いいえ、最初から最後まで、引き出しの前に立っていました」

「それは私が証明しましょう。間違いなく、この方は私の隣にいましたよ」

 理事長の言葉で、千景が持ち場を離れていない事が証明された。

 だとすれば、引き出しを開けて入れ替えるのは不可能だ。

「ではどうやって入れ替えたと……」

 美園の呟きに、答えられる者は居なかった。


「……ええ、では追跡を行って下さい。決して見失わないように」

 美園は通話を終えると、ハル達に向き合った。

「学校の敷地から空に逃げる、小型の気球があったそうです」

「逃走用ですかね」

「恐らくは。今追跡班を編制し、行方を追っています」

「剛彦とドクターも、その気球を確認しました。位置的に、そこの窓の付近から飛んだかと」

 状況を整理してみる。

 コレクトは、窓の外から発煙筒の様な物を投げ込み、視界を悪くした。

 その後室内に侵入し、大音量で聴覚を封じ、その間に何らかの方法で宝石を入れ替える。

 後は窓から外に出て、用意してあった気球で外に脱出。

 これが現状で推察される、コレクトの行動だ。

「……そもそも、コレクトはどうやって学校に侵入したんでしょうか」

「奴は変装の達人。事前に女学生に化け、中に入ることは容易でしょう」

 美園は全く忌々しい、と吐き捨てる。

「捕まえられるでしょうか?」

「昼間なら見失う心配も無いと思うが」

「……ビルの屋上に着陸、その後変装して街に移動すれば、恐らく発見は困難だと思います」

 柚子と紫音に、千景は冷静な見解を告げる。

 気球はあくまで、この包囲網を破るため。

 少しでも目を離せば、コレクトならば容易に逃げ切れるだろう。

「て事は……俺達は失敗したんですね」

「…………」

 落胆したハルの言葉に、千景は無言。

「……申し訳ありません。此度の失態、全て私の責任です」

 美園は様子を見守っていた理事長に、深々と頭を下げた。

「ふふ、構いませんよ」

 しかし理事長は穏和な笑みを崩さず言った。

「皆さんが全力を尽くしたのは、私にも伝わりました。その結果奪われたのなら、それは怪盗が一枚上手だっただけの事。それを責めるつもりはありません」

「…………くっ」

 その言葉に、ハルは思わず拳を握りしめる。

 この人の信頼に応えられなかった自分に、腹が立って仕方なかった。



まさかの敗北……。

GAMEOVERの文字が、目の前に広がります。


とまあここで終わっては、あまりに後味が悪いので。

そろそろ反撃と行きましょう。

怪盗コレクト編、次で完結です。


次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。


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