幽霊退治の顛末
奈美の活躍?によって、解決の目を見た幽霊退治。
その翌日、ハルと奈美は何故か千景に呼び出されて……。
透明人間事件の翌日。
「あれ、ハル。どっかに出かけるの?」
「そう言う奈美こそ」
ハルと奈美は、アパートの廊下で顔を見合わせる。
「私は千景さんに呼ばれて、ハピネスに行くとこだけど」
「俺もだけど……ひょっとして昨日の件かな?」
「ん~でも報告終わってるよね」
奈美の言うとおり、透明人間の件は、既に報告を終えている。
「別件かもしれないな。まあ折角だし、一緒に行くか」
「うん♪」
ハルと奈美は並んで、ハピネス事務所へと向かった。
事務所でハル達を迎えたのは、千景を始めとするいつものメンバー。
そして、
「ど、どうも……」
見覚えのない若い男性だった。
二十代前半だろうか。短く刈り上げた黒髪が、スポーツマンの印象を受ける。
「あれ、お客様ですか?」
「違うわよぉ。まあ、こっちに座ってぇ」
状況が理解できないまま、ハルと奈美は応接用のソファーに座らされる。
隣に紫音、向かいには千景とローズに挟まれた若い男が座る。
「まず紹介します。彼は東野秀樹君、ハル君と同い年の男の子です」
「東野秀樹と申します」
男、東野はソファーから立ち上がり、深々と一礼する。
「初めまして、早瀬奈美です。よろしくね」
「御堂ハルです、よろしく」
自己紹介をする二人。
「えっと、彼は新メンバーですか?」
「そうです。今日からハピネスで働いて貰います」
「じゃあ今日呼ばれたのは、東野さんを紹介する為だったんですね」
納得するハルと奈美だが、千景は首を横に振る。
「それもありますが、彼がどうしても二人に謝りたいと言い出しまして」
「謝る?」
「私達初対面ですよね?」
尋ねる奈美に、
「いえ、実は……昨日お会いしてます」
東野は申し訳無さそうに答えた。
「昨日……ごめん、ちょっと憶えてないな」
「私も。昨日は依頼以外に、外に出てないと思ったけど」
ハルと奈美は揃って首を傾げる。
謝罪に来てくれたのに覚えがない。流石に気まずい。
「まあ無理もありませんね。何せ、彼とは会って居ても、姿を見ていないんですから」
「……まさか」
「そうです。東野秀樹君、彼が透明人間の正体です」
元透明人間、東野は縮こまりながら頷いた。
「……なるほど。透明人間は薬物による物だったんですね」
説明を聞いたハルは、納得したように呟いた。
あの後、柚子が血液検査を行ったところ、未知の薬物が発見された。
それを調査した結果、人の身体を空気と同等の透過率に……まあつまり、人体を透明化する薬物だと判明したのだ。
「はい。私はそれを元に、身体を元に戻す薬を開発して、東野さんの身体を戻しました」
「和泉さんには、感謝してもしきれないです」
東野は恐縮しながら言う。
「でも、どうしてそんな薬を?」
「無理矢理投与されたらしいです」
柚子は東野に話すように促す。
「三日ほど前の夜、バイトから家に帰る途中で、変な連中に襲われたんです」
「襲われたって……」
「数人に身体を押さえつけられ、錠剤の様な物を無理矢理飲み込まされました。その後車に乗せられそうになった時、必死に暴れて逃げだしたんですが……」
「身体が透明になっていた、と」
ハルの言葉に、東野は悔しそうな顔で頷く。
東野は実家暮らしだったが、透明になった身体では帰る事も出来ず、あてもなく街をぶらつき、あの廃墟ビルに辿り着いたのだ。
「怖かったです。自分がどうなってしまうのか、あの連中が何時やってくるのか」
「じゃあ、肝試しの連中が襲われたのは」
「過剰防衛ねぇ。まともな精神状態じゃ無かっただろうし」
透明人間になった夜に、正体が分からない集団が自分の隠れたビルにやってきた。
恐怖を感じるのは当然だろう。
「ハル君達が襲われたのも、同じ理由です」
「本当にすいませんでした!」
ガバッと頭を下げる東野。
あの時は怒りを憶えたが、事情を聞いた今、その怒りは殆ど残っていなかった。
「……まあ良いさ。奈美を傷つけた分は、もう充分お返しされただろうし」
「う゛」
思い出したのか、奈美が顔を歪める。
「それで、アレは大丈夫なのか?」
「……はい。和泉さんが何とか守ってくれました」
「結構際どかったですけどね」
男の尊厳が無事守られた事に、ハルは心底安心した。
悪霊退治を発端にした、透明人間事件は無事幕を降ろした。
元透明人間のハピネス入りという、おまけ付きで。
突然透明人間になったらどうしますか?
子供の頃からの夢を叶えるべく行動できる人、と言うのはごく一部。
実際は、途方に暮れてしまうと思います。
今回の東野君もその一人ですね。
それにしても、見えない患者の手術をした柚子は流石です。
正直、この小説で彼女は一番のチートキャラ。
死なない限りはどうにでもなる、ギャグ小説に欠かせない人材です。
次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。