海外に行こう1《いざ出国》
冬麻と菜月を訪ね、海外旅行をすることになったハル達三人。
果たして無事にたどり着ける……無事に出国出来るのだろうか。
海外旅行編スタートです。
八月某日。
ハル、奈美、秋乃の三人は空港にやってきた。
「えっと、国際線だから、あっちのターミナルだな」
「ハルは慣れてる感じだけど、海外旅行は慣れてるの?」
「……この間、アメリカに日帰り旅行したばっかだ」
実際は日付が変わっていたが、まあ気分と言うことで。
「秋乃はどうなの?」
「私はお父さん達と一緒に、入学まであっちに居たから」
「そう言やそうだったな」
「じゃあ海外旅行初は私だけか~」
歩きながらキョロキョロと、周りを興味深げに見回す奈美。
「俺も初めてみたいなもんだよ。今回は、秋乃先生に色々教えて貰おうかな」
「えっへん、任せて頂戴」
ドンと胸を叩く秋乃。
三人は受付を済ませ、搭乗口へと向かった。
「飛行機に乗るのって、大変なのね……」
早くも疲れた声を出す奈美。
国際線の洗礼に参っているようだ。
「国内線はもうちょい緩いけどな。まあテロとか警戒してるし、しょうがないだろう」
「そうだけど……」
「ほら、もう搭乗口だ。乗っちまえば後は楽だよ」
三人は搭乗口に到着。
ここでチケットを確認して、順番に飛行機へ搭乗する。
周囲には搭乗を待つ人が待っていた。
「あ、そうだ。奈美、飛行機に乗るときは靴を脱がなきゃいけないから注意してね」
「えっ、そうなの?」
何と古典的なジョークだろう。
見れば周りの搭乗客も苦笑を浮かべている。
「おいおい、あんまり奈美をからかうなよ」
「……お兄ちゃん知らないの?」
秋乃は真剣な顔で続ける。
「一昨日、国際航空法が改定されて、危険物持ち込み防止の為、国際便は靴を脱ぐ事になったの。靴はX線検査して、問題なければ飛行機の中で返して貰えるのよ」
「し、知らなかった……」
周囲の搭乗客達も知らなかったのか、一様に動揺している。
「ふふ、秋乃先生に任せなさい。靴はチケットと一緒に、係の人に渡せばいいから」
「うん、分かった。ありがとうね、秋乃」
素直に靴を脱ぐ奈美。
周りの皆様方も、続々と靴を脱いで手に持つ。
そして、係のお姉さんが現れ、搭乗が始まった。
「お願いしますっ!」
元気いっぱい、奈美が一番手で手続きを行う。
チケットと一緒に渡された靴を見て、
「あの~お客様。靴は履いたままで結構ですよ」
気の毒そうに告げた。
「えっ……だって……」
チラリと視線を秋乃に向ける奈美。
「……と言うのは全部嘘なんだけどね♪」
「「何ぃぃぃぃぃぃ!!!」」
ペロッと舌を出す秋乃に、乗客全員が同時に叫んだ。
「お兄ちゃんが突っ込んでくれると思ったんだけど、信じちゃったから言いだしにくくって」
「お前の嘘は設定が細かすぎるんだよっ!!」
「航空法は基本的に航空運航業者に対しての物だし」
「一般の人がそんな詳しい事知ってるわけないだろうが!」
「私も少しやりすぎたって思ってるの。奈美とお兄ちゃんをちょっと騙すつもりだったんだけど」
秋乃の視線の先には、恥ずかしそうに靴を履き直す乗客のみなさん。
本当にご迷惑をおかけしました。
「良いか、嘘は時と、場所と、相手と、レベルを選んでつけ。良いな?」
「はい、気をつけます。次はもっと上手くやるね♪」
「少しは反省しろぉぉぉ!!」
ハルの絶叫が搭乗口に響き渡った。
第一歩目から躓いた、今回の海外旅行。
果たして、どのような騒動が待ち受けているのだろうか。
靴を脱ぐ、はもう定番のだまし文句ですね。
作者も子供の頃、見事に騙された事があります。
何はともあれ、出国することが出来たハル達。
どの様な旅になるのでしょうか。
次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。