新たな仲間加わります(3)
どうにか依頼を達成したハル達一行。
行動不能になった二人のために、迎えを待つことに。
「む……ここは?」
「気が付いたみたいだな」
「ハル殿? 私は…………っ、あの悪霊は?」
「やっつけたよ。お札を勝手に使わせて貰ったけどね」
紫音は信じられないと言う顔で、ハルを見る。
「札に力があって、誰でも使えるって聞いてたから助かったよ」
「いや、それは……」
「あ~紫音ちゃん気が付いたんだ」
何か言いかけた紫音の言葉は、部屋に入ってきた奈美に遮られた。
あれから十分ほどの時間が過ぎていた。
奈美は部屋に札を貼ると、事務所に携帯で連絡をしていた。
『ハルが腰を抜かしちゃったんで、迎えに来て欲しいです』
間違いなく大爆笑されただろう。
当分からかわれる事は覚悟しなくてはならない。
それでも自分と傷ついた紫音が歩いて帰るよりは、余程マシだ。
「軽い打撲だと思うけど、帰ったら柚子さんに診て貰った方がいいわよ」
「だな。頭も打ってると思うし」
「う、うむ。かたじけない」
紫音は姿勢を正して、二人に礼を告げる。
「この度は私の失態で危険な目に合わせた。本当に申し訳なく思う」
「気にしないでよ。依頼は無事終わったんだし」
「だが、ハル殿は起きあがれないほどの傷を負ったのだろう?」
心配する紫音に、奈美はクスクスと笑いを堪えきれない。
「違うのよ。ハルは単に腰が抜けただけ。全く勇気があるのか、無いのか」
「うるさいやい」
「ハル殿はあの悪霊を視認出来ていたのか?」
「黒いガスみたいな奴なら見えたよ」
「なら笑うことなど出来ない。アレに立ち向かうのは、想像を絶するほどの恐怖の筈だ」
少しだけ涙が出そうになる。
理解してくれるというのは、こうも嬉しいものなのか。
「そうなの?」
「お前も体験すれば分か…………」
言いかけて止めた。
奈美が笑いながら悪霊を退治する姿が、明確にイメージ出来てしまったからだ。
「とにかく、ハル殿、奈美殿、重ね重ね感謝する」
深々と紫音は頭を下げた。
迎えが来るまで、三人は部屋で休憩することにした。
軽い雑談を交わしていると、
「ねえ、紫音ちゃん。ちょっと良いかな?」
奈美が紫音に問いかける。
「何かな、奈美殿」
「その殿って呼び方、止めない? 呼び捨てで良いわよ」
「目上の方に敬称を付けぬのは、無礼に当たるからな」
「む~、でも何かやだ」
唇を尽きだしてブーたれる奈美。
「子供か、お前は」
「ハルだって嫌じゃない? 何か他人行儀な感じがするし」
「まあ確かに」
君やさんならともかく、殿と言うのは流石にこそばゆい。
言われ慣れてないのもあるが、やはり相手を遠く感じてしまう。
「ふむ、不快に思わせてしまったか。申し訳ない」
「ううん、そんなんじゃ無いけど……もっと仲良くなりたいなって」
ハルもそれは思う。
だが紫音も意地悪で言っているわけではない。
目上に敬称を付ける、と教え込まれてきたものだろう。
何かいい手はないか……。
「…………なら、目上じゃなければ良いな」
「どゆこと?」
首を傾げる奈美に、ハルは任せろと視線を送る。
そして、紫音と正面で向き合った。
「なあ、紫音ちゃん。俺達と友達になってくれないか?」
「友達?」
「うん。友達なら年上とか関係無しで、お互い名前で呼び合うのが当然だろ」
「なるほど、確かにそうだわ。紫音ちゃん、ううん、紫音。友達になりましょ」
「し、しかし……」
突然の申し出に戸惑う紫音。
「私は今まで、友人などいなかったから……」
「じゃあ私達が第一号ってことで、どうかな?」
「嫌なら断ってくれて構わない。ただ俺達は、友達になりたいと思ってる」
黙り込む紫音に、ハルは答えを急がない。
こちらからは手を伸ばした。
後は紫音がその手を掴んでくれるかどうかだからだ。
奈美もそれを理解しているのか、優しい微笑みを向けるだけ。
無言の時が流れる。そして、
「……私も、二人と友達になりたい」
頬を染めはにかむ様な顔で、紫音は小さく答えた。
「うん、じゃあこれからよろしくね、紫音♪」
「よろしく……奈美」
握手を交わす二人。
「俺もだな。よろしく、紫音」
「…………うん、ハル」
ハルが差し出した手を握り返す紫音。
遠かった距離が、今この時確かに近づいたのを感じた。
「迎えが来たみたいね」
「歩けるか? 紫音」
「うむ、私は問題ない。ハルは?」
「………………」
「おぶってあげようか?」
ニヤニヤと笑う奈美。
「いや、何とか…………むぅ」
立ち上がろうとするが、何と根性のない腰だろう。
未だに働くことを拒否している。
「無理をするな。どれ、私が肩を貸そう」
「……すいません奈美さん。お願いします」
恥ずかしさの天秤は、紫音よりも奈美を選んだ。
「いいわよ。でもおぶるのは断られたし、よっと」
奈美はハルの首と膝下に手を回し、楽々と持ち上げた。
いわゆる一つの、
「お姫様抱っこってやつね♪」
辱めだ。
「なるほど。確かに腰を痛めた相手には、その姿勢の方が有効だな」
冷静に分析しないでください。
痛めたわけでは無いです。
そもそも奈美にそんな気遣いは無いはずです。
「紫音のお墨付きよ。さあ行きましょう」
「……神よ、そんなに俺が嫌いか?」
勿論嫌いです♪
そんな神の微笑みが見えた気がした。
紫音編はひとまず完結です。
特別な環境で育った少女が、ハル・奈美との出会いと交流を切っ掛けに、
どのような変化をしていくのでしょうか。
これでハピネスのメンバーは、ひとまず全員集結しました。
今後は、彼らの日常・依頼のお話になります。
次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。




