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護衛承ります(1)

千景に呼び出されたハルと奈美。

果たして二人に告げられる用件とは……。


 ある日のこと。

 ハルと奈美は、千景から事務所に来て欲しいと連絡を貰った。

「何だろうね?」

「さあ、多分何かの依頼絡みだと思うけどな」

 肝心の何故、が抜けていたため、二人は首を傾げながら事務所に訪れる。

「こんにちは」

「ちわ~です」

「二人ともぉ、良く来てくれたわねぇ」

 事務所に居たローズが、二人を笑顔で出迎える。

「やあローズ。千景さんに呼ばれたんだけど……」

「ええ聞いてるわぁ。今千景ちゃんは席を外してるけどぉ、直ぐ戻ると思うからぁ」

「忙しそうですね」

「経営者は色々大変なのよぉ」

 ローズは苦笑を浮かべた。

「まあそう言うことなら事務所で待たせて貰いますね」

「悪いわねぇ。お茶と菓子くらいは出すからぁ」

「わ~い♪」

 三人は応接スペースに移動し、千景の戻りを待った。



 それから十分ほどが過ぎた頃、

「ただ今戻りました。ああ、三人とも、お待たせしてすいません」

 千景が事務所に入ってきた。

「この件は処理しました。後は指示通りに」

 書類の束を鈴木に預けると、千景は応接スペースに。

「忙しそうですね」

「毎度の事ですよ。さて、わざわざ二人に来て貰ったのは、とある依頼に協力して欲しいからです」

「協力?」

「ええ。勿論報酬は通常の依頼と同様に支払います」

「複数人による共同作業って訳よぉ」

 ハピネスの依頼は、基本的に個人単位で行う。

 複数人で行うのは、余程大きな依頼か、厄介な依頼に限られている。

 どちらにせよ大変な依頼に間違いはない。

 ハルは覚悟を決めて、話を聞くことにした。

「どうやら二人とも異存は無いようですね」

「じゃあ説明するわねぇ。今回の依頼はぁ、とある要人の護衛よぉ」

「……ねえハル。護衛って何?」

「対象を守るって事だ。今回は、その要人のボディーガードだと思えば良いだろ」

 へ~と奈美はひとまず納得した。

「じゃあ要人ってのは?」

「ん~地位とか身分が高い人って感じかな。政治家とか企業の偉い人とか」

「その通りです。そして今回の護衛対象もかなり高貴な身分の人です」

 千景の言葉にハルは内心疑問を抱く。

 そもそもそんな要人なら、専門のSPや軍、警察の護衛がつく。

 民間企業の、それも便利屋であるハピネスにお呼びなど掛からないと思うのだが。

 そんなハルの考えを読んだのか、

「ふふ、まあハル君の思っている事も分かりますけどね」

 千景は苦笑する。

「あ、いえ、別にハピネスが駄目って言ってる訳では無くてですね……」

「分かってますよ。それに間違っている訳でもありませんから」

「え、それは一体……」

「話す前にお願いが。この話、絶対に口外しないで下さい」

 真剣な表情で千景は二人に告げる。

 それだけで、今回の件の重大さが伝わってくる。

 ハルと奈美は無言で頷いて見せた。

「結構。それでは今回の護衛対象について説明します」

「二人はぁ、アイマン王国って知ってるぅ?」

「……外国?」

 そりゃそうだろうが。

 日本以外は全部外国なんだから。

「アイマン…………ん、確か中東にそんな名前の小さな国があった気が……」

「あらぁ、流石ハルちゃんねぇ。マイナーな国なのにぃ」

「学生の時授業で見た記憶がある程度ですが」

「……あったっけ?」

 頼むよ現役高校生。

「アイマン王国は中東に位置する小国です。ただ、サウジやクエートに匹敵する油田を持っているため、経済面ではかなり強い立場ですね」

「まあ一般の人にはぁ、あまり馴染みのない国であることは確かねぇ」

「……てことは、今回の護衛対象はその国の偉いさんですね?」

 頷く千景とローズ。

「今回護衛をするのは、アイマン王国第十二王女アイシャ・カラフカーレッドです」

「王女……って、王族!!」

「しぃぃ、声が大きいわよぉ」

「す、すいません。でも王族の護衛って……」

 正直予想の斜め上をいかれた。

 千景の事だから、国の重臣や大富豪くらいなら覚悟していたが。

「気持ちは分かりますが……奈美は随分落ち着いてますね?」

「この辺は女の方が肝が据わってるのかしらぁ」

「奈美は平気なのか?」

「え、王女って王様の娘でしょ? 別にそんな意識する事も無いと思うけど」

 恐るべき肝っ玉だ。

 単に鈍いとも言えるが……。

「話を続けても?」

「すいません。大分落ち着きましたので」

 ハルの言葉に頷くと、千景は話を再開する。


「これは極秘事項ですが、アイシャ王女が明日来日します。当然非公式にです」

「目的は何です?」

「日本文化の勉強らしいわよぉ。表向きはぁ、だけどぉ」

 意味深にローズは笑いながら言う。

 暗に本当の目的は別にあるぞ、と告げていた。

「私達は来日中の王女の護衛。期間は二泊三日の予定です」

「……幾つか質問しても?」

 ハルの言葉に千景は頷いてみせる。

「まず、今回の護衛に参加するのは……この四人ですか?」

「そうです」

「そこに俺が含まれている理由は何ですか? 正直、護衛には不適当だと思いますけど」

 モノマネが出来るとは言え、ハルは平凡な一般人。

 こと戦いの分野に関しては、ここにいる三人とは比較にならないだろう。

「ハルちゃんにはぁ、護衛と言うよりも別の役割を期待してるのよぉ」

「と言いますと?」

「アイマン王国はアラビア語を主言語としてます。私は読み書きは多少出来るのですが、会話に関してはあまり自信が無いので」

「……なるほど、つまりは通訳って事ですね」

 ハルのモノマネは、言語も真似られる。

 読み書きは出来ないが、意思疎通をするには充分。

「不満ですか?」

「いえ、寧ろ安心しました。俺に荒事を期待して無くて」

「だよね~」

 ハッキリ言われるとそれはそれで複雑だが。

「意思疎通は護衛にとって大切よぉ。とっても重要なポジションに変わりないわよぉ」

「分かってますよ」

「……他に質問はありますか?」

「後一つだけ。非公式で王女が来日、どうしてうちに依頼が来たんですか?」

「それは簡単です。王女とは個人的な付き合いがあるからです」

「ああそうなんですか…………って、えぇぇぇぇぇ!!!」

 驚きのあまりハルは思わず立ち上がってしまった。

「もうハルちゃん。あまり騒いじゃ駄目よぉ」

「いやいやいや、騒ぐなって方が無理でしょうが」

「少しは奈美ちゃんを見習ったらどう?」

 ハルの隣に座っている奈美は、全く動じていない。

「こいつは多分、事の重大さを分かってないんですよ」

「……あのねハル。千景さんだよ」

「はぁ?」

「だから、千景さんなんだから、誰と知り合いでもおかしくないでしょ?」

 不思議だ。

 不思議な説得力がある。

 もうどんな事態も、それだけで納得してしまう。

「……言われてみればそうだな」

「でしょ♪」

「この場合、私は褒められてるのか貶されているのか……」

「褒められてるのよぉ……多分ねぇ」

 ひとまずハルは落ち着きを取り戻した。


「さて、話はこれで終わりです。明日は揃って空港に出迎えに行きますよ」

「何か用意する物とかはありますか?」

「普段の依頼と同じ感覚で良いわぁ。必要な物は私達が揃えて置くからぁ」

「ボディーガードか~。何か格好いい感じだよね♪」

「……お前のそのポジティブさが羨ましいよ」

 一国の王女の護衛。

 考えただけでも胃が痛くなりそうだ。

「それでは今日は解散で。明日からよろしくお願いしますね」



 かくして、ハル達は王女の護衛依頼を受ける事になった。


久しぶりの続き物。

全部で五話位の予定です。


外国の王女と言えば、誰かにそっくりネタが王道ですが……どう考えてもハピネスでは成立し無そうなので、護衛して貰うことにしました。

ローズそっくり、とか言われても……ね。


毎度の事ですが、この小説はフィクションですので、実際の国や団体とは一切関係がありません。

アイマン王国も架空の物です。

調べてないのでもし本当にあるかもしれませんが……無関係です。


王女護衛編のスタート。

次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。


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