最終章3《ハルは静かに歩を進め》
最終章第三話です。
謎の試験を受けたハル。
彼を待ち受ける、試験の結果とは……。
待つだけの時間というのは、長く感じる物だ。
特に重大な発表を待つ時間は、期待と不安が入り交じり、一層長く感じられる。
だから……。
「ふむ、だからつい爆睡してたとしても、仕方ないと?」
「……反省してます」
ハルは深々と頭を下げた。
試験終了後、ハルは教授の部屋で結果発表を待つことになった。
ソファーを借りて、疲れた身体を休めようとしたのだが……予想外の事が。
思いの外、ハルの身体は睡眠を求めていたのだ。
結局ソファーに横になって数秒で、ハルは熟睡。
教授がどれだけ起こしても、全く目覚めることは無かった。
そして今は夜。
試験終了から実に六時間以上が経過していた。
「やれやれ、正直救急車を呼ぼうかと思ったくらいだよ」
「ホントすいません」
「謝る相手は他に居るだろ?」
教授は視線を横にずらす。
そこには、無表情でコーヒーを啜るクンツ監督官が居た。
『すいませんクンツさん。ちょっと寝過ぎたみたいで……』
『正直驚いている。この様なケースでは、大抵の受験者は緊張して待っている物だからな』
『う……』
『責めている訳ではない。寧ろ、その位神経が図太くなければやっていけないだろう』
クンツはすっと立ち上がると、ハルが座るソファーの前まで進む。
慌てて立ち上がるハル。
『では、試験結果を発表する』
『その為に……わざわざ残ってくれたんですか?』
『それが私の仕事だ』
さらりと言うクンツだが、ハルは悪いことしたと顔をしかめる。
『気にする必要はない。新たな友を迎えるのだ。時間などさほど問題ではない』
『え……』
『御堂ハル、合格だ。四月からの編入を許可しよう』
クンツの言葉に、ハルは一瞬頭が真っ白になった。
「合格……出来た」
「おめでとう。君の努力を、どうやら運命の女神は見ていたらしいな」
「教授……」
「こちらの手続きは私がやろう。君は気にせず、新たな生活に備えるが良い」
「ありがとうございます」
優しく微笑む教授に、ハルは本心からお礼を言った。
『こちらが必要書類だ。一週間以内に記入し、郵送してくれ』
『はい』
『それと、これが私の携帯番号とメールアドレスだ。細かな連絡事項は、追って連絡する。君も不明な点があれば、ここに連絡をくれ』
『分かりました』
『次に会うときは、君がこちらに来たときだ。楽しみにしているよ』
『ええ、俺も楽しみにしています』
グッと差し出されたクンツの右手を握り返す。
『では私はこれで…………っと、大事な事を忘れていた』
クンツはふと思い出したように、鞄からある物を取り出す。
『約束、だからな』
ハルに差し出されたそれは、先程のシャープペンだった。
笑顔でそれを受け取るハル。
満足げに頷くと、今度こそクンツは部屋を後にした。
「もう遅い。君も戻るといいだろう」
「はい。色々とお世話になりました」
「……ところでな、一つ聞いておきたいんだが」
教授は何気なくハルに問いかける。
「何故急に進路を決めたんだね。何か切っ掛けがあったのかな?」
「……まあ、ちょっと」
「差し支えなければ教えて欲しい。何せ、あまりに特殊な進路だからね」
ハルは答えを迷うように、暫し視線を彷徨わせる。
そして、言葉を選ぶように静かに話し始めた。
「助けてくれ、と目の前で言われたら……教授はどうします?」
「助けるだろうな。私に助けられれば、だが」
「俺も同じです。だから……助ける力の無い自分が悔しかったんです」
「ふむ……」
「それが動機です。詳しいことは勘弁してください」
「いや充分だよ。悪かったね、踏み込んだことを聞いてしまって」
「教授にはこれから手間を掛けさせますからね。迷惑料、と言うことで」
悪戯っ子のように笑うハルに、教授もつられて笑みを零した。
晴れやかな表情で星空の下を歩くハルは、すっかり忘れていた。
試験のため切った携帯の電源を、まだ入れていないことを。
そこには、奈美と秋乃から山のようなメールと着信が来ていることを。
そして、完全無視された二人が、鬼のような形相でハルの帰りを待っていることを……。
何かに向け、着々と進むハルですが、怖い存在を忘れてましたね……。
そろそろ洗いざらい吐いて貰うとしましょう。
次回はようやくネタばらし。
それと一緒に、一応最大の山場も待ちかまえてます。
いい加減ハルにも態度を決めて貰わないと。
最終章もいよいよ大詰め。
最後までお付き合い頂ければ幸いです。