海に行こう(5)
覗き騒動も終わり、旅行最後の夜。
どうも寝付けないハルは散歩に出るのだが……。
海編完結です。
深夜。
なかなか寝付けないハルは、気分転換に庭を散歩することにした。
浴衣姿で歩いていると、
「……奈美?」
庭で一人佇む奈美の姿を見つけた。
足音に気づいたのか、奈美は振り返る。
「ハルも散歩?」
「あ、ああ。何か寝付けなくて」
すると奈美はニヤリと笑い、
「それは当然よ。何せ私の裸を見たんだから、興奮しちゃって寝られないんでしょ」
痛い所を突いた。
「…………あ~その、なんだ……ごめん」
「へっ!?」
突然頭を下げるハルに奈美は困惑する。
「ちょっと、いきなり何よ」
「お前の裸を覗いた。本当に悪かった」
「あのね、謝るくらいなら最初から覗きなんてするんじゃないわよ」
ごもっともです。
正論過ぎて反論できない。
「まあ良いわ。謝ったし許してあげる。てか、元々そんなに怒ってないから」
「……裸を見られたのに?」
「そりゃ恥ずかしいわよ。今思い出しても顔から火が出そう。でも、病気なら仕方ないでしょ」
「病気?」
「男は女性の裸を見たくなる病気に掛かってるんでしょ?」
ある意味真理だ。正誤はともかく。
情報の発信源は恐らく柚子だろう。
「それに、他の男ならともかくハルなら……」
安全パイ扱いされているのだろうか。
まあ友人の兄として、実の兄妹の様に思ってくれているのかもしれない。
ハルはそう思い、ホッと一安心する。
顔を赤らめた奈美を見れば、違う感情が入っているのは一目瞭然。
とんだ朴念仁だった。
何はともあれ和解した二人は、そのまま少し話をすることにした。
虫の音が聞こえる静かな庭で、会話を交わす。
本当に何もない雑談ではあったが、それでも楽しい時間だった。
「そう言えば、奈美はこの夏帰省するのか?」
「ん~帰ってこいとは言われてるけど、帰り辛いのよ」
「何かやらかしたのか?」
「ちょっとお父さんと喧嘩してね、病院送りにしちゃったの」
ちょっとどころの話では無い。
「ず、随分過激な親子げんかだな」
「だって酷いんだよ。お父さんたら、いきなり私にお見合いさせようとするんだもん」
「お見合い!?」
「だから頭来ちゃって、思い切りフルボッコにして、飛び出して来ちゃったわよ」
「……それ家出って言うんじゃ」
「ちゃんとお母さんの許可は貰ってるもん。家出じゃないわ」
複雑な事情があるようだ。
あまり追求しないのが優しさだろう。
「ならハルはどうなの、帰省するの?」
「俺はしないよ。てか出来ない」
「え?」
「帰省する場所が無いんだよ。親父と母さん、結構無茶して一緒になったみたいでね」
「あ、ごめん。変なこと言って」
「別に良いよ。子供の頃は代わりに色々旅行に連れて行って貰ってたしな」
申し訳なさそうな奈美に、ハルは気にするなと笑いかける。
「それに今年は、秋乃と一緒に海外の親父達に会いに行く予定なんだ」
「海外か~。私も行ってみたいな~」
「ならお前も来るか?」
「え、えぇぇぇぇ!!」
「……何でそんなに驚く」
「だ、だって、それって、ハルのご両親に挨拶って事よね……まだ心の準備が……」
「心の準備って……友達の親に会うのに大げさだな」
「へっ?」
「お前の事を秋乃がよく話してるらしくて、一度会いたいって言ってるらしいんだ」
情報源は秋乃だ。
「そ、そっか。そうよね……はは」
「何かガッカリしてるな。あんまり乗り気じゃないか?」
「……ううん。是非一緒に行きたい」
「なら詳しい話は帰ってから、秋乃を交えてしようぜ」
「分かったわ。うん、何か楽しみ~」
ハルと奈美はその後も少し話を続けた後、
「じゃあお休み。寝坊するなよ」
「そっちこそ。寝てたら拳でたたき起こすからね」
「止めてくれ。永眠するから」
それぞれの部屋に戻り眠りにつくのだった。
翌日夕方。
ハピネス一行は、一泊二日の旅行から事務所に帰ってきた。
「みんな、今回はご苦労様でした。今日はゆっくり休んで、明日からの業務に備えて下さい」
「「はいっ、お疲れさまでした!!」」
解散の号令を受け、ハピネスの旅行は終わった。
その後。
「「ど、ドクター・蒼井っ!!」」
バスの荷物置き場に横たわる蒼井が発見され、病院に搬送された。
千景は、
「純粋な子供に嘘を教えるのは重罪です。当然の報いでしょう」
と揺るがない姿勢を見せた。
「……本当は?」
「向こうに着いたら解放するつもりでしたが……忘れてました」
この事実は闇に葬られることとなる。
以来、ハピネスメンバーで紫音に嘘を教える者は現れなかった。
え~まず、蒼井に関しては……千景と言うよりも作者がすっかり忘れてました。
温泉で思い出したのですが、つい出しそびれてしまい……。
結局、落ち担当になってしまいました。
すまん、蒼井。
長かった海編がようやく終わりました。
夏の海は男女を引きつける魔力があるらしいですね。
ハルと奈美も例外では無かったようで……。
次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。