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草むしりは危険な仕事?

ハピネスに入った新人バイト君。

しかし、彼がとある依頼に失敗したことで、事態は厄介な事に……。


 初夏の日差しが眩しい今日この頃。

 ハピネスにも新たなアルバイトが加わっていた。

 まだまだ新人と言うこともあり、まずは簡単な依頼を行っていたのだが。


「依頼失敗?」

 ハルは思わずオウム返しする。

「そうなのよぉ。新しく入った加藤君がぁ、失敗しちゃってねぇ」

「あれ、でも彼が受けた依頼って、庭の雑草取りだったよな」

 新人の依頼は千景が選別する。

 間違っても失敗するような、難しい依頼では無いはずだが。

「ええ。どうも予期せぬ事態が起きたらしいのぉ」

「雑草取りで?」

 どうすれば予期せぬ事など起きるのだろうか。

「あらぁ、ハルちゃんだって経験あるでしょ?」

 苦い記憶。

 「庭の雑草取り」なのは間違いなかったが、果てしなく広大な土地だったという罠。

 確かに予期せぬ事だったが、それでも依頼が果たせなかった訳じゃない。

「……気になるね」

「今千景ちゃんが状況の確認をしてるわぁ。その内詳細が分かるでしょ」

 ローズの言葉に頷き、ハルは自分の依頼を選ぶことにした。



「ハル君、ちょっと良いですか?」

「何でしょうか」

「少し手伝って欲しい事があるのです」

 恐らくさっきローズと話していた件だろう。

 ハルは千景に向き直り、話を聞く姿勢をとった。

「実は新人の加藤君が、依頼を失敗しました」

「さっきローズから聞きました。何でも雑草取りの依頼だったとか」

「その通りです。先程彼と連絡が取れまして、状況が把握できました」

「何があったんですか?」

「彼が言うには、いきなり巨大な植物に襲われたと」

 What?

「現在その植物に拘束され、身動きが取れない状態との事です」

「……何ともシュールな光景ですね」

「電話越しの彼の様子から、嘘は言っていないと思うのですが……」

「にわかには信じがたい、と」

 ハルの確認に、千景は頷いて答える。

「そこで、応援部隊を派遣したいと思います」

「状況の確認と、加藤の救出ですね?」

「ええ。彼に怪我でもされたら大変ですから」

 素晴らしい上司だ。

「まだ雑草取りが終わってませんし」

 前言撤回。

「ハル君にも参加して欲しいのですけど、如何ですか?」

「そりゃ構いませんよ。他には誰が行くんです?」

「今現在手が空いている、ローズと奈美。それに柚子を派遣します」

「柚子?」

「万が一負傷していた場合、治療役が必要ですから」

 流石千景さんだ。

「何があろうとも、依頼はちゃんとこなして貰わなくてはいけませんしね」

 流石千景さんだ。色々な意味で。

「事態は急を要します。直ぐにでも赴いて欲しいのですが」

「俺は何時でも行けますよ」

「結構です。では現地ではローズの指示に従って行動して下さい」

「了解しました」

「では、検討を祈ります」

 こうしてハルは、応援部隊として現地に向かうことになった。



「……いや~、世界は広いね」

「そうよね。大きな植物ってのは見たことあるけど、これは流石に……」

「私も世界中まわったけどぉ、これは凄いわぁ」

「ただ、これを植物と言って良いのか疑問ですけど」

 現地に着いた応援部隊は、各々感想を口にする。


 古い日本家屋の庭は、サッカー場ほどの広さがあった。

 その中央に、高さ十メートルはあろうかという、巨大な一本の花。

 そして極太の茎からは、庭中を埋め尽くすツタが溢れかえっていた。


「あれって、何の花かしら?」

「花は多少詳しいけどぉ、見たこと無いわねぇ」

「突然変異か新種の可能性もありますね」

「まあ、何だ。ただ一つ言えることは」

「「ラフレシアじゃ無くて良かった」」

 あの大きさで臭いをまき散らされたら、間違いなく致死量だろう。

「それでどうするんだ?」

「そうねぇ。状況の確認は出来たからぁ、まずは加藤ちゃんの保護かしらぁ」

「……何処に居るんでしょうね」

 ハル達からは、その姿を確認できない。

 恐らく、あのツタの中、中心部に囚われてしまった可能性が高い。

「少し急ぐ必要がありますね」

「どうしてです?」

「もしあれが食虫植物なら……」

 あの大きさだ。

 食べるのが虫だけとは限らない。

 柚子の言葉に嫌な光景を想像してしまい、奈美は顔をしかめる。

「とにかくぅ、ツタを処理しながら進むしか無いわねぇ」

 ローズの指示に従い、ハル達は巨大植物へと近づいていく。

 すると、

「やばいな、俺達を見つけたみたいだ」

 ズルズルと動いていたツタが、ハル達を警戒する様に動きを変えた。

 そして、ハル達を敵だと認識したらしい。

「つ、ツタがっ!!」

 まるで大蛇の様なツタが、ハル達に襲いかかってきた。

 鞭のようにしなるそれをまともに受けたら、ただでは済まないだろう。

「ふふん、ここは私に任せて。てりゃぁぁぁぁ!!」

 奈美は手をパキパキと鳴らし、ツタに向かって突進。

 そのままの勢いで、思い切り手刀を放った。

 スパァァァ

 まるで鋭い刃物の様に、手刀は巨大なツタを一刀両断した。

「「おぉぉぉぉ」」

 感嘆の声を挙げるハル達。

 恐るべき達人の技だった。


「いくらでかくても、所詮は植物よ。私の敵じゃないわ」

 振り返り、誇らしげに胸を張る奈美。

「……いや、まだだ!」

「へっ?」

 両断された筈のツタは、直ぐさま切断面から新たなツタを生やす。

 そしてそのまま、油断していた奈美に襲いかかる。

「んなろぉぉぉ!!」

 咄嗟に奈美の前に躍り出たハルは、迫り来るツタに手刀を打つ。

 ジョリジョリジョリ

 切れ味の悪い包丁で切ったような鈍い音だったが、何とかツタを切り落とす。

「あらぁ、やるわねハルちゃん」

「奈美さんの手刀をモノマネしたんですね」

「ハル……格好いい」

 賞賛の視線を向ける一同だったが、直ぐさま眉をひそめた。

「ハルちゃん、どうしたのぉ?」

「……手の骨、折れちゃった」

 手刀をした右手を押さえ、苦悶の表情を浮かべるハル。

「折角格好良かったのに……」

「モノマネしたのに、ですか?」

「身体が強くなる訳じゃ無いから……」

 チラリと奈美を見るハル。

「何よ、私が頑丈だって言いたいの?」

「違うとでも言うのか?」

「むぅぅぅぅ」

 ふくれ面をする奈美。

 キチンと鍛錬を積んだ手刀なら、ハルのように怪我などしないだろう。

 だがあくまでモノマネ。どうしても技術は劣化してしまう。

「ハルさんこちらに…………あ、これは骨折と言うよりは」

「だ、打撲とかで済んでるか?」

「いえ、粉砕骨折ですね。ざっと、全治六週間位でしょうか」

 何てこったい。

「直ぐ処置した方が良いのですけど、痛みは無いんですか?」

「手首から先の感覚が無いんだ」

「ああ、じゃあこれから凄い激痛来ますので、覚悟しておいて下さい」

「そんな覚悟したくないぃぃぃぃ」

 やんわり口調で言われると余計怖くなる。

「もうハルちゃんたらぁ、甘えん坊なんだからぁ♪」

「これから激痛が来る、て言われると凄い恐怖なんだよ」

「ではこうしましょう」

 プスり

「ゆ、柚子さんや。一体何を?」

「鎮痛剤です。まあ、処置するまでの一時しのぎですけど」

「柚子ちゃんは優しいわねぇ」

「……せめて注射する前は一声欲しいけどな」

 予告無しで手の甲に注射は怖すぎる。

「まあ、ハルちゃんは戦線離脱と言うことでぇ」

「面目ないです」

 御堂ハル、開始十分でリタイア。


「てぇぇぇい、たぁぁぁぁ、とりゃぁぁぁ」

 スパ、スパ、スパ

 次々に迫り来るツタを、奈美が鮮やかに切り裂いていく。

 だが、斬った先から再生されてしまい、数を減らすことが出来ない。

「もう、これじゃキリが無いわね」

 負けることはないが、勝つことが出来ない。

 驚異の再生力を前に、奈美に僅かに焦りの色が出る。

「単体攻撃が駄目ならぁ、範囲攻撃しかないわねぇ」

「ろ、ローズ。その背中に背負ったボンベと、ホースは一体何処から……」

「それは突っ込まないのが大人よぉ。さあ、これならどうかしらぁ?」

 ローズはニヤリと笑い、ホースについているスイッチを入れる。

 瞬間、

 ゴォォォォォォォォォォォ

 猛烈な勢いの炎が、植物に向かって噴射された。

「か、火炎放射器……」

「ドクターの技術を元にぃ、私が完全監修した特別製よぉ♪」

「効果は抜群みたいですね」

「あっ、聞いたことあるわ。確か……五行思想とかいう奴でしょ」

 奈美、それは違う。

 五行思想なら、木に強いのは金だ。


 まあそれは置いておくとして、ローズの攻撃は確実に植物を追いつめる。

 炎の勢いは凄まじく、ツタだけでなく花の本体まで包み込もうとして、

「あっっっちぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

 絶叫が響き渡った。

 ハル、奈美、ローズ、柚子は炎の圏外に居る。

 なら今の声は、

「「加藤(さん・ちゃん)の事忘れてたぁぁぁ!!」

 植物に捕らえられていた加藤だった。

 慌てて火炎放射器を止めるローズ。

「加藤、無事かぁぁ?」

「その声は、ハルさんですよね。死にかけましたけど無事です」

 最悪の事態は回避されたようだ。

「ハルさん、気を付けて下さい。こいつ、いきなり燃え始めますから」

「あ、あ~、それは……」

「加藤ちゃん、忠告ありがとう。今助けるからぁ、待っててねぇ」

 隠蔽しやがった。


 焼かれた植物だったが、既に再生を始めている。

 表面のススが剥がれ落ち、以前と変わらぬ姿を現す。

「しかし困ったな。加藤が中に居る以上、燃やすわけにもいかないし」

「じゃあ凍らせちゃえば?」

 凍死しますって。

「こうなれば最後の手段ねぇ。柚子ちゃん、お願い出来るかしらぁ?」

「……やむを得ませんね。ハルさんとローズさんは離れていて下さい」

「ん、どうして?」

「まあまあ、いいからぁ。じゃあ、任せたわよぉ」

 ハルはローズの脇に抱えられ、庭から外に避難させられた。

「奈美さん、あのツタの動きを止められますか?」

「ん~、一本だけで良いなら」

「充分です」

「じゃあやるわよ。…………ふんっっ!!」

 再生したツタの攻撃を、奈美は正面から受け止めた。

 そしてそのまま、両手でツタを抱えるようにホールドする。

「これで良い?」

「ええ。後はこれを……えい♪」

 プスリ

 柚子は鞄から取りだした箱から、更に取り出した注射器をツタに打つ。

 ちゅぅぅ、と注射器の液体が注ぎ込まれ、そして、

「か、枯れていく」

「除草剤の改良品です。直接注入すれば、どんな植物だろうとイチコロです♪」

 何とも恐ろしい事を可愛らしく言ってのける。

 その言葉を証明する様に、奈美が抱えたツタが茶色に変色していく。

 それは瞬く間に全体に広がっていき、本体の花が萎れるまで一分と掛からなかった。


「効果発現まで一分少々。まだ改良の余地はありそうですね」

「こんなのがあるなら、最初から使えば良かったのに」

「……実はこの薬、少々厄介な特性がありまして」

「厄介?」

「男性が万が一、薬に触れたり気化したものを吸い込むと……不能になります」

 お、恐ろしい。

「不能? 無能になっちゃうって事?」

「……お耳を拝借。ごにょごにょ」

 柚子の言葉を聞いた奈美は、一瞬ポカンとした顔をして、

 ボンッ

 真っ赤な顔で頭から湯気が上がった。

 どうやら理解してくれたらしい。

「だからギリギリまで使用は控えてました。あの二人を遠ざけたのも、万が一に備えてです」

「ハルが不能……ハルが不能……」

「本人の前で言わないことを勧めますよ」

 真っ赤な奈美に苦笑すると、柚子は避難していた二人を呼び戻す。

 ハルもローズから事情を聞いていたのか、何とも言えない複雑な顔をしている。

「どうやらぁ、成功したみたいねぇ」

「はい。最終的には副作用無しを実現するつもりです」

「お願いします。いや、本当に」

 切実だった。


「さてぇ、無事巨大植物も処理できたしぃ、帰りましょうかぁ」

「ですね」

「ハルさん、帰ったら右手の治療をしますね。可能な限り早く治るように頑張ります」

「頼むよ。利き手が使えないと不便で仕方ない」

「ハル……右手……不便……」

「ん、どうかしたか?」

「ななな、何でもないわよ。ほら、早く帰りましょ」

 急に顔を真っ赤にしたかと思うと、奈美は駆け足で行ってしまった。

 呆然とするハルに、

「う~ん、若いわねぇ」

「少し刺激的すぎましたか」

 何やら意味深な事を呟く年長者組。

 ハルの疑問は解かれることなく、一行は事務所へと帰っていくのだった。





「誰か…………助けてくれぇぇぇぇ!!」

 枯れた巨大植物に挟まれ、動けない加藤の叫びが、虚しく響き渡るのだった。 



植物を舐めたらあかん、と言うことで。

某怪獣映画に出てくる、ビオランテ氏がモチーフでしたが、見る影もありません。


久しぶりにハルが活躍したと思えば、まさかの負傷。

この主人公、持ってないです。


因みに初登場のサブキャラ加藤君は、千景に怒られて戻ってきたローズと奈美によって、救出されております。その後勿論雑草取りをやりました。

まともな人は少ないので、頑張って欲しいです。


次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。

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