小話《タイムパラドックスって?》
またも何かが気になっている奈美。
いつものようにハルに尋ねるのだが……。
「ねえねえハル。教えて欲しいんだけど」
「今度は何だ?」
ハピネス事務所で、奈美はハルにいつものように尋ねる。
「あのね、タイムパラドックスって何?」
「また随分予想外の言葉が出てきたな」
「秋乃から借りた小説に出てきたんだけど、どうしても理解出来ないのよ」
「ん~簡単に言うと、タイムスリップする事による矛盾かな」
「????」
ハテナマークが頭に浮かぶのが見える。
とは言えハルもさほど詳しくないので、上手く説明できない。
どう説明した物かと思っていると、
「ほう、なかなか面白い事を話して居るでは無いか」
白衣を着た蒼井が話しに加わってきた。
「あ、そうだ。なあ、蒼井ならタイムパラドックスを上手く説明出来ないか?」
「楽な物……と言いたいが、この女に分かるようにか?」
そうじゃ無ければ苦労しない。
ハルが頷くと、蒼井は暫し考えて、
「ふむ、なら具体的な例を出して説明するか」
奈美に説明を始めた。
「例えばだ、貴様が過去にタイムスリップしたとする」
「うん」
「そこで、まだ結婚する前の両親と出会ったとしよう」
「うんうん」
「貴様が両親の仲を引き裂く、一番簡単な方法として、片方を殺害したとしよう」
「ならお父さんの方ね」
物騒です、奈美さん。
「だが両親が居なければ、貴様は産まれない筈だな?」
「そりゃそうよ」
「つまりだ、貴様が父親を殺せば貴様は産まれない」
「まあね」
「ならばだ、父親を殺そうとする貴様は存在しない。父親を殺すことも出来ないだろ」
「…………」
「これがタイムパラドックス。つまりは時間移動による矛盾だ」
因みに、タイムパラドックスについては幾つかの解釈がある。
どうしても創造主、つまり親を殺すことが出来ないから、矛盾は起きない説などだ。
蒼井の説明は一番一般的な矛盾の説明だった。
「う~ん、何となくは分かったけど……」
「あんまり深く考えると嵌るぞ。何となく理解できれば十分だろ」
小説を読むには問題ないはずだ。
「じゃあ結局、過去に行ってもあまり意味無いって事?」
「一概には言えないがな。だが所詮過去は過ぎ去ったもの。今を生きる者に価値があるとは、吾輩には到底思えんぞ」
「……ま、それは人それぞれって事で」
全国の歴史研究家ならびにマニアの皆様、申し訳ありません。
「なら未来に行くのは?」
「未来の競馬新聞買い集めて一財産築くとかか」
某映画はスポーツ結果だったが。
「……ふん下らんな。未来は未定、故に人は今に希望を持てるのだ」
もう別人だろ、と言う程蒼井の言葉はカッコ良かった。
「希望か……確かにね。結果が分かってるなんて、つまらないものね」
「俺もそう思う。蒼井も良いこと言うじゃないか」
「……さて、吾輩は用を思い出したからもう行くぞ」
研究室に向かう蒼井の後ろ姿は、今まで見たことがないほど輝いていた。
後日。
「ふはははは、良いぞ。これで四十連勝だ」
競馬中継を見ながら、高笑いをする蒼井。
その手には、何故か明日の日付の競馬新聞が握られていた。
「あの小娘もたまには良いことを言う。これで発明資金の心配は無用だ。はっはっは」
有頂天の蒼井。
だが、事務所の研究室で騒いでいたのが不味かった。
当然その声は千景にも届いていて、
「ドクター、少々お話ししましょうか」
不正はあっさりバレて、長いお説教の後、儲けは没収されてしまった。
後でその話を聞かされたハル達。
「やっぱり蒼井ね。少しでも尊敬したのが間違いだったわ」
奈美の蒼井株は、ストップ高の後ストップ安に急落した。
「……てか、誰もタイムマシンがあった事には突っ込まないんだな」
「「だって、ドクター・蒼井だから」」
人類初のタイムマシンは、最低の使われ方をして闇に葬られた。
タイムマシンのご利用は計画的に。
妙にシリアスな話が続いていたので、小休止という感じで。
正直作者もタイムパラドックスを、正確に理解していないので、詳しい人から見れば突っ込みどころ満載かもしれません。
どうかご容赦下さい。
一息ついたところで、次からはまた続き物を。
久しぶりにあの人に登場願いましょう。
次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。