怪盗コレクト再び(2)
予告状を解明し、ハピネス一行と美園は予告の場所へ。
そもそも本当に予告状が解明出来たのだろうか……。
怪盗コレクトが予告した日の朝。
千景率いるハピネス一行と美園は、予告された場所にやってきた。
「あの~千景さん、本当にここなんですか?」
「ええ、私の考えが正しければですが」
一行がやってきたのは、私立白百合女子高校だった。
「汚れを知らぬ花達、と言うのは女子生徒を指していると思われます」
「それを育むのは学校、秘密の花園は女子高を意味してるわけね」
自信満々に美園は千景の言葉を引き継ぐ。
「でも、他にも女子高はありますよね。何でここなんです?」
「花、と言う言葉を数回使い強調しているのは、場所を特定させるためです」
「私の管轄内で、学校名に花が入っているのはこの白百合女子高校だけ」
「どうして美園ちゃんの管轄内って言い切れるのぉ?」
「でなければ、わざわざ私に予告状を送ってきませんから」
千景と美園の説明に、ハル達はなるほどと頷く。
「光と闇は昼と夜の比喩、等しくなるとは昼夜の時間が等しくなる秋分を示します」
「だが実際の秋分はまだ先だろ。今日はあくまで祝日と言うだけだが」
「子らが身を休める、つまり学校が休みの祝日だぞ、と丁寧に忠告してますので」
「随分優しい怪盗さんですね」
「彼はある意味愉快犯ですので、相手がいなければつまらないのでしょう」
「確かにな。予告を出したが誰もいません、では虚しすぎる」
蒼井は両手を組み、うんうんと納得する。
何か共感する所があるのだろう。
「そしてここの理事長は、「新藤麻里亜」。聖母の名と同じです」
「事前に話をしたところ、やはり狙われるに値する宝石を所持していました」
「今度は悪魔の横隔膜とかですか?」
「天使の肝臓と呼ばれる、大型のルビーです」
凄い健康そうですね。
意外と脂肪肝だったりしたら面白いが。
「よって、本日正午、ここの理事長の宝石を奪いにコレクトが来ると結論づけました」
「私達は以前のように協力し、怪盗コレクトから宝石を守り抜くことが依頼達成条件です」
美園と千景の言葉に、ハル達の緊張感が高まる。
前回の件で、怪盗コレクトの凄さは知っている。
果たして今度は守りきれるのだろうか。
「それで千景さん、中に入らないんですか?」
「ハル君、ここを何処かお忘れですか?」
「白百合女子高校は、あらゆる状況においても男子禁制。今回も例外ではありません」
「つまり、中に入れるのは女性だけです」
「……って事は」
ハルは周囲を見回す。
ハピネスで参加しているのは千景、ローズ、柚子、蒼井、紫音、ハル。
警察は美園と数名の婦警さんが居るだけだ。
「うちからは、千景さんに柚子と紫音だけか…………あれ?」
指で数えながら違和感に気づいた。
「奈美は何処に?」
「……本人の強い希望により、今回は不参加です」
「どうしてですか。こう言うときこそ、あいつの力が必要なんじゃ」
「ここ、バイト禁止なんですよ」
あ~、とハルは納得した。
のこのこ参加してしまえば、無断のバイトがばれてしまうと。
「ですので、うちからは私と柚子、紫音、そして……」
「……どうして俺にカツラを差し出すんです?」
「服はそれで問題ありませんから」
「いえ、そうではなくて」
「剛彦とドクターは、男性警官達と協力して、外から警戒をお願いします」
「あの、話を、話を聞いてください」
「では行きますよ。後二時間ほどしかありませんので」
「話を聞けぇぇぇぇ!!」
ハルは強引にカツラを被らされ、無理矢理敷地内へと連行されていくのだった。
一行は昇降口で上履きに履き替え、理事長室へと向かう。
その途中で、
「げっ!」
制服姿の良く知った少女と遭遇した。
流れる黒髪と端正な顔立ちの美少女。
少女はハル達の姿を見ると、優雅に一礼し声を掛けた。
「こんにちわ。本日はお休みですが、何か当校にご用でしょうか?」
「ええ。理事長にお会いする約束がありまして」
「もし宜しければ、理事長室までご案内しましょうか?」
「それは助かります。何分不慣れなもので」
少女は千景の言葉に微笑み、案内すべく身体を反転させようとして、
「……お兄ちゃん?」
気が付いてしまった。
ずっと下を向いて、顔を見られないようにしていたのに。
「……と言うことは、皆様はハピネスの方ですか?」
「はい。申し遅れました。私は柊千景。ハピネスの所長を務めております」
「ご丁寧にありがとうございます。私は御堂秋乃です。兄が何時もお世話になっております」
スカートを摘み、今度はハルの妹として挨拶をする。
「貴方が秋乃さんですか。お話しはハル君から伺ってますよ」
「あら、どの様な話でしょう」
「文武両道で非の付け所のない、自慢の妹だと」
「ふふ、話半分に聞いて置いてください。不肖の妹ですので」
チラリと視線を向ける秋乃に、ハルは冷や汗を掻くしかない。
仕事中に身内と会うのは、何というか気恥ずかしいものがあった。
その様子を察したのか、千景は話を切り替える。
「もっとお話ししたいところですが、約束の時間がありますので」
「これは失礼を。ではこちらにどうぞ」
秋乃の案内で、ハル達は理事長室へ足を進める。
理事長室は予想していたよりも、ずっと普通の部屋だった。
ドアの正面は、一面窓ガラス。
壁には本棚が並び、難しそうな分厚い本がずらりと揃っている。
窓を背に、重厚な執務机が一つ。
床は茶色のカーペットが敷かれていた。
どれも年季は入っているが、手入れが行き届いているお陰で古さを感じさせない。
「……ゴルフパットとか、剥製とかあると思ってたよ」
「ハルちゃんはドラマの見過ぎねぇ」
反省してます。
「理事長、お客様をお連れしました」
「ご苦労でしたね、御堂さん」
理事長と呼ばれた年輩の女性は、威厳と慈愛に満ちた声で労った。
「ようこそ白百合女子高校へ。私が理事長の新藤麻里亜です」
「今回警備を担当します、美園警視であります。この方々は民間協力者です」
「お話しは伺ってましたが、皆さん随分とお若いですね」
「若輩者ではございますが、以前怪盗コレクトを撃退した優秀な者達、不足は無いかと」
美園の言葉に、理事長は細い目でハル達を見据える。
全てを見透かすような視線に、思わず身を固くしてしまう。
「ふふ、確かに只人ではありませんね」
理事長は優しく微笑んだ。
何を根拠に、とハルが内心思っていると、
「伊達に七十年も生きてませんよ。人を見る目だけは自信があります」
まるで心を読んだかのように笑って見せた。
驚く一同に、
「皆さんでしたら、私も安心して任せられます。よろしくお願いします」
理事長は頭を下げて告げた。
秋乃が退室し、残されたハル達は作戦の確認を行う。
「今回は昼間と言うことで、視界を奪う方法は限られています」
「煙幕とかですか?」
「ええ。催涙ガスなどを使われる可能性もありますので、まずこれを渡しておきます」
千景はそう言うと、ハル達にガスマスクを配った。
軍で使われるような本格的なもの。
入手経路は……聞かないでおこう。
「そしてコレクトの進入経路ですが、恐らくあそこかと」
「如何にもですしね」
「抜け穴等はこれから調べますが、可能性は高いですね」
一同は視線を向けるのは、大きな窓ガラス。
派手好きの怪盗が破って登場するのに、おあつらえだ。
「発煙筒なりを投げ込み、窓から侵入。その隙に宝石を奪う流れかと」
「ん~」
「ハルよ、何か疑問が?」
「いや、あの怪盗にしては素直すぎないかなと思って」
「勿論全く違う手段をとる可能性もあります。そこは臨機応変に対応を」
千景の言葉にハル達は頷いた。
予告時間まで後三十分。
「……理事長、「天使の肝臓」を見せて頂いてもよろしいですか?」
「構いませんが、どうしてです?」
「万が一に備えてです」
理事長は美園の要求に答え、執務机の引き出しから小箱を取り出す。
蓋を開けると、そこには大きなルビーが布に包まれていた。
「これが、「天使の肝臓」」
「……健康ですね。やはり天使は節制してるのでしょうか」
流石はお医者様、目の付け所が違う。
色々な意味で。
「失礼します」
美園は断りを入れてから、その箱を手に取る。
そして、紫音の前まで持ってきた。
「これは本物ですか?」
「……古い宝石特有の力は感じる。「天使の肝臓」の本物かは分からぬが」
美園は満足げに頷くと、宝石を布で覆い、理事長へと返した。
「あの~美園さん。今のは何を?」
「既にすり替えられている可能性が浮かんだので」
「怪盗コレクトが予告前に犯行に及ぶと?」
「予告通りに現れれば、すり替えられていても気づきませんから」
美園は真剣は顔で答えた。
冷静さを失わなければ優秀。
その言葉を証明する行為だった。
予告まで後十分。
「それでは、全員配置に着いてください」
千景の指示で、ハル達はそれぞれ持ち場に着く。
宝石がしまわれている、執務机の引き出し前には千景が。
美園はドアの前に立って、ドアからの襲撃に備える。
ハルと柚子、そして紫音は部屋の中央で、臨機応変な対応を。
そして、理事長は椅子に座り微笑む。
「張本人が逃げ出す訳にはいきませんものね」
芝居を楽しみにするかのように、嬉しそうに言った。
美園が説得したが、結局自己責任という事で、この場に残る事に。
予告時間が迫ってきた。
予告状については、どうか寛大な目で見てください。
「見た目は子供頭脳は大人」に登場する怪盗を見て、真似をしてみたのですが……如何せん謎を考える頭脳が足りませんでした。
天使の肝臓については、握り拳半分ほどの大きさと思ってください。
本物より大分小さい設定です。
さて、次はいよいよご対面。
今回はどの様な策を弄してくるのか。
次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。