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焼肉を食べよう

依頼達成のご褒美に、焼肉をご馳走して貰うことになったハル達。

肉を焼く火に、美園の財布も火の車に……。


 某日、某焼肉屋前。

「ね、ねえ千景。一つ聞きたいんだけど」

「何でしょう?」

「ご馳走するって、あの時参加した人達だけじゃないの?」

「私は頑張った「みんな」と言いましたよ。当然ハピネスは全員頑張ってますから」

「ちょ、ちょっと近くのコンビニに……」

「大丈夫、ここはカードが使えますから」

 そっと逃げようとした美園を、がっちり千景は捕まえる。

「心配しなくても、食べ放題コースで予約してるから平気ですって」

「私の知ってる食べ放題とは、何か値段が明らかに違うんだけど……」

 そりゃ、高級店ですから。

「細かいことは気にしない。さあみんな、入店しますよ~」

「「は~~い♪」」

 美園を引きずる千景を先頭に、ハピネス一同は焼肉屋に入っていった。


 奥座敷に案内された一同は、適当に席を決めて座る。

 その様子を見てから、

「今日は私の友人が、皆さんにご馳走をしてくれる事になりました」

「「わぁぁぁぁ」」

「しかも、この店で一番高級の食べ放題コースを選んでくれたのです」

「「おぉぉぉぉ」」

「遠慮するとかえって失礼です。みんな、全力で飲み食いしちゃいましょう!」

「「はいっ、ごちになりますっ!!」」

 一斉に美園へ頭を下げるハピネス一同。

 ここまで来たら、美園に出来ることはただ一つ。

「ええい、肉も酒も、じゃんじゃん持ってきなさぁぁぁい」

 ご褒美焼肉パーティーの始まりだ。



「ハルは焼肉食べたことある?」

「まあ、人並みには。えっと二人は?」

「実は初めてなのよ。だから今凄いワクワクしてるわ」

「私も経験が無い」

 奈美と紫音は焼肉初体験。

 なら自分がリードするかと、ハルは手早く肉を網に乗せていく。

「食べたい生肉を、このトングで網に載せて焼く。火が通ったら小皿に取るんだ」

「へ~簡単なのね」

「家族にも人気の料理だからな。誰でも簡単に出来なきゃ」

 ハルは菜箸で肉をひっくり返す。

「これはもう良いな。食べて見ろよ」

「このまま食べるの?」

「でも良いし、そこにタレがあるだろ。好みで使うといいさ」

「だがハルよ。何やら随分種類があって、どれを使えば良いのやら」

 焼肉屋には数種類、店によっては十を超えるタレが常備されている。

 何も知らなければ確かに迷うか。

「甘口とか説明があるだろ。それを参考にして、色々試してみると良いよ」

「ふむ……ではこれを」

 紫音は一番甘口のタレを皿に注ぎ、肉を付けて口に運ぶ。

 カッと目を見開き、動きが固まる。

「ど、どうした?」

「……少々侮っていたようだ。正直、これほど美味な食べ物だとは思っていなかった」

 お気に召したようで。

「じゃあ私は、このすたんだーど?ってやつで……うん、美味しい♪」

「そりゃ良かった。肉にも色々種類があるから、食べてみると良い」

「うわ、また随分色々あるのね」

「今食べたのがロースだ。後はカルビなんかが人気かな」

 お品書きを見ながらハルは説明する。

「みの? はつ? まめ? さがり? 随分と珍妙な肉があるのだな」

「鶏とか豚は分かるけど……どんな動物なのかしらね?」

「ああ、そいつは肉の部位だ。紫音が言ったのは……内臓だな」

「「ぶぶぅぅぅぅぅ!!」」

 二人一斉に吹き出した。

「内臓って、あれよね、胃とか心臓とか」

「ああ。ミノは胃、ハツは心臓、マメは腎臓、サガリは確か横隔膜だった筈だ」

「ならそう記せば良かろうに。こんな可愛い名前をつけおって」

 お店側の気遣いです。

 品書きに部位をモロ書いてしまったら、食欲減退しますから。

「気になるなら食べてみるか? 無理なら俺が残りを食べるし」

「そりゃ、興味はあるけど……」

「だが奈美よ、この機を逃せば恐らく今後食べないだろう。それはあまりに惜しい」

「じゃあ頼むぞ……すいませ~ん」

 ハルが店員に注文して、それがやってきた。

「見た目は……案外普通ね」

「だが。人間の臓器を想像していたから、いくらか安堵した」

「…………うん、良いな。食べて見ろよ」

 二人は小皿に乗った肉を、眉をひそめて見つめる。

 内臓と聞かされて多少気後れしているのだろう。

「無理に食べなくてもいいぞ。はむっ……ん、これは美味しい」

 流石は高級店。

 ハルは舌鼓を打ちながら、次々と網に肉を投下していく。

「ねえ紫音。せーの、で食べない?」

「よかろう。では行くぞ、いっせいのーせっ!」

 パクリ、とハツを口に入れる紫音。

 味わうように咀嚼し、ごくりと飲み込む。

「これは……美味だ。食わず嫌いはいけない、と今実感したぞ」

「へ~本当に美味しいんだ。じゃあ私も……うん、美味しい」

「な、ちょっと待て。一緒に食べるって言ったじゃないか」

「えへへ、ゴメンね。でも美味しかったし、結果オーライってことで」

 ぺろりと舌を出して謝る奈美。

 もし口に合わなかったら大惨事だったところだ。

「まあ良い。この肉に免じて許してやろう」

「そうしましょ。ねえ、色々頼んでみましょうよ」

「応とも。折角だし、この店のメニューを制覇してみるか」

 ノリノリの奈美と紫音。

 すっかり焼肉がお気に入りの様だ。

「……二人は平気そうだし、俺は他の人にお酌でも……って、あれは何だ?」

 周りを見回したハルは、思わず目を奪われた。



「す、鈴木さん」

「あらハル君。楽しんでますか?」

「ええ、俺は。それよりも、あそこの席は何事ですか?」

 ハルが指差す先。 

 そこでは、

「ふう、美味しい。これで三十杯目ですね」

「私もこれで……三十杯です。そろそろ調子が出てきましたよ」

「(こきゅこきゅ)ふぅ、お二人とも強いですね。私はまだ二十六杯目です」

「ま、負けん。負けられん。…………吾輩は二十八杯クリアだ」

 壮絶な飲み比べが行われていた。


「ああ、ハル君は初めて見るんですね」

「鈴木さんは随分落ち着いてますけど」

「あの三人の飲み比べは、もう恒例なんです。美園さんもいける口みたいですね」

 いけるどころの話じゃない。

 二十とか三十とか、明らかにおかしい。

「ってか、何飲んでるんですか?」

「彼らの特別ルールで、五杯事にお酒を変えるんです」

 そうこう話している間も、空のジョッキが増えていく。

 千景と美園はワイン、柚子と蒼井は無色の……焼酎か日本酒を飲んでいる。

「ジョッキで飲むことあるまいに……」

「グラスではキリがないから、と前に千景さんが言ってましたよ」

「ざるって言うか、底なしですね」

「まあ、結果は見えてますので、あまり気にしない方が良いですよ」

 どういうことだろう?

「ドクターが負けて罰ゲーム、と言うところまでが恒例ですから」

 言われてみれば、確かに分かる。

 平然と飲む三人と比べて、蒼井は若干苦しそうだ。

 今は柚子をリードしているが、そのペースは明らかに落ちてきている。


「あらあら蒼井さん、あんまり味わっていると追いついてしまいますよ?」

「ふ、ふん。良い酒だからな……ついいつもの癖が出てしまったぞ」

「ですよね。あ、一つ言っておきます」

「何だ?」

「私今日、絶好調です。記録更新出来るかも知れません♪」

 蒼井の顔色がにわかに青ざめる。

 それは決してアルコールのせいじゃないだろう。

「三十七杯目……私も調子が良いみたいです」

「同じく。久しぶりのアルコールは、身体に染みますね」

「……どうです、百を超えたら少し高級なお酒を頼みませんか?」

「いいですね♪」

「それは別料金ですよ?」

「ではビリの人が払うと言うことで……賛成の人?」

「「は~い♪」」

「反対だ!!」

「賛成三、反対一、多数決により可決されました。さあみんな、ガンガン行きましょう」

「「お~」」

 蒼井の顔色が青ざめていく。

 ハルに出来ることは、無言で合掌する事だけだった。


「……さて、何も見なかったと言うことで」

「それが賢明です」

「あれ、そう言えばローズは…………何で一人なんだ?」

「行ってみれば分かりますよ」

 少し意地悪に笑う鈴木に後押され、ハルはローズの元に向かった。


「やあ、ローズ」

「あらぁ、ハルちゃん。どうしたのぉ?」

「いや、今みんなの所をまわってるんだ」

 流石に一人だから気になって、とは言えない。

「そうなのねぇ。なら一緒に食べましょうよぉ」

「ん、ならご一緒させて貰うよ」

 ハルはローズの向かいに腰を下ろす。

 瞬間、

 シュパパパパパパ

 ハルの小皿に、大量の焼けた肉が積まれた。

「えっ?」

「どんどん食べてねぇ」

「あ、ああ。ありがとう」

 面食らったハルだが、折角の好意だ。

 好みにタレをブレンドして、肉を食べ始める。

 だが、

「ふんふふ~ん♪」

「………………」

「ふふふ~ん、ふふふ~ん♪」

「………………」

「ふふ~ふふ、ふっふっふ~♪」

「な、なあローズ」

「あらぁ、足りないかしらぁ。ちょっと待っててねぇ、直ぐ焼けるからぁ」

「いや、そうじゃなくて。何でひたすら俺に肉を差し出すのかな?」

 ハルの目の前には、十センチ以上に肉が積み重なっていた。

 食べるペースよりも早く、ローズが補充する為、徐々に高く積み上がっていく。

「私はねぇ、人が食べてる姿を見るのが好きなのよぉ」

「…………」

 この瞬間、ハルは悟った。

 ローズは最初から一人で居た訳じゃない。

 一緒にいた人が食べきれなくなり、次々に脱落していったのだと。

「あの、ローズ。俺はそんなに食が太くなくて……」

「だからよぉ。ちゃんと食べればぁ、きっとまだ大きくなるわぁ」

「肉ばかりだと、流石にそんなに食べれ……」

 言い終わる事すら許されなかった。

 次の瞬間には、程良く焼かれた人参、タマネギなど野菜がハルの前に置かれていた。

 さらに、焼肉を巻く用のレタスまで配置されている。

「バランスは大切だもんねぇ、さあ、め・し・あ・が・れ♪」

「…………頂きます」

 限界に挑戦し、ハルは散った。



 その後も狂乱の焼肉騒ぎは続く。


「このクッパって言うのも美味しいわね」

「うむ。ご飯、肉、汁、野菜、焼肉と言うのはバランスが良いな」

「もうメニュー一週しちゃったわね。二週目行く?」

「……行けるのか?」

 紫音は各メニューを少しずつしか食べていない。

 それでも充分満腹なのだが。

「美味しい物は別腹よ♪ あ、デザート忘れてたわ。すいませ~ん」

「胃袋は宇宙……あながち妄言では無いのかもしれんな」

 底知れぬ奈美の食欲に、紫音は本気で感心したように呟いた。


「そう言えば、今何杯目でしたっけ?」

「二百を超えた辺りから、もう数えてませんでしたね」

「良いじゃないですか。飲み比べは決着つきましたし、後は楽しむだけですよ」

 今はジョッキではなく、ちゃんとしたグラスでお酒を楽しむ三人。

 別料金であろう酒瓶は、もう数えるのが馬鹿らしい程だ。

「ですね。それにしても本当に美味しいお酒……ドクターに感謝ですね」

「多分、私以上に出費が大きいと思いますよ」

「NASAへの出向で稼いでいる筈ですから、ここはご厚意に甘えましょう」

 酒瓶を片づける店員に、三人は新たに注文を告げる。

「では、美味しいお酒との出会いに」

「「かんぱ~い♪」」

 グラスを重ねる音が響き渡る。

「……ば、化け物……共……め……ぐふ」

 端っこで朽ち果てた蒼井を、誰も責めることは出来まい。


「ハルちゃん、大丈夫?」

「……も、もう限界だ。喉まで肉が詰まってる……」

「「ハル君、感動しました!!」」

 勇敢なハルの散り際に、ハピネス所員から暖かな声が掛けられる。

「ごめんね、ハルちゃん。食べてくれるとつい嬉しくなってぇ」

「い、いいよ。肉は美味しかったし……当分は見たくもないけど」

「私も少し食べ過ぎました。家で体重計に乗るのが怖くて……」

 鈴木の言葉に、女性所員達が賛同の言葉を掛ける。

「ハルちゃんは平気?」

「ああ、俺は食べても太らない体質だから」

 ギラリ

 その言葉がいけなかった。

 女性所員達はハルの身体を拘束すると、

「「ローズさん、ハル君はまだまだ行けるみたいです」」

「ななな、何でそうなる?」

「「乙女心を弄んだ罰です。さあ、ローズさん、たっぷり太らせてあげて下さい」」

「了解よぉ。ハルちゃん、全メニュー制覇コース、行ってみましょうかぁ?」

「んなアホなぁぁ!!」

 ハルは二度死ぬ。



 そして時は流れ、そろそろお開きかと言う時だった。

「さて美樹、先にお会計を済ませてしまいましょうか」

「え、ええ。そうね…………あら、ちょっと失礼」

 美園は携帯電話を取り出す。

「はい、美園……なんですって? 殺人事件? 直ぐに向かうわ」

 携帯をしまうと、

「緊急の仕事が入ったわ。じゃあ私は行くか…………ら」

「美樹……ちょっと待ちなさい」

 ダッシュで立ち去ろうとして、千景に裾を掴まれる。

「ちょっと千景。今事件が起こって……」

 美園の言葉を無視して、千景は自分の携帯を操作する。

「……あ、村上? 殺人事件…………そう、分かったわ、ご苦労ね」

 通話を終えると、千景は美園にニヤリと笑いかける。

「事件は何も起こっていないそうですよ? 美園署長?」

「貴方……どうやってそれを?」

「今日当直の村上警部。彼には色々と貸しがありましてね」

「村上ぃぃぃぃぃぃ!!」

 完全に八つ当たりです。

「さあ美樹、会計に行きましょうか……」

「さようなら……私の秘湯巡り」

 当分趣味にお金は使えないと、美園は涙ながらに会計に向かった。


 こうして、ハピネスの焼肉食事会は幕を閉じた。


「ぬぉぉぉぉぉ、何だこの請求額はぁぁぁぁぁ!!」

 後日、蒼井はカード明細を見て絶叫する。

 酒豪達が飲み干した酒のお代は、一桁も二桁も違うもの。

 一番痛い目を見たのは、彼かも知れない……。



凄まじい食事会でした。

でも、仲間で焼肉に行くとこんな感じになりますよね?(汗)


勝てないと分かっている飲み比べにも、男の意地で参加する蒼井。

ある意味、本当の漢なのかもしれません……。


作者は焼肉好きですが、書いた事は全部受け売りです。

間違っていても責任が取れないので、興味のある方は是非調べてみて下さい。


色々尾を引いた怪盗編も、これで本当に一区切り。

ようやくハピネスの日常に戻れそうです。


次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。

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