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こちらはまた、別の話

今回はある意味番外編。

主役はハピネスではなく、とある会社のとある男。

どの様な物語が紡がれるのか。


 色彩製薬と言う、中堅製薬会社がある。

 街から少し離れたビルを拠点に構える企業。

 社員は少ないが、安定した業績を残していた。


 その業績を支えているのは、一人の男。

 色彩製薬営業、事務、広報、開発、総務、経理……部長を兼務する男。

 その名は黒田雅也。

 今年四十才になる、眼鏡の似合う知的な男だ。


 朝は誰よりも早く出社し、帰りは誰よりも遅くまで仕事をする。

 仕事は真面目で正確、しかも迅速。

 厳しいながらも、優しさを持った人柄は部下からも慕われている。

 彼が居なければ、色彩製薬は間違いなく潰れると言われるほどの逸材だ。


 しかし、そんな彼にも裏の顔がある。

 それは……。


 午後七時。

 社員が退社し誰も残っていないビルの廊下を、黒田は一人歩く。

 彼がやってきたのは、社長室。

 ノックをし、返事を確認してから、ゆっくりと入室する。

「失礼します」

 社長室には、二人の人影があった。

「おう、来たか。遅かったな」

 革張りの高級椅子に腰掛ける、毛根が死滅した五十才くらいの男。

 ブクブク太った小柄な姿は、愛玩動物の様な愛嬌すら感じさせる。

「申し訳ありません会長。少々業務が長引きまして」

 黒田は男のぞんざいな言葉に、頭を下げて謝罪した。

「全く、しっかりしろよ。社長である俺の顔を潰すつもりかよ」

 会長の横に立つ男が、非難の言葉をぶつける。

 茶髪にピアスと、如何にもな姿の、二十代後半と思われる若者。

 社長室に似つかわしくない、だらしのない服装をしていた。

「以後気をつけます」

 黒田は一切の反論をせず、ただ謝罪をした。


「まあ良い。それで、どうなっているのだ?」

「どの件でしょうか?」

「馬鹿かお前。親父が呼んだんだから、あの薬の件に決まってるだろ」

 社長が苛立つように告げる。

 そうは言うが、黒田は色彩製薬のほぼ全ての業務を担当している。

 主語を抜かれては流石に答えられない。

「失礼しました。既に十件ほどの実験を終え、結果は良好です」

「足が着くことはあるまいな?」

「情報漏洩については、細心の注意を払っておりますので、問題ありません」

 冷静に答える黒田に、社長は不満顔。

「てかお前よ、こう言うのは報告書とか提出するのが常識だろ?」

「……社長には先日、報告書を提出しておりましたが」

「あんな細かい字が沢山ある書類読めっての? ふざけんなよ」

 声を荒げる社長。

 完全に理不尽な怒りだが、黒田は反論することなく謝罪する。

「申し訳ありませんでした」

「ったく使えねえな。あんまり迷惑かけんなっての」

「はい、気をつけます」


「それにしても、まだ最強の兵士は出来ないのか?」

「万が一にも嗅ぎ付けられぬよう、慎重に作戦を進めておりますので」

「はっ、自分が無能だからだろ。言い訳すんなよ」

「返す言葉もございません」

 黒田は今日何度目になるか分からぬ謝罪を行う。

「大体その実験体とやら、いつまで放置してんだよ。とっとと攫えば良いだろ」

「正義の味方が護衛に付いておりますので、そう簡単には……」

「腰抜け野郎が。ビビッてんじゃねえよ」

「迂闊に仕掛ければ応援が来ますので、慎重に状況を見ております」

「けっ、話にならないな」

 そう吐き捨てると、社長は黒田の横を通り過ぎドアの前に。

「何処に行く?」

「使えない部下に気分を害されたから、ちょっと気晴らしに行くだけだよ」

 振り向きもせず告げると、社長はそのまま社長室を後にした。


 後に残されたのは、会長と黒田の二人。

「……黒田よ、お前の役割は分かっているな?」

「無論です」

「儂がお前を救ったのは、その才覚を見込んでだ。だから多額の治療費を出している」

「……はい、感謝の言葉もありません」

「ならば、儂を失望させたらどうなるかは……言うまでもないな?」

「肝に銘じておきます」

「よろしい。今日はもう下がれ」

「はい、失礼しました」

 黒田は深く頭を下げ、社長室から退室した。



 人気のない夜道を一人、黒田は帰路につく。

「……全く、あの馬鹿親子の相手をするのは時間の無駄だよ」

「お疲れさまです」

 他に誰もいないはず、しかし黒田の言葉には返答があった。

「例の薬はどうだ?」

「はい、全て貴方の計算通りに進んでおります」

「……『ステルス』は?」

「申し訳ありません。適当な者に投与しましたが、ロストしました」

「まあ効果を考えれば仕方ない、か。所在確認を続けろ」

「了解しました」

「それと、例の試験体は?」

「変わらずです。正義の味方が二名、常時監視・護衛を続けています」

「過保護だな。まあ価値を考えれば当然と言えるが」

 黒田は何かを考える様に、しばし言葉を止める。

「そのまま監視を続けろ。居場所が分かっていれば良い」

「了解です」

「後、例の馬鹿息子……シルバーの動きも注意しろ。勝手に動く可能性がある」

「…………」

「どうした?」

「始末してしまっても宜しいのでは? もはや彼らは用済みでしょう」

「……まだ早い。今はまだ、私の足かせが外れていない。個人的な事情ですまないが」

「いえ、出過ぎた事を言って申し訳ありませんでした」

「構わないよ」

「……それでは、私は組織に戻ります」

「苦労を掛けるな、ホワイト」

「我らの目的は、貴方の幸せですよ……ブラック」

 その言葉を最後に、ホワイトと呼ばれた声の気配は闇に消えた。


「自分の幸せの為他者を不幸にする……悪の組織としては当然だが……人としては最低だな」

 黒田は自嘲気味に笑った。



非日常サイドが、少しずつ姿を現しました。

色々と複雑な事情がありそうです。


ただ、今回ハピネスは正義の味方でも警察でもありません。

悪の組織と敵対する理由は、今のところ無いです。

どの様にして両者は巡り会うのでしょう。


次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。



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