季節外れの運動会(1)
ウンザリするような暑さの中、何故か始まる運動会。
果たして何人が生き残れるのか……。
照りつける太陽。
ねっとりと身体にまとわりつく湿気。
季節は本格的な夏。
そんな時に、
「何で運動会なんだぁぁぁ!!」
ハルの絶叫は、雲一つ無い青空に吸い込まれて行った。
年に一度、商店街対抗の運動会が開かれるらしい。
それぞれが代表選手を出し、競技の点数で優勝を争う。
それはいい。
そこまでは良くある話だ。
だが、
「何でこの時期に?」
うだるような暑さで、ハルの額からは既に汗が流れていた。
普通運動会は、梅雨の前か秋にやるものじゃ無いのだろうか。
「若いの、それには海よりも深く山よりも高い事情があるのじゃ」
「……みっちゃんは元気ですね」
「ふぉっふぉ、儂は汗が出るほど身体に水分が残ってないからのぅ」
水分補給してください。いや、マジで。
「でも確かに不思議よねぇ。毎年この時期だしぃ」
「医者の立場からは、あまりお薦め出来ません」
「うむ、それが奴らの狙いなんじゃ」
格さんが答える。
「他の商店街と比べ、儂ら芍薬商店街は平均年齢が高いんじゃよ」
「……確かに」
本拠地に集まったメンバーは、ハピネスを除けばお年寄りが非常に多い。
学校の運動会なら、敬老席に招待されるレベルだ。
「対して牡丹、百合、彼岸花の連中は若いのを揃えておる」
「若いっていうか、俺この間の世界陸上であの選手見ましたよ……」
牡丹商店街の本拠地には、筋骨隆々の外国人選手がアップをしている。
助っ人外人にしてはやりすぎだ。
他の百合、彼岸花……彼岸花?
「何か、一つだけ名前が浮いてませんか?」
「話せば長くなるが、かつて名前を掛けた闘争で敗れたからじゃ」
一行で済んでしまった。
「じゃが奴らは、新たな分野を開拓して急成長を遂げておる、油断はできんぞ」
「新たな分野?」
「どこぞの電気街と提携してな、特定の客層を取り込んだのじゃ」
皆まで言わずとも分かった。
彼岸花の本拠地には、サポート役のメイドさんが沢山いたから。
「百合は一番古い商店街じゃ。規模も一番大きく、四つの元締め的存在じゃよ」
「あそこはうちと同じく、生え抜きを育てるのが上手い。手強いぞ」
違う点は若さだろう。
あっちは見たとこ二十代、三十代の人が多く揃っている。
「ん~、でもそれがどうしてこの時期にやることと関係あるの?」
奈美が再び最初の疑問を口にする。
「この暑さは皆辛いが、一番影響を受けるのは、高年齢化が進んでいる儂らじゃ」
「奴らは団結し、儂らに不利なこの時期を選んだんじゃ」
忌々しげにみっちゃんと格さんが吐き捨てた。
恐らく多数決だったのだろう。
一チームだけ不利なら、他のチームが団結するのも無理はない。
「えっと、因みに今までの成績は?」
「ここ十年ほど、最下位じゃ。それも圧倒的大差でのぅ」
「解せぬ。貴様らがいるなら、それ程大差で負けるとは思えないぞ」
蒼井が無礼に突っ込む。
だがそれにはハルも同意見。
人間離れした二人がいれば、そこそこ競ることは出来るはずだが。
「…………去年は一番酷かったのぅ」
「儂ら以外全員、緊急搬送で団体競技はほぼ全滅じゃった」
遠い目をする二人。
もう、何も言えなかった。
「じゃが、今年は違うぞ」
「お主達の他に、若干力は劣るが体力のある若い衆も集めた」
「「おっっす」」
十名ほどの男が気合いの声をあげる。
前回野球をリアイアのは、彼らだったのだろう。
リベンジに燃えている顔をしていた。
「まさに総力戦じゃ。今年こそ、儂らが勝たせて貰う」
「うむ、その通りじゃよ」
気合い充分の二人。
「優勝すると何か貰えるんですか?」
ハルの何気ない問いかけ。
しかしその瞬間、間違いなく周囲の気温が下がった。
「若いの……悪いことは言わん。それ以上は聞くな」
「商売人にはそれなりの闇があるんじゃよ……お主は知らん方がええ」
背筋がゾッとする様な迫力の二人に、ハルはコクコクと頷くしか無かった。
「……そろそろ開会式が始まりますね」
千景が時計を見て声を掛ける。
みれば各チームのメンバーが、グラウンドに集まり始めていた。
「うむ。者共、出陣じゃ!!」
「「おうっ!!」
やる気満々の芍薬商店街一同。
ハピネスメンバーと少し温度差があるが、追求しない方が良い。
こうして、商店街対抗運動会は始まりを告げるのだった。
商店街編第二弾です。
今回は運動会と言うことで、四チームの対抗戦。
野球をちょっと引っ張り過ぎましたので、今回は短めに。
次回で完結します。
果たして芍薬商店街は勝利を掴めるのか。
それ以前に、無事競技を終えられるのか。
次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。