表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
130/130

最終章5《ハルは賑やかに幕を下ろす》

最終章の最終話、正真正銘ラストです。


あれから彼らは……。


 あれから八年の時が流れた。



 便利屋ハピネス。

 堅実な経営と優秀な人材に支えられ、八年を経ても変わらぬ経営を行っていた。

「千景ちゃん、そろそろ新しいバイトの面接時間よぉ」

「あら、もうそんな時間でしたか」

 キーボードを打ち込む手を止め、千景はふと視線を時計に移す。

 見れば約束の時間まで後僅かとなっていた。

「助かりました剛彦」

「良いのよぉ。それにぃ、履歴書の写真見たけどぉ、可愛い男の子よねぇ」

「……手を出さないでくださいね」

「分かってるわよぉ」

 ペロッと舌を出すローズ。

「今度の子は、少しは長く働いてくれると良いのですが」

「最近は根性無い子が多いわよねぇ。あの子達を見習って欲しいわぁ」

 思い出すのは二人の顔。

 女顔の男と、とにかく頑丈な女の子。

 事情があってハピネスを離れたが、あの時のことは今でも直ぐに思い出せる。

「ああ、そう言えば、あれは今夜でしたか」

「ええ。可愛い子を紹介してくれる見たいよぉ。楽しみだわぁ」

「その為にも、仕事を片づけてしまいましょうね」

「了解。じゃあ私も依頼に行くわぁ」

 ハピネス最古参メンバーの千景とローズ。

 二人は八年前と変わらぬ姿で、今も忙しい日々を送っていた。



 とある大学。

 美しい青髪をなびかせ、一人の女子学生が廊下を歩く。

 すれ違う人が皆振り返る程、美人に成長した、結城紫音だった。

「あの、結城さん」

「ん、何かな?」

「今日研究室で飲み会があるんだけど、来れる?」

 後ろから呼びかけた女子学生が、紫音を誘う。

「む、今日か。すまないが大事な用があるのだ。悪いがまた今度誘って欲しい」

「そっか、残念ね。じゃあ今度は来てよね」

「ああ、必ず」

 残念そうな顔で去っていく女子学生を見送る。

「……今日は、大切な人からの呼び出しでな」

 誰に言うでもなく呟くと、紫音は再び歩き出した。



 色彩製薬。

 かつて悪の組織カラーパレットの、隠れ蓑として利用された製薬会社。

 摘発を受けそのまま倒産かと思われたが、ハピネスによる資金援助を受けて存続、そのまま傘下企業の様な形で業務を続けていた。

「和泉教授」

 背後から掛けられた男性の声に、柚子は足を止めて振り返る。

 小さな身体を包む白衣が、ふわっと舞った。

「先日の試薬検査、結果が出ました。これが報告書です」

「ありがとうございます。……ふむふむ、概ね良好と」

 男性から渡された書類の束をパラパラと捲り、柚子は軽く頷く。

「ご苦労様でした。実験を第二段階に進めましょう」

「はい」

「私はこれから所用がありますので、非常時には主任に指示を仰いでください」

「あの~教授はどちらに?」

「ふふ、大切な友人からお誘いがありましたので」

 柚子は楽しそうに笑みを浮かべると、その場から立ち去った。



 日本の宇宙開発局、第一会議室。

 重役達が視線を向ける中、瞳に怪しい光を宿した蒼井が熱弁を振るっていた。

「吾輩の開発したこのシャトルは、従来の十分の一以下の費用で打ち上げ、帰還が可能だ」

「居住空間は従来の二倍、全体のサイズはそのままで、宇宙飛行士の精神状態も考慮している」

「製造費用も半分以下。宇宙空間での作業性も、これまでとは比べものにならん」

 次々と会議室のディスプレイに映し出される資料に、重役達は感嘆の声を挙げる。

 これが実用化出来れば、後れを取っていた宇宙開発事業に、大きな光明が差す。

「しかしだ。何か問題点はないのかね?」

「む、まあ小さな事が一つある。事故のリスクは従来の十倍以上と言うことだが、どうと言うことはあるまい」

「「とっとと出ていきたまえ!」」

 満場一致で、蒼井は会議室からつまみ出されてしまった。

「やれやれ、所詮愚民共には吾輩の発明の真価が理解できぬようだ」

「全くです」

 呆れたように呟く蒼井に、スーツの男が近寄る。

「貴方の発明は素晴らしい。Dr蒼井」

「ほう、どっちの者だ?」

「自由の国です。貴方の力を、もう一度私達のために使って頂きたい」

「吾輩は高いぞ?」

「契約金として、まず即金でこれだけ」

 男は片手の指を全部広げる。

「月々の報酬と、発明に関してはそれに見合う報酬をご用意しましょう」

「ふん、悪くないな」

「流石はDr蒼井。詳しい話は飛行機の中で。ファーストを取ってあります」

「……あいにくだが、今夜は用があってな。明日にしてくれ」

「構いませんが……何か大切な?」

「大した事ではない。が、愚民に付き合ってやるのも天才の役目だからな」

 蒼井は不敵に笑うと、男の連絡先を受け取り、開発局を後にした。



 


 正義の味方。

 悪が消えぬ限り、正義もまた消えることはない。

 長い歴史を持つ組織には、八年という時間は短いものだ。

 そんな正義の味方日本支部の司令室。

「……と言う訳で、私は今夜から明朝九時まで休暇に入ります」

「それは良いけどさ、ねえ秋乃」

 ディスプレイの向こうで煙管をふかす要が、ふと切り出す。

「あんた、本部こっちに来ないかい?」

「そのお話は何度もお断りしてます」

 銀色の制服に身を包んだ秋乃は、バッサリと要の要請を断った。

 八年の歳月は、秋乃を美しく凛々しく成長させた。

 才色兼備と言う言葉が相応しいだろう。

 そんな彼女は今、正義の味方のボスと、対等に話をしている。

「あんたほどの人材、日本支部には勿体ないよ」

「……仮にもその支部長を引き抜こうとしないで下さい」

「僅か四年で支部長まで上り詰めた逸材、喉から手が出るほど欲しいさね」

「思いの外、ここの人達が有能では無かっただけです」

 さらりと毒を吐く秋乃。

 彼女は高校途中で海外の大学に編入。

 そこを二年で卒業すると、正義の味方へと身を投じた。

 のだが、あまりにも彼女は優秀すぎ、日本支部の面々は不甲斐なかった。

 勤務開始四年で、秋乃は日本支部のトップに君臨していた。

「それに、私が日本支部勤務を希望している理由をご存じでしょ?」

「はぁ~。あの二人も相当親馬鹿だと思ってたけど、あんたもその血を引いてるんだね」

「褒め言葉と受け取っておきます」

 要の皮肉にも、秋乃は全く動じない。

「まあ良いさ。休暇は受け取ってるから、好きにするがいいさね」

「はい。では失礼します」

 通信を終えると、秋乃は手早く帰宅の準備をするのだった。




 その夜。

 とある料理屋に、ハピネス関連の面々と、秋乃が集まっていた。

 みんなを招待したのは、

「お待たせしてすいません」

 御堂ハルだった。

 八年の歳月でも、彼はほとんどその姿を変えなかった。

 だが、顔立ちは少し男性らしさが増し、精悍な顔立ちへと変化していた。

 そして以前には無かった、大人の余裕とも言うべき風格が感じられる。

「もうすぐあいつも来ますから」

「構いませんよ。久しぶりの集合ですから」

「ええ。奈美ちゃんも大変だろうしぃ」

 時間に遅れていることを謝罪するハルに、千景とローズは優しく答える。

「お兄ちゃん、奈美は奥?」

「ああ。ちょっとぐずってるみたいだ」

「やはり大変なのだな」

「これでも大分落ち着いた方だよ」

 秋乃と紫音に、ハルは苦笑しながら言った。

「待っているだけと言うのも何だ。ここは先に始めて……きゅぅぅ」

「……少しは学習してください」

 柚子の注射により、蒼井は机にグッタリと突っ伏す。

 何時も通りの光景に、ハルがクスリと笑うと、

「ごめんなさい、お待たせ!」

 店の奥から、元気な女性の声が聞こえてきた。


 現れたのは奈美だった。

 茶色がかったショートカットヘアに、勝ち気そうな瞳。

 八年前の面影を残しつつも、確実に彼女は大人の女性へと成長していた。

「大丈夫か?」

「うん、お腹一杯になったら落ち着いたみたい」

 そう言う奈美の手には、まだ小さい子供が抱かれていた。


「え~それじゃあ、みんな揃った所で、まずは今日はお忙しい中集まって頂きありがとうございます」

 堅苦しい挨拶をするハルに、一同は苦笑いを浮かべる。

 こういった真面目な所は、今も変わらない様だ。

「今日集まって貰ったのは……この子を紹介したかったからです」

 ハルの言葉に、奈美は腕に抱いた子供を皆に見せる。

 一歳前後だろうか。

 まだ本当に小さな子供は、奈美に抱かれて穏やかな寝息をたてていた。

「今月で一歳になる、俺と奈美の娘、御堂桜みどうさくらです」

「「おめでとう!!」」

 笑顔で報告するハルに、一同は拍手で祝福するのだった。



 あれから、ハルはドイツの大学を無事卒業。

 その後獣医師の資格を得て、ドイツで暫く見習いをした。

 日本で再度資格試験を受け、無事国内で働けるようになったのだ。

 奈美との交際は順調に続いており、ハルは日本戻ってきた時にプロポーズ。

 両家の両親に許しを得て、結婚。

 そして昨年、待望の第一子である桜を授かった。


「それにしても、奈美が母親になるとは……私も歳を取るわけです」

「あはは、まだ新米ですけどね」

「最初はみんなそうよぉ。前に言ったとおりぃ、母親も子供と一緒に成長するのよぉ」

「可愛いですね~。お父さん似でしょうか」

「そうかも。まあ女の子だし、ハルに似た方が良いかもしれないけど」

 奈美は我が子を愛おしげに見つめ、微笑む。

 そこには母性が満ちあふれていた。

「育児は大変と聞くが、どうなのだ?」

「あ、それは平気よ。冬麻さんや菜月さんに秋乃、それに家の両親も手伝ってくれてるし」

 御堂家、それに早瀬家の面々は桜を溺愛していた。

 代わる代わる、それこそ毎日でも誰かしらが、面倒を見に来るくらいだ。

「でも、一番懐かれてるのは、お兄ちゃんなのよね」

「まあ父親だからな」

 少しだけ誇らしげにハルは言った。

「だ、だが……それも今の内だぞ」

「どういう意味だよ、蒼井」

「年頃になれば、『お父さんと一緒に洗濯しないで』とか言い出すだろうし」

「ぐっ!」

 蒼井の言葉に、ハルはチクッと痛む胸を押さえる。

 考えないようにしていたが、当然有り得るだろう。

「さらにお年頃なら、『私この人と結婚する』とかなるだろう」

「さ、桜と結婚するなら俺を倒してからにしろぉぉ!!」

 御堂家の親馬鹿の血は、確実にハルにも流れていたようだ。

 思わず叫んだハルの声に反応して、寝ていた桜がぐずつく。

「もうハル、急に大声出しちゃ駄目よ」

「す、すまない。ごめんね~桜~」

 ハルは奈美から桜を受け取ると、腕に抱いて左右にゆっくりと振る。

 見事な手並みに、桜は再び穏やかな寝息をたてた。


「……とにかく、桜と結婚したいなら、それ相応の相手じゃ無いと駄目だ」

 まだ一歳の子供に何を言っているだろうか。

 だけどハルは真剣だった。

 父親と言うのは、こういうものなのだろう。

「勿論、私とお父さん、お母さんも倒して貰わないと、話になりませんけど」

「桜のお相手なら、最低私の拳に耐えられないとね」

 母親と叔母もすっかりその気になっていた。

 と言うか、

「「絶対無理だよ、それ」」

 人間では不可能な関門だった。


 その後も、久しぶりにあった仲間達の話は尽きることなく続く。

 近況報告から、ちょっとした出来事まで。

 料理屋の明かりと笑い声は、夜遅くまで絶えることは無かった。



 ふと、ハルは奈美に尋ねる。

「なあ奈美、今……幸せか?」

「何よ急に。勿論幸せに決まってるでしょ。ハルは違うの?」

「いや、俺も幸せだよ」

 ハルは一番優しい笑顔で、愛する妻と娘を抱き寄せる。


 ハピネスとは、幸せや幸福を意味する単語。


 ハルと奈美の物語は、その名の通り幸福に包まれたまま続く。

 何時までも変わらずに。 



まずは、本小説をここまでお読み下さりありがとうございました。

130話にも及ぶ長丁場となりましたが、最後まで書き続けられたのは、読んでくださった方、感想を下さった方に力を頂けたからです。

深く感謝いたします。


本編もどうにかハッピーエンドとなりました。

試しに全滅エンドも書いてみたのですが、なぜかギャグになりました。舞台が天国に変わっただけで、何も変わらずほのぼのした感じになっております。

どうやら作者にはバッドエンドを書く実力は無いようです。

悲しいやら嬉しいやら複雑です。



以前ご報告した通り、これからは暫く二次創作の小説を投稿します。

オリジナルを待って下さる奇特な方(大変ありがたいことです)とは、しばしのお別れとなります。

二次創作が終わりましたら、もう一つのオリジナル長編を投稿予定です。

同時投稿は……状況次第でありえるかもしれません。


作者の小説は、「○○はじめました」と言うタイトルで統一して行きますので、またお目にかかれる機会がありましたら、お付き合い頂ければと思います。


長々と失礼いたしました。

この小説を最後までお読み頂き、本当にありがとうございました。


次回……またご縁がありましたらお付き合い頂ければ幸いです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ