表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/130

小話《奈美って何者?》

ハピネス事務所での、ちょっとしたやり取り。


 それは、とある日のハピネス事務所。


「あの~千景さん、ちょっと聞きたいんですけど」

「はい、何でしょう」

「あいつ……奈美って何者なんです?」

 ハルの問いに、千景は少し首を傾げる。

「何者って、この春高校生になる早瀬奈美ですよ」

「そう言う事ではなくて……」

「……何かありましたか?」

「ええ。実は先日、こんな出来事がありました」



 数日前、ハルのアパート。

「御堂さん、部屋は二階ですよね?」

「そうですけど、大丈夫ですか?」

「ははは、一応プロですから。おい、準備良いな?」

「何時でもいけますよ」

 頼りがいのある屈強な男二人。

 彼らはトラックから大きな段ボールを降ろす。

「よっと……」

「バランス気を付けて」

 ハルよりも二周りほど大きな段ボールが、二人がかりで担ぎ上げられた。

 そのままゆっくりと運搬されていく。

 二人を先行し、ハルは進路を確保するために階段を駆け上がる。

 すると、

「あらハル。どうしたの?」

 丁度外出するところだったのか、奈美が部屋から出てきた。

「冷蔵庫が壊れたから買い換えたんだよ。今運んで貰ってる所なんだ」

「へ~、どれどれ? うわ、大きいの買ったのね」

「予定外の出費だよ。店員の話術に乗せられて、気づいたら買ってた」

 頭をポリポリと掻きながらハルは答える。

 初めは一人暮らしに充分な、手頃なサイズを購入予定だった。

 だが気づいたら、大家族対応かと言うくらい巨大なものを選んでいたのだ。

 恐るべき、店員のセールストーク。

「それにしても、運ぶの大変そうね」

「このアパートは階段が狭いからな。ちょっと厳しいか」

 少し手伝うか、とハルが腕まくりをすると、

「ねえ、よければ私が手伝おうか?」

 奈美が笑顔で提案してくる。

 気持ちは有り難いが、流石に女の子に力仕事を頼むのは忍びない。

「気持ちだけ貰っておくよ。こう言うのは男の仕事だからな」

「ハルって、力仕事得意?」

「…………得意、とは言えない」

 痛い所を突いてくる。

 華奢な外見相応に、決して力は強くない。

 寧ろ弱い。

「なら遠慮しないで。私結構得意なのよ」

 奈美はグッと親指を立てると、冷蔵庫運搬係の二人へと駆け寄った。

 そのまま二言三言言葉を交わして、

「……嘘だろ?」

 ヒョイッと片手で冷蔵庫を肩に担ぎ上げた。

 まるで中身が何も入っていないように、軽々とだ。

 唖然とするハルと運搬係を余所に、軽快なステップで階段を登りきる。

「これ部屋に運ぶのよね? 鍵は開いてる?」

「あ、ああ。案内する」

 動揺する心を必死に押さえながら、ハルは奈美を先導する。

 結局設置までやって貰ってしまった。

「じゃあ私出かけるから、ばいば~い」

 そして疲労感を全く感じさせずに、奈美は元気一杯に外出していった。


「……御堂さん、あの子は一体?」

「忘れましょう。俺は何も見ていません。貴方も何も見なかったと言うことで」

 自分に言い聞かせるようにハルは告げ、配送係の人達を見送った。

 まるで夢のような、悪夢のような出来事だ。

 ただ部屋に設置された冷蔵庫が、嫌でも現実だと言うことを突きつける。

「本当に……一体何者なんだ?」

 呟きに答える人はいない。




「と、言うことがあったんです」

「なるほど……大体理解しました」

 千景は得心がいったと頷いてみせる。

「ただ、私がお話しするのはフェアではありませんね」

「…………」

「気になるなら本人に聞くと良いでしょう。今のあの子なら、恐らく答えてくれる筈です」

「分かりました。お時間取らせてすいません」

「構いませんよ。……あ、そうそう、一つだけ忠告しておきます」

 立ち去ろうとするハルに、千景が思い出したように声を掛ける。

「あの子は精神的にまだ幼いので、暴走しないよう注意して下さい」

「暴走って、キレるとかですか?」

「理性のたがが外れると言う意味ですので、その認識でも間違いありません」

「そりゃ気を付けますけど、そんなに大変なんですか?」

 妙に真剣な千景の顔が気になり、ハルは聞いてみる。

「私の知る限り、一度だけ大暴走をしたことがあります。初号機もビックリする位に」

「…………想像したくないですね。で、どうなりました?」

「鎮圧しましたよ。警察・自衛隊・某国特殊部隊などあらゆる手段を用いて」

「本気で気を付けます」

「本気でお願いします。ミサイルもタダじゃ無いですから」

 その言葉が、ある意味早瀬奈美と言う人物を何より的確に表現したのかもしれない。



 早瀬奈美。

 この春から高校生になる女の子。

 ハルにとっては、それ以上でもそれ以下でもない。

 今は、まだ。


オチは特にありません、すいませんでした。


基本的に一話完結の話を投稿していく予定ですが、

特に短い物はショートショートの様に小話として投稿します。


次からは、また別のキャラにスポットを当てた話になります。


次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ