怪盗との勝負は終わったが……
千景の元を訪れた美園。
報酬の支払いをするだけの筈だったのだが、
何故か話が妙な方向へと進み……。
怪盗と勝負しようの後日談です。
先にそちらを読んでいないと、全く意味不明の内容ですので、ご注意下さい。
事件の翌日。
そろそろお昼に差し掛かる時間、ハピネス事務所に来客があった。
「あら美樹、おはようございます」
「……私はこれからおやすみなさいですよ」
目の下に濃い隈を作り、千景を睨む美園。
どうやらあれから一睡もせず、ここに来たようだ。
「それで、今日は何かご用ですか?」
「これを渡しに来ました」
鞄から封筒を取り出す。
「ちゃんと数えましたが、そちらでも確認をお願いします」
「あら、振り込みで良かったのに」
「記録が残ると都合が悪いので、こうして直接渡した方が足がつきにくいんです」
「美樹もすっかり染まりましたね」
貴方のせいだと思います。
「では失礼して……」
千景は受け取った封筒から札束を取り出しパラララと捲る。
「確かに、成功報酬はしかと受け取りました」
「……全く、痛い出費です」
「でも首は繋がりそうでしょ?」
「ええ、お陰でね。週明けにも警視総監から表彰される話も来てます」
「それはそれは、私達も頑張った甲斐がありました」
「頑張りすぎです……」
心底疲れた声を出す美園。
展示室の証拠隠滅には、結局八時間以上を費やした。
『ええい、もう限界です。この部屋爆弾でぶっ飛ばしてしまいましょう』
『署長落ち着いて』
『ふ、ふふふ、警察の底力を今こそ示すとき……』
『だ、誰か、署長を止めろぉぉぉ!!』
何てやり取りもあったが、無事隠蔽は終わった。
「しかし、あそこまでやること無いでしょう」
「何がです?」
「銃弾は撃つは、危険な薬物は撃つは、力押しもいいとこです」
「……ああ、アレは囮です」
「はぁ? 何の?」
「電気の壁を張るには時間がかかりますし、暗闇では光が見えてしまいますから」
「じゃあ何、アレはコレクトを仕留めるのが目的じゃ無かったの?」
「時間稼ぎと目くらまし、それに注意を引きつける為の攻撃です」
あっさり言い放つ千景に、美園は開いた口が塞がらない。
「でも、あなた達凄い殺る気満々だったじゃない」
「盗聴器の可能性を否定できなかったので、不自然じゃないようにあのノリで」
「…………」
「大丈夫、ノリノリだった美樹の事は、私達の胸に留めておきますから」
「うわぁぁぁ、恥ずかしいぃぃぃぃ!」
顔を真っ赤にして絶叫する美園。
自分は本気だったのに、周りが演技だと知れば、それは確かに恥ずかしい。
「でも美樹がどうしても、と言うなら、忘れることも出来ますが」
「…………何よ」
「頑張ったみんなに、ご褒美としてご飯でもご馳走したいと思いましてね」
「ふ、ふん。証拠が無い以上、誰がそんな言葉に……」
「ポチっとな♪」
『……死体の処理は依頼できますか?』
『怪盗コレクト! ここが貴様の墓場となるのです』
『怪盗コレクト! 社会のためと私の為に、貴様をここで消す!!』
『安らかに眠れコレクト。貴様との因縁も今日限りだ』
「………………」
「うん、感度良好。良く録音出来てますね」
「ちぃぃぃかぁぁぁげぇぇぇ!!」
「大丈夫ですよ、警視総監宛に送ったりしませんから」
「……分かりました。どうか皆さんにご飯をご馳走させて下さい」
「あら、悪いですね。ではテープをどうぞ」
千景がプレイヤーから出したテープを美園に手渡すと、
バキィィ
「ふっ、詰めが甘いですよ。これで証拠は……」
『……死体の処理は依頼できますか?』
『怪盗コレクト! ここが貴様の墓場となるのです』
『怪盗コレクト! 社会のためと私の為に、貴様をここで消す!!』
『安らかに眠れコレクト。貴様との因縁も今日限りだ』
「な、ななななな」
「この音源が入ったテープを渡す、とは言ってませんよ?」
「ぬぬぬぬぅぅ」
「しかも今時テープの訳無いでしょ。本物はこちらです」
そう言って千景は、PC対応の録音機を見せる。
「これはお食事の会計が終わったときに、お渡ししましょう」
「おにょれぇぇぇ」
「何を食べるのかは、これからみんなで相談して決めます。決まったら連絡しますね」
ガックリと項垂れる美園。
もう彼女に抵抗する気力は残っていなかった。
「……帰ります」
「そうですか、ではお気を付けて」
とぼとぼと事務所から出ていく美園。
その後ろ姿がとても小さく見えた。
「やり過ぎじゃないのぉ?」
「あの子には良い薬です。普段の力を発揮できれば、怪盗にだって後れはとらないのに」
「そうねぇ。普段は本当に優秀な子なのにぃ」
「大一番で必ずドジる、これはある意味才能なのかもしれません」
「随分優しいのね、千景ちゃん」
「一応は友達ですから……心配するのは当然です」
「お食事会かぁ。みんな喜ぶわねぇ、何処に行こうかしらぁ」
「多数決で決めましょう。お店はその後で、私が選びます」
「美味しいお店?」
「勿論、一番高級なお店です」
知らぬが仏。
美園の懐は、当分寒波に見舞われそうだ。
美園の立ち位置がハッキリしましたね。
まさしく、ハルと同じポジションのようです。
突っ込み役は貴重なので、頑張って欲しいものです。
次はまだまだ美園のターン。
ご飯をご馳走する事になった彼女の運命は如何に?
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