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怪盗と勝負しよう(4)

怪盗コレクトとの勝負は、いよいよ佳境に。

果たしてハピネスは、「悪魔の心臓」を守りきれるのか?


「かくして怪盗コレクトは、見事に「悪魔の心臓」を奪い去ったとさ。めでたし」

「めでたくなぁぁぁい!!」

「おや美園君。もうショックから復活したのかい?」

「何勝手に終わらせようとしてるんですか。まだ勝負は付いてませんよ」

「ほう……」

「貴方はどうやって逃げ出すつもりで? ここは既に暗闇、貴方の得意技は使えません」

 自分の策に自信満々の美園。

 どう考えても負けフラグだが。

「怪盗を甘く見ないで貰おう。君たちの目を奪う方法は、幾らでもあるのだよ」

「強がりを」

「ならばその一つを見せよう」

 怪盗は筒状の何かを手に取る。

「舞台に幕が降りるとき……光に包まれるものさ」

 それ、を思い切り床へ叩き付ける。

 瞬間、展示室が眩い光に包まれた。

 閃光弾、の様な物だろうか。

 暗闇に慣れていた目が、そんな強烈な光を浴びてしまったら、

「目がぁぁ、目がぁぁぁぁ!!」

 ム○カ大佐が量産されるのも当然だ。


 光が消え、再び暗闇に戻る。

 暗、明、そして暗のコンビネーションだ。

 怪盗コレクトはその隙に、ゆうゆうと窓から脱出しようとして、

「……むっ!」

 目の前ギリギリを通過したナイフに、驚きの声と共に足を止めてしまった。

「悪いけど、まだ勝負はついてないぜ」

「今のナイフはお嬢さん、君が投げたのかな」

「俺は男、だっ!!」

「おっと。ふむ、なるほど、サングラスをしていたのか……」

 千景を真似たナイフ投げ。

 だが怪盗は、暗闇の中でそれを指で止めるという離れ業を披露した。

「しかし残念だが、君では私に勝つことは出来ないよ」

「ちくしょうめ……」

 何度ナイフを投げても結果は同じ。

 オリジナルの千景ならいざ知らず、劣化したハルの腕では怪盗を仕留められない。

「最後の策も尽きたようだね。ならば今夜の戦いは、私の勝ちだ」

「……まだだっ!!」

 ハルは地面を蹴り、怪盗へ飛びかかる。

 千景をモノマネした身体が、鋭い暗殺術を次々に繰り出す。

 だが、

「良い動きだが、まだ甘いよ」

 苦もなくハルをあしらう怪盗。

「しかし妙だね。付け焼き刃にも、熟練の技にも見える……ふむ」

「正真正銘の借り物だよ。ただ、今は俺のものだけどな」

「興味深いが、今はあまり時間がない。ここらでお暇させて貰おうか」

 怪盗は大きく跳躍し、再び不規則な動きを見せる。

 壁、天井を縦横無尽に動き回り、ハルを突破しようとするのだが、

「……ほう?」

「もう少し付き合って貰うぜ」

 ハルも怪盗の動きに合わせ動き、逃がさない。

「これは驚いた」

「俺も驚いた。足をこうやって動かすと、壁が走れるなんて知らなかったぜ」

「怪盗の技術を盗むなんて、なかなかやってくれるじゃないか」

 埒が明かないと思ったのか、怪盗は部屋の中央に静かに舞い降りる。

「だがそれだけでは私を捕まえられないよ?」

「ああ、それはみんなに譲るとするさ」

 ニヤリとハルは笑みを浮かべる。

「……時間をかけすぎてしまったか」

 視力を失うと言っても、それは一時的なもの。

 ハルが時間を稼いだお陰で、他の面々はすっかり元通りの視力を取り戻していた。

「形勢逆転だな。さあ怪盗コレクト、チェックメイトだ!」

「だが未だに「悪魔の心臓」は我が手中にある。どちらが有利かは、分からないよ」

 誇らしげな美園の言葉に、怪盗は冷静に答える。

 先程の攻撃を怪盗は見事に回避し尽くした。

 強引に脱出することも可能かも知れない。

「あまり美しくないが……派手なダンスも悪くないね」

 怪盗の言葉に、室内の緊張がグッと高まっていく。


「ねえ、コレクトさん。一つ、取引をしませんか?」

 一触即発の状況で、千景が口を開く。

「取引、かね?」

「ええ、そうです」

「取引は対等な条件が必要だよ。何と何を引き替えるのかな?」

「貴方には「悪魔の心臓」を返して貰います」

「それで、君は私に何を提示する?」

「貴方の……命です」

 展示室の温度が、二三度下がったような気がした。

 千景と怪盗の間には、周りが近づけない空間が広がっていく。

「冗談、ではないね。説明して貰おうか」

「この展示室は今、超高圧電流の壁が、まあバリアの様な物が張られています」

「……それで?」

「貴方が「悪魔の心臓」を返すなら、それを解除しましょう」

「君が本気なのは分かるが……それだけでは信じられないな」

「ごもっとも。では、それが存在する証拠を見せましょう……奈美」

「は、はい」

 突然名前を呼ばれ、慌てて返事をする。

「ドクターを、あの割れた窓目掛けて思い切り投げつけなさい」

「「えぇぇぇぇぇ!!!」」

 全員の声が綺麗に揃った。

「お、おい貴様。一体何を言い出すのだ?」

 蒼井、その反論は正しい。

 だけど、この人にそれは通用しない。

「ねえドクター。この装置は貴方が作った自信作ですよね?」

「む、それは勿論だ。外部から起動させた今、突破出来る者など存在しない」

「でも彼はそれを疑ってます。貴方の発明を信じてませんよ?」

「そんなことは許せんっ!!」

「なら見せつけてあげましょうよ。貴方の発明の力を」

「そう言うことならば。よし小娘、思い切りやってくれ!」

「……え、ええ。本当に良いのね?」

「構わん。おい、こそ泥。吾輩の発明、しかと見届けるがいい!!」

 奈美は蒼井の首根っこを掴むと、容赦なく窓に向けて放り投げた。

 腕を組み、直立の姿勢で蒼井は窓ガラスへとぶつかり、

 バチバチバチバチバチバチ

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 断末魔の悲鳴を残し、黒こげになって床にボトリと落ちた。

 慌てて柚子が駆け寄るが、悲痛な表情で首を横に振る。

 最悪の事態に、ハル達が言葉を失う中、

「……残念ながら無事です。」

「「紛らわしいわっ!!」」

 怪盗まで参加しての、全員突っ込みだった。

「さあ、これで先程の話が本気であることは分かりましたね?」

「な、何も無かったかのように話を進めるとは……」

「すいません。これがこの人なんです」

「そう、か。君たちも大変だな」

「「分かってくれますか?」」

「……あなた達?」

「「素晴らしい上司です。一生付いていきます!!」」

 よろしい、と千景は満足げに頷く。

 その様子に怪盗と警察の皆様から、暖かい視線を頂いてしまった。

 あれ、何か暖かい液体が目から……。


「では怪盗コレクト、取引を受けるか否か、返答をお願いします」

「……これを解除するという保証は?」

「信じて貰う、と言うのは都合が良すぎますね。……紫音、出ていらっしゃい」

 千景に呼ばれ、今まで姿の見えなかった紫音が現れた。

 展示室の入り口の、外側に。

「貴方が「悪魔の心臓」を返した後、彼女は装置を解除してここに入室します」

「その時なら装置は作動しない、か。確かにフェアだな」

「不安なら彼女と入れ違いに、そこのドアから出ても構いませんよ」

 解除するのはドアの部分だけ、と疑うのは当然。

 いらぬ疑いは、取引の邪魔になる。

「ふむ、ならお言葉に甘えよう。だが私が彼女を人質に取るとは思わないのかな?」

「それは絶対に有り得ません」

「何故?」

「貴方が……怪盗だからです」

 怪盗とは誇り高き犯罪者。

 去り際を汚すような事は絶対にしないはず。

 千景はそう告げることで、怪盗の行動に牽制をうったのだ。

「……素晴らしい。君は私のことを実によく理解しているようだ」

「では、取引は成立ですね」

「ああ。「悪魔の心臓」は、ここに置く」

 怪盗は部屋の中央に、「悪魔の心臓」をそっと置いた。

「……紫音?」

「本物だ。間違いなく」

「おや、このお嬢さんは鑑定士かな?」

「古い物には力が宿る。特に宝石はその傾向が強いのでな、真贋の判別など容易い事だ」

「末恐ろしいお嬢さんだ。さて、この後どうすれば良いかな?」

「紫音が装置を解除し、入室すると同時に逃げなさい」

 それに美園が慌てて異議を出す。

「ちょっと待ちなさい。コレクトが宝石を再び奪って逃げる可能性も……」

「彼は誇り高き怪盗、それはありません。そうですよね?」

「痛いところを突くね。まあ、その通りだ」

 怪盗はお手上げのポーズを取り、戯けてみせる。

 既に勝負は終わっている。

 ならばこれ以上の悪あがきは見苦しいだけ。

「こちらは条件を終えた。次は、そちらの番だ」

「ええ。紫音、装置を解除して入っていらっしゃい」

「承知した」

 紫音は手に持ったボタンを押して、展示室に入っていく。

 それと入れ替わるように、怪盗は一瞬で室外へと脱出した。

「君達とはまた見えたいものだ。名を何という?」

「私達は便利屋ハピネス。そして私は代表の柊千景です」

「憶えておこう。ではさらばだ、ハピネスの諸君……とついでに警察の諸君」

 はっはっは、と高笑いを残して怪盗は姿を消した。


「巡回の警官では捕まえられないでしょう。とにかく、依頼は完了ですね」

「はぁ~、なかなかしんどい依頼だったわぁ」

「世界は広いわね。あんな凄い奴が居るなんて」

「まともにやり合っていたら、私達も無事では済まなかったでしょう」

「だな。ま、怪我人も無く無事に…………あぁぁぁ、蒼井は?」

 すっかり纏めムードになっていたが、彼を忘れていた。

 正直洒落にならない感じだったが。

「無事ですよ。単にショックで倒れてるだけです。憎らしいことに怪我一つありません」

「柚子……蒼井の事嫌い?」

「好きな子ほど意地悪したくなる、と言うのでどうでしょう?」

 絶対嘘ですよね。

「良いじゃないの、そんな事は」

 そんなことって……。

「とにかく依頼は終わったんだし、私は早く眠りたいわ」

「もう日付が変わるな。私も流石に眠い……」

「ああ紫音、ここで寝るな」

 立ったまま眠り始めた紫音。

 緊張の糸が切れた為か、大人組も皆眠気を隠せない。

「では美園、私達は引き上げます。後の始末は任せますよ」

「えっっ!!」

 美園は顔を引きつらせる。

 あれだけ派手に暴れたのだ。展示室は凄まじい有様になっていた。

 暗闇で目立たないが、明かりを付ければそれはよりハッキリと分かるはず。

「さあみんな、帰りますよ」

「「は~い。それじゃあ失礼しま~す」」

 そそくさと出ていくハピネス一同。

 後に残されたのは、

「あの~署長、これ、どうしましょう?」

 荒れ果てた展示室の様子に困り果てる警察の皆さん。

 怪しい液体であちこちが溶解し、銃弾の跡まで残ってしまっている。

 このままでは、確実に責任問題だ。

「……美術館内の全員を集合させなさい。朝までに証拠隠滅を図ります」

「署長……すっかり悪役ですね」

「他人事じゃ無いですよ。これだけやらかせば、責任は私だけでは取り切れません」

「つ、つまり……」

「北海道か沖縄か……。単身赴任は嫌ですよね?」

「「りょ、了解しました。直ちに作業にかかります」」

 慌てて敬礼をする警官達。

 無線で美術館内の仲間に集合をかける。

「……その前に、一つやり残しがありました」

「何でしょう?」

「まず……電気をつけましょう」

 夜が明けるまで、美園達の戦いは続く。



 色々な犠牲を払って、「悪魔の心臓」の護衛依頼は無事に達成出来たのだった。

 


色々突っ込みどころ満載ですが、どうかご容赦下さい。


次は後日談。

それで怪盗編は完結となります。


次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。

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