野球しようぜ(2)
芍薬商店街と牡丹商店街。
宿命の対決を前に、今選手達が決戦の地に集う。
試合当日。
ハルは空港の到着ロビーに降り立った。
「あ、ハルさん。お帰りなさい」
向かえに来ていた鈴木が、ハルを出迎える。
「鈴木さん……無事、帰ってきました」
「大分お疲れみたいですね」
「疲れない方がおかしいです。往復すると時差で体内時計がもう滅茶苦茶で」
「ははは……それで、お疲れの所申し訳ないですけど」
「分かってます。車で爆睡させて貰いますね」
目の下に大きな隈を作ったハルに、鈴木は苦笑いしながら頷く。
二人は車に乗り込み、決戦の地へと向かうのだった。
一方、他のハピネスメンバーは、一足先に決戦の地へと到着していた。
「ここが、今日試合を行う球場です」
「へ~大きな所ですね。でもどうして屋根がついてるんですか?」
「ドーム球場って言ってねぇ、天気に関係なく試合が出来るからよぉ」
ローズの説明に、奈美はなるほどと頷く。
「草野球……素人が行う野球と認識していたが……なかなかどうして立派な会場だな」
「最大収容人数は五万人。まあ今日はプロの試合では無いので、一割程の入りでしょう」
「そうか。少なくとも声援を受けられるのは、心強いものだな」
しみじみと呟く紫音。
突っ込み役の不在の影響は大きかった。
一時間ほど遅れて、ハルが球場に到着。
「ななな、何で草野球でドーム球場なんだぁぁぁ!!」
突っ込み役の帰還だった。
「さて、それでは全員揃ったところで、自己紹介しましょう。まず、主将からどうぞ」
千景の言葉に、高齢の男性が頷きハル達の前に立つ。
「ひょうひゃ、ひょひゅひひぇひゅへ……」
「みっちゃんや。入れ歯忘れとるぞ」
「ひゅ、ひゅん。はぐはぐ……うん、これで平気じゃな」
不安だ。
「今日はよく集まってくれた。儂が芍薬商店街会長の、水戸家光じゃ」
惜しい、混ざった。
「みんなも気軽に、みっちゃんと呼んでくれい」
「「は~い、よろしくね、みっちゃん♪」」
欠片の躊躇いも無く、フランクに呼ぶハピネス一同。
内心ヒヤヒヤするハルだが、呼ばれた本人が嬉しそうなのでスルーする。
「そして、副主将が……」
「儂が芍薬商店街副会長の、助産格三じゃ。格さんと呼んで欲しいのう」
「「よろしく、格さん♪」」
呼ばれて満足げに頷く格さん。
八十五歳と七十歳にはとても見えない。
「では続いて私達が。ハピネス代表の、柊千景です」
「私は不要だと思うけど改めてぇ。ローズよぉ」
「蒼井賢だ。足を引っ張るなよ」
「い、和泉柚子です。……チームドクターも勤めますので、よ、よろしくお願いします」
「結城紫音だ。若輩の身だが、誠心誠意力を尽くす所存だ」
「早瀬奈美です。乱闘なら任せてください」
「御堂ハルです。乱闘以外なら頑張ります」
順々に自己紹介をするハピネスメンバー。
そんな彼らを見て、うんうん、と頷くみっちゃんと格さん。
「これはまた、頼もしい若人が集ったもんじゃ。のう、格さん」
「じゃな。牡丹の奴らと十二分に戦えそうじゃわい」
男二人、女二人、(見た目)子供二人、性別不詳一名ですけどね。
まあ依頼主が納得したなら良いのだろう。
「そろそろ私達の練習時間です。みんな、準備してください」
「「はいっ!!」」
何故かみっちゃんと格さんまで返事をしていたが、細かいことは気にしない。
試合開始の時は、刻一刻と迫ってきた。
試合開始十分前。
両チームのメンバー表交換が行われた。
「久しいな、家光。まだ迎えが来てなかったのか」
「お互い様じゃろうが、のう牡丹の」
「全くだ。ところで、今回は随分風変わりなメンバーじゃないか」
「一見のう。じゃが、実力は本物じゃよ」
「ここ五年で二勝二敗一分け。そろそろ決着を着けたいな」
「それはこっちの台詞じゃ」
ニヤリと笑うご老人二名。
因縁の戦いを前に、既に血湧き肉躍っている様だ。
「いよいよ試合開始です。では、守備位置と打順を発表します」
「随分引っ張りましたね」
「先程の練習で適正を見極めました。恐らくベストオーダーの筈です」
「では柊ちゃんよ。発表してくれい」
みっちゃんに促され、千景はスターティングオーダーを告げた。
一番 ライト ハル
二番 レフト 紫音
三番 キャッチャー 格さん
四番 ピッチャー みっちゃん
五番 サード ローズ
六番 センター 奈美
七番 ショート 千景
八番 セカンド 柚子
九番 ファースト 蒼井
何とも凄まじいラインナップだ。
電光掲示板に並ぶと、その異常さがよりハッキリする。
「……ローズって、名前だけで凄い威圧感だよな」
「ハル君も人のこと言えませんよ」
漢字で表記されなかったのは、千景の優しさなのだろうか。
分かる人だけ分かってくれ。
「相手のスタメンも出てきたわねぇ」
「どれどれ…………あれ?」
「何かあったの、ハル?」
「いや、見間違いかな。俺、あっちのベンチに居る人達に見覚えが……」
ゴシゴシと目を擦るハル。
だが、間違いない。
「なかなか豪華なメンバーを揃えてきましたね」
「元プロ野球選手にぃ、バッテリーは去年夏の甲子園を制した子達ねぇ」
「あの黒人は見覚えがあるぞ。NASAに居たとき、向こうで試合に出てたな」
「ら、ラインナップに素人が一人もいねぇ……」
草野球の根本を揺るがす事態だ。
名前だけでお客が呼べそうな、豪華な面子が集結。
道理で五千人も観客が居るわけだ。
「ふぉふぉ、牡丹の奴らは相変わらずじゃな」
「生え抜きを育てぬのは、奴らの悪い癖じゃよ」
「ま、毎度の事なんですか?」
「今年はマシな方じゃ。前は現役の選手を呼んだことがあったからのぅ」
「参加資格が曖昧じゃからな」
確か参加資格は、その商店街の関係者の筈。
「商店街で買い物をした人の友達の親戚の隣の家に住んでいる人の知り合いとかも、アリじゃ」
「……見直した方が良いですよ」
いや、本当に。
「何、若いの。心配は無用じゃ」
「知名度では引けをとるが、実力では決して後れはとっておらん」
「……へっ?」
ついに呆け始めたのか?
「儂らが若い頃は、ベーブルースやピートローズ何かと戦ったんじゃ」
「ONは流石じゃったな。みっちゃんのボールをバットに当てた日本人は彼ら位じゃった」
「……千景さん?」
「全ては、試合が始まれば分かりますよ」
否定はしないんですね。
舞台は全て整った。
いよいよ、決戦の時。
段々と収拾がつかない事態になって参りました。
恐らく風呂敷を閉じきれずに終わるかと。先に謝っておきます。
「カッとなってついやってしまった。今は反省している」
二話もつかって、まだプレイボールしない野球編。
次回で完結です。
屈強な相手に、チート軍団はどう挑むのか。
と言うより、どう叩き潰すのか。
次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。