小話《痴漢は犯罪です!》
ハピネスを訪れた美園警視。
何やら依頼があるようですが、どうもコレクト絡みでは無いらしく……。
ハピネス事務所にやってきたのは、お馴染み美園警視だった。
またコレクトからの挑戦かと、ハル達は身構えるのだが、
「今回は別件での協力をお願いしたいのです」
美園はハル達の態度を見て、直ぐさまそれを否定する。
「警察が怪盗以外の事件で、民間である私達に協力を求めると?」
「それは申し訳なく思っています。ただ、この件に関しては警察もお手上げでして」
無念そうに告げる美園。
そのただならぬ様子に、ひとまず話を聞くことになった。
応接スペースに集まった面々を前に、美園は口を開く。
「実は……とある犯罪者の対策について、知恵を貸して頂きたい」
「何の犯罪です?」
「…………痴漢です」
美園は怒りと呆れが混じった声で答えた。
痴漢。
公共の場所で相手に羞恥心を抱かせ、不安にさせる行為を行う者もしくは行為。
現代日本では、電車内で行われる事が多いらしい。
「てことだ。分かったか?」
「うん、何となく。あれでしょ、女の人のお尻とか触る変態」
「女性に対して不埒な事をする不届き者、と言う認識で良いのだな?」
ハルの説明で、奈美と紫音はひとまず理解したらしい。
紫音はともかく、奈美が知らないのはどうかと思うが……。
「でも痴漢の対応なんて、それこそ警察の仕事だと思いますけど」
「私も同意見です。だからこそ、美樹が私達に相談する理由が聞きたいですね」
ハピネス一同の視線は、沈黙を守っている美園に向けられる。
「痴漢の常習犯である男がいます」
美園は小さく語り始めた。
「その男は巧妙な手口で、数え切れない女性に屈辱を与えてきました。が、当然当局が見過ごすはずもなく、現行犯で男を逮捕しました」
「……めでたしめでたし?」
「そうは問屋が卸しませんでした。その男、釈放された後も懲りずに何度も痴漢を繰り返し、捕まり懲役を受け、釈放後にまた痴漢を行っているのです」
「生粋のクズねぇ」
吐き捨てるように言ったローズに、ハル達も賛同する。
「捕まる事に、男の手口は巧妙化しています。まるで、実戦で経験を積むかのように」
「実戦に勝る修行はないと言うが……救いようが無いな」
「だが解せない。長く豚箱に放り込んで置けばいい話だろ」
蒼井の言葉に、しかし美園は首を横に振る。
「日本の法律では、痴漢という罪は無いのです。基本的に迷惑防止条例と強制わいせつ罪が適用されますが……」
「どちらも、さほど重い罰は与えられませんね」
補足する千景に、美園は頷く。
「最長で十年の懲役ですが、それが付くことは殆どありませんし……」
「他に何か?」
「刑務所では模範囚で通ってますので、刑期の短縮が認められてしまいます」
「何よそれ。繰り返すって事は、反省してないって事じゃない!」
「上辺だけでも反省しているふりすればぁ、それを本心かどうか見分けられないのよぉ」
「……やりきれない話だな」
応接スペースに、何とも言えない沈黙が訪れた。
「それで、貴方はハピネスに何を依頼しようと言うのですか?」
「何らかの手段で、その男に痴漢を止めさせて欲しいのです」
「「ん~~~」」
美園の言葉に、ハル達は難しい顔。
今の話を聞く限り、どう考えても不可能だろう。
「……何かアイディアがある人はいますか?」
「あ、は~い♪」
諦め半分で尋ねた千景に、奈美が元気良く手を挙げる。
「はい、奈美どうぞ」
「徹底的にボコボコにして、二度と痴漢出来ない身体にしちゃえば良いと思います♪」
「「それ採用!!」」
「「んな訳ないだろぉぉぉ!!」」
ハルと美園のダブル突っ込み。
「え~凄い良いアイディアだと思ったのに」
「そんな事すれば、今度はお前が犯罪者になっちまうぞ」
「いえいえ、そこは美園警視殿が何とかするでしょう。ねえ、美樹?」
「私の首と引き替えにしても、流石に庇いきれないですって」
「勿論冗談です」
本気の目をしていた。
間違いなく、本気だった。
「千景ちゃんたらぁ、無理言っちゃ駄目よぉ」
「分かってくれますか、剛彦」
「勿論よぉ。やるならぁ、証拠を残さないようにしないとぉ」
「成る程……剛彦、移動中の電車、狙撃できますか?」
「三キロ圏内なら確実にぃ」
「だからぁぁぁぁ!!」
奈美より圧倒的に物騒な二人に、美園は頭を抱えて絶叫する。
「駄目だよ二人とも」
柚子が窘めるように注意する。
常識人が来た、と美園とハルは安堵するのだが、
「狙撃じゃ銃弾が証拠になるじゃない。殺るなら千景ちゃんが一番適任だと思うわ」
「「ブルータスお前もかぁぁぁ!!」」
やっぱり柚子もハピネスの所員だった。
その後も色々な案が浮かぶ。
のだが、そのどれもが男を物理的にどうこうする物ばかり。
当然警察である、美園の許可が出るはずもない。
「はぁ、はぁ、いい加減突っ込み疲れてきました……」
「……今日は少し楽だな」
突っ込み役が他に居るというのは、何とも気楽だった。
「まあ、そろそろ美樹虐めも飽きたので、真剣に話すとしましょうか」
「「は~い」」
「あ、貴方達は……」
「気にしてると疲れますよ」
額に青筋を浮かべる美園に、ハルは経験者として助言する。
「物理的な行為が駄目なら、やはり意識改革しか無いな」
「でもどうやって? 話を聞く限り、本人は全く罪の意識が無いっぽいぞ」
「紫音の術で操るとかは?」
確かに物理的では無い。
無いが、結構グレーゾーンだ。
「一時的には可能だろうが、持って三日。持続に問題有りだ」
「ならやっぱり、私の開発した新薬を……」
「「ん~~~」」
それも物理的や、と突っ込みたいが、ギリギリ妥協出来るラインでもある。
正直考えが煮詰まってきた事もあり、それで行くかと言う空気が流れ始めてきた。
そんな中、奈美が不意に言葉を発する。
「あのね、私ちょっと思ったんだけど……」
「何だよ」
「子供の頃ね、私お母さんに人を訳もなく殴っちゃ駄目って教えられたの」
「そりゃ当然だろう」
「で、どうしてって聞いたら、思い切りお母さんに殴られて、『痛いでしょ? 自分がされて辛かったり嫌な事は、人にしちゃいけないのよ』って教わったわ」
過激な方法であるが、奈美の母親の言葉は正しい。
子供にいけない事を教えるには、何故駄目なのかをキチンと教える必要があるからだ。
「……なるほど」
奈美の言葉で、千景は理解したようだ。
「つまり、それは今回の件にも適応できると」
「はい。自分が痴漢されれば、相手の気持ちが分かるんじゃ無いかと思うんです」
「でも相手は男だろ。それこそ痴女でも居なけりゃ……」
そこまで言って、ハルはふと思いつき、視線をある人物へと向ける。
思いは同じらしく、その場にいた全員が同じ人物を見る。
その人物は、
「……あらぁ、私かしらぁ?」
その道のプロ、ハピネスが誇る男の天敵、ローズだった。
「剛彦、やれますか?」
「うふふぅ、私を誰だと思ってるのぉ」
ウインクをするローズは、頼りがいのある台詞を言った。
もっとも、中身は非常に情けない話だが。
「良いわぁ。私の友達も集めてぇ、徹底的にやっちゃうわよぉ♪」
「い、いや、同性でも痴漢は成立する訳でして……」
美園が一応警察として止めようとするが、
「悪質な犯罪者に報いを与え、多くの女性達に安心を与える。何か問題でも?」
「因果応報だな」
「今までの案で、一番まともかと」
「そもそも立件されなければ良いわけですし」
「車両を身内で固めてしまえば、現行犯も通報も恐れるに足らずだ」
「良く分かんないけど、良いんじゃないですか?」
妙に乗り気なハピネスメンバーには馬耳東風だった。
「では詳細を詰めましょう」
「「は~い♪」」
こうして、美園警視公認?のハピネスによる、痴漢更正作戦が始まった。
その後。
「依頼は達成と言うことで?」
「不本意ながら」
ニヤリと笑う千景に、美園は不服そうな顔で報酬を手渡した。
「全く、これが表沙汰になればとんでも無い事ですよ」
「でも表沙汰にならなかった。貴方の望み通りの結果をもたらして、ね」
「……やりすぎの様な気もしますが」
ハピネスの作戦は、痴漢男を逆痴漢して反省を促すという物。
女装したハルが囮となり、ローズ達その道のプロしか居ない車両に痴漢男を誘い出す。
後は…………ご想像にお任せする。
まあ、過程はともあれ、美園の依頼そのものは成功と言えるだろう。
男は二度と痴漢に手を染めることが無かったからだ。
ただその副産物として、
「人生観まで変えるなんて……」
「協力者達は喜んでましたよ。仲間が増えたって」
新宿二丁目の住人になってしまったが。
「今度剛彦達と一緒に、お店に行ってみるつもりですけど……貴方も一緒にどうですか?」
「……遠慮しておきます」
かくして、女の敵である痴漢の更正作戦は幕を閉じた。
何とも酷いオチでして……。
最後に残った良心で、詳しい描写はカットしました。
痴漢が『アッー』された場面なんて、誰も読みたく無いでしょうし、何よりR18タグ付けなきゃいけないので……。
タイトル通り、痴漢は犯罪です。
因みに本編でもあるように、同性でも成立するらしいですよ。
気を付けましょう……って気を付けてる時点で駄目なのですが。
次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。