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年越しは賑やかに

大晦日を迎え、今年も残すところ後一日。

そんな日なのだが、ハルには何やら悩み事があるらしく……。


 さて、困ったことになった。

 テレビの笑い声が流れる自室で、ハルは思考を巡らせる。

 今日は十二月三十一日、まあ大晦日だ。

 困ったと言っても、世間的には大した問題ではない。

 お金が無くて年が越せない、と言う重い話でも無い。

 では何を困っているのか。

 それは、

「……秋乃のことをすっかり忘れてた」

 実の妹、秋乃の事だった。


 例年御堂家は一家揃って年を越す。

 だが今年は色々事情があり、両親が海外に居るため、始めて一人で年越しだと思っていた。

 それはそれでアリだとも思っていた。

 しかし、秋乃は違ったらしい。

 今朝に電話があり、

『年末年始は帰省出来るから、お兄ちゃんの家に行くね』

 と一方的に告げて切られてしまった。

 秋乃の事だから、間違いなく実行するだろう。

 そうなれば、この部屋で秋乃と一緒に寝泊まりすることになる。

 それはいい。

 別に秋乃を嫌っている訳ではないし、兄妹水入らずで年越しするのも良いだろう。

 だが、

「……親父がな~」

 父親である冬麻が問題なのだ。

 元々ハルの一人暮らしは、秋乃からハルと遠ざける名目だったはず。

 ならばこの状況は、冬麻にとってNGだろう。

 今は海外に居るからバレる筈ない?

 とんでもない。あの父親が気づかない筈無い。

 それに、ある事件で正義の味方の監視が着いている事も判明している。

 間違いなく情報は筒抜けだろう。

「俺が平穏に年を越すには、秋乃の行動を阻止する必要がある」

 端から見ればアホな事だが、ハルは真剣そのものだった。


「だがどうやって……あいつのスペックは俺と比較にならないし」

 あらゆる面で、兄であるハルを上回る秋乃。

 正攻法で戦うのは無謀だろう。

「いっそホテルに泊まるか。それならあいつも手は出せないだろうし」

「私はそれでも構わないよ」

「そうか。ならネットで当日の空きがあるか調べてみるか」

「ええ。あ、禁煙室にしてね。たばこ臭い部屋は嫌だから」

「そりゃ俺もだよ。んじゃ条件を禁煙にして…………」

 ようやく、ハルは気づいた。

 自分が今誰と会話をしているのかを。

 ギギギ、と油の切れた人形のように後ろを振り向くハル。

 そこには、

「……やあ秋乃……久しぶり」

「こんにちはお兄ちゃん♪」

 にこやかな笑みを浮かべた秋乃が立っていた。


 いつから居たのだろうか。

 まさか自分の背後、一メートル以内に居たのに気づかなかったとは。

「どうしたのお兄ちゃん。ホテル調べないの?」

「あ~いや、その~なんだ……」

「なぁに?」

「い、いつから……いや、何処から聞いてた?」

「最初からだよ♪」

 可愛らしい笑みなのに、背筋がゾッとするのは何故だろう。

「最初って言うと?」

「秋乃のことをすっかり忘れてた、からだよ♪」

「すまん!!」

 ハルは思いっきり土下座した。

 忘れてた、と言ってしまった以上言い訳も出来ない。

「別に怒ってないよ。ほら、頭を上げてよ」

「……本当か?」

「勿論。だって、わざと忘れられる様に今朝まで連絡しなかったんだから」

「へ?」

「前もって連絡したら、お兄ちゃん逃げちゃうでしょ? だからギリギリまで黙ってたの」

 にこやかに告げる秋乃だが、その笑顔が逆に怖い。

 いつから妹はこんな駆け引きを憶えたのだろう、とハルは別の悩みを抱えてしまった。

「その話は置いて置いて……今日から三日まで、よろしくね」

「あ~何だ、その事だけどさ、俺とお前が一緒に暮らすと親父が……」

「ふふ、それは大丈夫よ」

 微笑む秋乃。

 一体何処からその自信が出てくるのだろうか。

「実はね、お父さんはお兄ちゃんと私のこと、今はもう心配してないの」

「あの親父がか?」

 にわかには信じがたい話だった。

 息子を放り投げる程、娘を溺愛していると言うのに。

「前にドイツでお父さん達に会ったとき、奈美を連れて行ったじゃない」

「ああ、そうだな」

「でね、その時言っておいたの」

「……なんて?」

「お兄ちゃんと奈美はできてるから、もう心配ないよって♪」

 何て事を言ってくれたのだろうか。

「……信じたのか?」

「それはもう、二人とも大喜びだったわ。特にお父さんなんか号泣してたもん」

 多分ハルを祝福してでは無いだろう。

 どんだけ娘が好きなのか。

「だ・か・ら、お兄ちゃんの部屋で一緒に居ても大丈夫だよ」

「………………」

「……それとも、私と一緒に居るのは嫌?」

 笑顔が消え、少しだけ悲しそうな表情をする。

「馬鹿。妹を嫌う兄貴が居る訳ないだろ」

 苦笑を浮かべながら、ハルは秋乃の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。

 髪が乱れたが、秋乃は気にせずに嬉しそうにされるがままだった。


 

「さて、俺はそろそろ買い出しに出かけるけど?」

「私も行くわ。泊めて貰うんだし、荷物持ち位はしないとね」

「気を遣う必要は無いぞ?」

「良いのよ。お兄ちゃんと買い物できるだけで嬉しいし」

 笑顔でそこまで言われて、断る理由など無い。

 ハルは秋乃と共に、食材その他の買い物に向かった。



 買い出しと料理の準備は順調に終わった。

 正月料理の仕込みも、秋乃の手伝いがあったお陰でつつがなく終了。

 餅つきの依頼を終えた奈美も合流し、三人揃っておこたでくつろいでいた。


 たわいない雑談をしながら、美味しい料理を食べる。

 幸せな時間だったのだが、夜に差し掛かると、大きな問題が三人に立ちはだかった。


「……紅白だ」

「ううん、バラエティーよ」

「格闘技でしょ」

 三人は机に置かれたリモコンを掴み、主張を繰り返す。

「日本人の大晦日は、紅白って相場が決まってるんだ!」

「古いわよお兄ちゃん。一年の最後は笑って終わるべきだわ!」

「熱い戦いを見てテンションをあげるべきよ!」

 恐らく、どの家庭でも繰り広げられるであろう戦い。

 つまりは、チャンネル争いだ。

 近年の大晦日と言うのは、各局とも力を注いでいる。

 鉄板の紅白、某局のバラエティーと格闘技。

 三人が見たい番組は、見事にばらけてしまった。

「……二人とも良く聞け。ここは俺の家で、このテレビは俺のだ」

「それは極論だわ。人が集まっている以上、全員に公平にチャンスがあるべきだと思うの」

「秋乃にさんせ~。大体紅白なんて、今時年寄りしか見ないわよ」

「ほう、聞き捨てならないな。紅白から行く年来る年の流れは、日本人の心だぞ」

「時代は変わったのよお兄ちゃん」

「年末に身体を張って戦う姿を見るべきだわ」

「歌手だって身体張ってるんだよ。それに今年は俺の好きな歌手も出るから譲れないな」

「私も好きな芸人が出るから譲れないわね」

「私だって、応援してる選手が出場してるから譲らないわよ」

 三人はそれぞれ主張を繰り返すだけで、話し合いは平行線を辿っていた。

 このままでは、番組が始まってしまう。

「……ここまで意見が分かれてる以上、話し合いでは解決出来ないと思うの」

「それは同意する。だがどうする?」

「ここは一つ、何か勝負をして決めるのはどう?」

 意見を纏めるのが無理な以上、何らかの方法で意見を選ぶ必要がある。

 時間も無いため、ハル達はそれに同意する。

「良いだろう。それで、何で勝負を決める?」

「殴り合う?」

「それだとお兄ちゃんが可哀想だから……」

 普通逆だよね。

 女の子二人と男一人なのに。

 勿論反論は……しない。

 何故なら、本気で殴り合ったら、まず間違いなく勝ち目など無いのだから。



 話し合いの結果、勝負はジャンケンで決める事になった。

 開始直後、ハルが脱落。

 その後秋乃と奈美が大激戦を繰り広げ、最終的には、

「やった~私の勝ち~♪」

 驚異の勘と常人離れした視力をフル活用した、奈美がチャンネル選択権を得た。



 そして大晦日の夜、ハルの家では格闘技観戦が行われる事となる。

 奈美が熱い視線をテレビに向けている間、ハルと秋乃は夕食の片づけを行っていた。

「お前もくつろいでて良いんだぞ?」

「泊めて貰うんだし、これくらいはさせてよ」

「ま、俺は助かるけどな」

 二人でやれば効率も上がる。

「それにしても、奈美には驚かされたよ」

「まさか、振り下ろした瞬間の指の形を見て、自分の手を変える何て思わなかったわ」

「あいつは自分の力の使いどころを間違ってる気がする」

「でも、奈美らしいわよ」

 クスクスと笑う秋乃。

 そこには負けて悔しいと言う感情はまるで無いようだった。

「良かったのか?」

「お兄ちゃんこそ良かったの?」

「俺は柚子に頼んで、今度紅白を録画したDVDを貰える事になったから」

「私もよ。友達が録画してくれてるの」

「紅白見て過ごしたかったのは確かだけど、あいつが喜んでるならそれもアリかなって思うよ」

「相変わらず奈美に甘いのね。やっぱり好きな子には甘くなるのかしら?」

 不意の一言に、ハルは思わず洗っていた皿を落としそうになる。

「な、何を言ってるんだよ」

「思春期の学生じゃ無いんだから、そんなに慌てないでよ」

「お前が変なこと言うからだ」

「違うの?」

「俺と奈美は…………」

 そこまで言ってハルは言葉に詰まる。

 自分と奈美の関係。

 妹の友達。職場の同僚。隣人。

 どれも間違っていないが、どれも違う気がする。

「……子供なのはお兄ちゃんの方かもね」

 秋乃の言葉をハルは否定できない。

「まあ二人の事だから外野がとやかく言うのはお門違いだけど、一つだけアドバイスね」

「何だ?」

「全部を無視して、自分の気持ちにだけ素直になれば良いと思うよ。それが一番大事な事だから」

「…………憶えておくよ」

 洗い物を終え、タオルで拭いた手でハルは秋乃の頭を撫でた。

 それには確かに感謝の気持ちが込められているのを、秋乃は感じた。


「それに、女子高生と付き合える機会なんて滅多に無いんだしね♪」

「なっっ!!」

「四つ下か~。まあギリギリロ○コンじゃないって感じかな?」

「お前は……」

「あ、心配しないで。私はお兄ちゃんがどんな性的嗜好でも好きだから」

「……少しでも感謝した俺が馬鹿だった」

「でも注意してよ。妊娠退学なんて、向こうの親御さんの印象悪いだろうし」

「…………秋乃ぉぉぉぉぉ!!!!!」

 ドタバタと、狭い部屋の中を追い駆けっこする兄妹。

 そこに何故か奈美も加わり、収拾のつかない事態へと発展。


 そして、

「え~い、ヒールホールド!!」

「ぬぉぉぉぉぉぉ!!」

 テレビの格闘技と同じ技を奈美に決められ、ハルが本気の絶叫をあげる事になる。

「ん~これはかかあ天下かな?」

「お前はぁぁぁ、兄を助けようとはぁぁ、思わないのかぁぁぁ」

「……奈美、膝の決め方が甘いわよ。もっとこうした方が……」

「あ、そうか。ありがとうね、秋乃♪」

「うぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」

 より完璧に間接を決められ、ハルは涙混じりに絶叫する。

 当然タップは認められない。

「秋乃ぉぉぉぉ、兄を見捨てるのかぁぁぁぁ!!」

「見捨ててないよ♪ ただ、将来のお姉さんにも優しくしなくちゃね♪」

「むむ、いい感じよ。ハル~本気で行くわよぉ!」

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 こうして、ハルは絶叫と共に年越しをする事となるのだった。



投稿のタイミングを完全に逃しましたね(苦笑)。

一応年末年始の作品はかなり早い内から用意していたのですが、まさか後出しになるとは……。

年末年始シリーズは、全部で三話の予定です。


悩まされていた風邪ですが、お陰様で完治しました。

医者に頼んで薬を変えて貰ったら、翌日には治っていたという事実。

皆さんも効かないと思ったら直談判してみると良いかもしれませんよ。


そんなこんなで、小説世界でもようやく年を越せました。

次は正月のお話です。


次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。

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