怪盗コレクト再び(1)
事務所を尋ねた美園。
何やら困り事があるようだが……。
ハピネスに、来客があった。
警察署長の美園警視だ。
彼女がここを訪れる理由は、ただ一つ。
「……またですか」
応接スペースで話を聞いた千景は、呆れたように呟いた。
「ええ、またです」
「開き直ってどうするんです。少しはプライドとか……」
「昨日不燃ゴミに出してきました」
完全に開き直った美園に、千景の嫌みは通用しなかった。
「大体、怪盗コレクトから予告が来るたび、私に頼ってどうするんですか」
「今回は対策以前の問題なのよ」
「と言いますと?」
「これです」
美園は一枚のカードを千景に差し出す。
カードには、怪盗コレクトからの犯行予告が記されていた。
『光と闇が等しくなり、子らが身を休める日の正午。
聖母が抱きし輝きを我が手中に収めるため、
汚れを知らぬ花達を育む秘密の園に、我は参上する』
「随分洒落たメッセージですね。それで、何処が特殊なのです?」
「まず、コレクトが具体的じゃない予告を送るケースは、今までありません」
「……ふむ」
「そして、今回の予告状は何故か警察に直接届けられました」
「……なるほど」
何時もと違う怪盗の行動。
これはなかなか興味深いものだ。
「それで、対策以前の問題とは?」
「…………この予告状の意味が分からないの」
美園の言葉に、千景はため息をつく。
「何よその反応は。貴方には分かるの?」
「……少し待っていて下さい」
千景は席を立つと、自分のパソコンで何やら調べる。
やがて目的の情報が得られたのか、満足げに頷くと美園の元に戻ってきた。
「分かりましたよ」
「え゛……」
「謎掛け、と言うには簡単ですけどね」
「何処なの。奴は何時何処で何を狙っているのよ?」
身を乗り出して食い付く美園。
「少し落ち着いて下さい。冷静になって考えれば、美樹にも分かる筈です」
「冷静にって言われても……」
「はぁ、なら一つずつ考えてみましょうか」
千景はカードを美園向きに机の上へと置く。
「まず最初の一行。これは犯行日時を表しています」
「正午だものね。でも日付が……」
「頭を柔軟にしなさい。光と闇は比喩表現ですよ」
「ん~~」
「ヒント。実際に等しくなる訳ではありません」
「???」
「ヒント。子、と言うのは学生を指します。社会人は休まらないかも知れません」
「……あっ」
「分かったみたいですね」
「ええ、ちょっと考え方が固かったみたいだわ」
答えに辿り着いた美園に、千景は微笑みを向けた。
「では次は、最後の行です。これは何処にを示します」
「……花屋、それとも花畑?」
「これも比喩表現です。美園の管轄範囲の場所ですよ」
「ん~~」
「汚れを知らぬ花達が人を、育むが場所、秘密の花園が場所の特殊性を表現してます」
「…………」
「ヒントを。予告の日、汚れを知らぬ花達はお休みしてます」
「…………」
「そして、花という単語は、実は場所のヒントにもなっています」
「あっ、そうか」
「ええ。花の名を冠するその施設は、貴方の管轄に一つしかありません」
美園は場所の特定に成功した。
「最後は二行目、何をですが……これは場所が分かれば問題ありません」
「予告した場所の関係者よね?」
「ええ。先程調べたら、直ぐに分かりました」
「名前?」
「ご明察。下の名前が『麻里亜』でした」
「輝きは恐らく宝石、だとすればその人が持っている宝石が狙われているわけね」
「あくまで私の解釈ですけどね」
ここまで話したのは全て千景の考え。
実は全く違いました、と言う可能性も否定できない。
「いえ、間違いないわ」
「その根拠は?」
「勘よ!」
何故か自信満々に言い切る美園。
「……まあ、貴方が納得しているなら、それで良いのですが」
「うふふ、怪盗コレクト恐れるに足らず。今度こそ引導を渡してあげましょう」
「精々頑張って下さい」
「何言ってるのよ。貴方にも手伝って貰うわ」
そっちこそ何を言っているのだろうか。
「対策以前の問題と言いましたよね?」
「対策以後の手伝いが不要とも言ってないわ」
「……全く貴方は」
諦めたように千景は呟いた。
「それに今回は、彼は貴方をご指名みたいだしね」
「…………」
「当然気づいてたのよね?」
「……その頭の回転があって、どうしてあの予告状が解けないんでしょう」
「それは言わないお約束で。それで、依頼は受けてくれるの?」
千景は暫し考え、
「ここまで挑発された以上、無視するわけにも行きませんね」
美園の依頼を受けることを決めた。
こうして、怪盗コレクトとの再戦は静かに幕を開けた。
怪盗と言えば予告状、と言うわけでやってみました。
とは言え推理物の才能無しの作者、中身はペラッペラな訳でして。
苦笑いしながら見守って下さい。
怪盗コレクト編スタート。
次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。