ハルの能力
ハピネス事務所で雑談を交わすハル達。
そんな時、千景からある質問が……。
前回の小話と話がリンクしてます。
まだの方は、そちらを先にお読みになる事をお薦めします。
ハル達がハピネス事務所で休憩している時だった。
「そう言えばハル君に聞きたいことがあるんです」
不意に千景が切り出した。
「何ですか?」
「ハル君は霊感とかあるほうですか?」
「ん~無いと思います。家族はあるみたいですけど」
非常識な父親と同等の母親、そしてハイスペックの妹。
彼らなら何でもありのような気もするが。
「家系か……潜在的にはありそうだな」
「何か言ったか、紫音?」
「いや、こちらのことだ」
「それで千景さん。それが何か?」
「実は…………」
千景は先日紫音とした会話を、ハル達にも話す。
紫音の札は普通の人には使えない事。
だからハルにはそう言った力があるのでは無いかと言う事を。
「もしハル君に力があるなら、そう言った依頼も受けて欲しいなと思いまして」
「無いと思いますよ」
「だがあの時は確かに札を使ったのだろう?」
「ああ、それは紫音が使うのを見てたからだよ」
ハル以外の全員にはてなマークが浮かぶ。
「詳しく話して貰えますか?」
「良いですけど、あまり面白くない話ですよ」
それでも全員が頷くのを見て、ハルは咳払いをしてから話し始めた。
「簡単に言えば、俺は紫音をモノマネしたんです」
「モノマネ?」
「あの、テレビとかでやってる奴ですか?」
ハルは頷き話を続ける。
「そうです。ただ俺が真似るのは、外見では無いですけれども」
「じゃあ何を真似ると言うのだ?」
「その人の技術です。模倣って言った方が伝わりやすいですかね」
それだけ聞くと凄まじいチートだ。
「あり得ん。科学的に考え、そんなことは不可能だ」
「そう思うだろ? だから俺も言わない」
誰かに話したところで、馬鹿にされるのがオチだ。
だからハルは殆ど誰にもこれを話したことはない。
「まあ紫音を真似たからお札が使えた。俺からはこれ以上何も無いですよ」
「信じがたいですが……そう考えれば辻褄が合います」
「でもそんな才能があるのに、どうして普通の大学生やってるの?」
奈美の問いかけ。
確かに技術が模倣できるなら、どんな分野でも活躍できる筈。
それはもっともな疑問だ。
「実はな、結構欠陥があるんだよ」
「と言いますと?」
「まず再現性ですね。偽物である以上、本物よりも大分レベルが落ちます」
ハルは一度言葉を句切り、良い例は無いかと考える。
「例えば俺が一流ピアノ奏者のモノマネをしたとしましょう」
「うんうん」
「当然その奏者の演奏には及ばず、精々並のピアニスト位の演奏しか出来ません」
「ビデオのダビングのように、劣化すると考えれば良いか?」
蒼井の確認に頷くハル。
まあ、今時の子はビデオテープを知らないかも知れないが……。
「そして、積み重ねた技術では無いので、当然忘れるのも早いです」
「一夜漬けの勉強みたいに?」
「ああ、そんな感じ。一週間もすれば綺麗さっぱりさ」
「随分と詳細ですが、調べたことが?」
「まあ、昔色々とありまして」
それ以上は言いたくない、とハルは無言で告げた。
「俺の話はこんな所ですけど、納得して貰えましたか?」
「……最後に一つ試させて欲しい」
言って紫音は、ポケットから綺麗な布に包まれた、石を机に置いた。
一見何処にでもありそうな、ごく普通の石だ。
「これがどうした?」
「何も感じないか?」
こくりと頷くハル。
周りの面々も同様の様だ。
「よし、なら……こうすればどうだ?」
瞬間、ハルの背筋が凍った。
あの時悪霊を見たときのように、純粋な恐怖がハルを襲う。
「な、なな、何だこれ……凄いやばい感じがする」
「石をよく見て見ろ」
「……紫の靄みたいなのが、まとわりついてる。凄い……気持ち悪い」
「やはりか……もう充分だ」
紫音が石を布で包み込むと、ハルは恐怖から解放された。
全身に冷や汗をかき、まだ身体の芯が震えている。
そんなハルの様子を、不思議そうに周囲は見ている。
「ハルが技術を模倣すること、信じる。そしてそれに例外が無いことも」
「どゆこと?」
「今私は、一時的に霊的な力を増幅する術を使った」
奈美の問いかけに、紫音は静かに答え始める。
「すると今まで反応しなかったハルが、この石の異常さに気づいた」
「その術を真似たお陰で、ハル君も一時的に力が増したと?」
「うむ。私の目から見ても分かるほどハッキリとな。因みに今もだ」
ナンダッテ?
「ハル、あそこを見てみろ」
「ん、何かあるのか?」
「事務員の人が何人いる?」
「六人だろ? 男が二人と、女が四人」
「「えっっっ!?」」
何故かハル以外の皆さんから驚きの声。
おかしな事を言っただろうか……。
「六人、だよな? おい奈美、何で顔を背ける」
「ハル君……言いづらいのですが」
「今居る事務員の方は……」
「五人だぞ」
またまたご冗談を。
「みんなしてからかわないでくれよ。だってほら、ちゃんと六人いるじゃん」
ハルは立ち上がり、事務員の元へ。
その事務員達も、どこか青ざめた顔でハルを見ている。
「鈴木さんだろ、田中さんに佐藤さん、高橋さんに渡辺さん、それに……あれ?」
ふと最後の事務員の前で動きが止まる。
長い黒髪の女性、今週何度か見かけていたが、名前をちゃんと聞いていなかった。
「ごめんなさい、まだ名前を聞いてませんでしたね。お名前は?」
『……吉田と申します』
「吉田さんですか。俺は御堂ハルです、どうぞよろしく」
「「なっっっ!!」」
一斉に驚く事務所の皆さん。
その表情は明らかに恐怖で強張っていた。
「あれ、みんなどうしたんです?」
「……あのねハル、落ち着いて聞いて欲しいんだけど」
子供を諭すように優しく声を掛ける奈美。
「その机は今産休中の、山本さんの席なんです」
恐る恐る告げる柚子。
「そして、今吾輩達には、その席は空席にしか見えないぞ」
冷や汗を掻きながら蒼井が言う。
「最後に、事務員の吉田は……通勤途中の事故で…………半年前に亡くなってます」
千景が締めた。
なるほど、つまり要約すると、
「失礼ですが、貴方は幽霊ですか?」
『……はい』
「そうでしたか、は、ははは」
ハルは乾いた笑いを浮かべ、奈美達の元に戻ってきて、
「…………きゅぅ」
そのまま見事に気絶した。
十分後。
「俺、幽霊と話しちゃった」
「次から気を付けよ。下手すると取り憑かれかねん」
そもそもの原因はお前だ。
「良いな~ハル。私も幽霊とか見てみたい」
「残念だが、奈美にはその手の素質が欠片も見あたらない」
しくしくと引き下がる奈美。
「出来るなら俺も見たくない。まあ、あの悪霊と違って怖い感じはしなかったけど」
「当然だ。彼女は悪霊ではないからな。強い使命感から、死してなお働こうとしていたのだ」
紫音の言葉に、生前の彼女を知るメンバーは神妙な面もちになる。
「彼女は、大変優秀な事務員でした」
「優しくて頼りがいがあって、何時も助けて貰ってました」
「吾輩の実験に付き合ったのも、あの女くらいだしな」
感傷に浸るように呟く。
「それで、吉田さんはどうなった?」
「私が成仏させた。彼女にとって一番良い選択だからな」
「そっか」
よく考えれば何とも失礼な態度をとってしまった。
お詫びの一つくらいしたかったが……。
「とにかく、ハルのモノマネは理解した。私の疑問は全て解決したぞ」
「それは何よりだ」
「でもハル、この間も真似たんでしょ? 今日まで幽霊見なかったの?」
「分かんない。生きてる人か幽霊か、どうにも見分けがつかん」
そう言われれば、やけに周りに人が多いと思ったが。
「劣化したからだろう。幽霊を見分けるのは、見る以上の力が必要だからな」
「でも凄いですよハルさん。私を真似れば手術だって出来るんじゃないですか?」
される方の身にもなってください。
「とにかくハル君の事も分かりましたし、今日はここまでにしましょう」
「「は~い」」
「さあお仕事です。彼女が安心して眠れるように、バリバリ働きますよ」
「「お~~~!!」」
ハピネス一致団結の瞬間だった。
「……あれ、何か忘れてる気が……」
今回は、ハルのちょっと変わった才能のお話でした。
見たものの技術を模倣する。
一見万能ですが、意外にそうでも無いのがハルらしいと言いますか……。
モノマネについては、今後少しずつ話に絡めていきます。
これでようやく、超人達と肩を並べる事が出来て一安心です。
次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。




