師走は何かと物騒です
年末と言えば、やはり事件が多くなる時期。
ハピネスの犯罪対策はどうなっているのでしょうか。
「あらぁ、また強盗があったのねぇ」
「結構近くだな」
「物騒ですね」
ハル達が事務所で見ているのは、ニュース番組。
最新ニュースとして、ハピネスの近所で起きた強盗事件を報じていた。
「やっぱり夜間の時間帯は危ないわねぇ」
「ねえハル。泥棒と強盗って何が違うの?」
「ん~物を奪うってのは一緒だけど、人に何らかの危害を加えるのが強盗、物を盗むだけなのが泥棒というか窃盗って感じかな」
細かく言えば色々違うのだろうが、簡単な説明ならこれで充分だろう。
「どちらにせよ、人の財産を奪うのは人道に反した行為だな」
「そうねぇ」
「うちは平気なのかな? 防犯システムとか」
「ふふふ、いらぬ心配だ。このビルは吾輩が全面監修した防犯システムを搭載しているのだ!」
かえって心配ですが。
「それって、警報が鳴ったりする奴なの?」
「もっと効果的な装置だ。レーザーと火炎放射器は当然として……」
いやいやいや。
「最終兵器として、衛星を利用したサテライトビームも作動させる事が出来るぞ」
「出来るぞ、じゃねぇよ。明らかにオーバーキルだろそれ」
強盗どころか、一軍を相手に出来そうな武装だった。
「まぁ、ハピネスの防犯については安心って事ねぇ」
「でも強盗って、昼間に来ることもあるんですよね?」
奈美が珍しくまともなことを言う。
企業や銀行というのは、夜間のセキュリティーはかなり厳重だ。
だが、人が出入りする日中は甘め。
結果として、白昼堂々と強盗が起こるケースも多々ある。
「あるとは思うぞ。ただ、うちに関してはその心配はいらないだろ?」
何せ、ハピネスには化け物クラスの人が居る。
千景を筆頭に、ローズも屈強な兵士だし、奈美も常人離れしている。
柚子や蒼井も道具を用いれば充分戦える。
「それもそうね」
「さあてぇ、そろそろ仕事に戻るとしましょうかねぇ」
ローズが席を立ち、依頼掲示板へと向かう。
「俺も依頼を選ぼうかな」
「あ、私も~」
「私は部屋で宿題を片づけるとしよう」
「……確か依頼の時間がそろそろでした」
「吾輩は研究を再開するとしよう」
それに続き、一同も各々自分のやるべき事へと戻ろうとする。
その時だった。
「全員動くな!!!」
事務所のドアが乱暴に開かれ、叫び声を上げながら一人の男が乱入してきた。
全身黒ずくめ。
サングラスとマスク。
手には包丁。
何処からどう見ても、
「「強盗だぁぁ!!!」」
一同は驚きの声をあげた。
「全員その場から動くな。両手を上に上げろ!」
男は包丁で威嚇しながら、事務所の中へと歩いてくる。
ハル達は事務所の奥に。
鈴木達は男の右側、事務机が並ぶスペースに位置していた。
「ねえねえハル。あれ本物の強盗よね♪」
「何で嬉しそうなんだよ……」
「だって~、私初めて見たんだもん♪」
「俺だって初めてだよ」
出来れば一生見たくなかったが。
「フラグってあるのねぇ」
「噂をすれば、と古来より言われている位だからな」
全くです。
「千景ちゃんはお出かけ中だし」
「これもまた、お約束と言う奴か」
ですよね。
「ごちゃごちゃ喋るな! おい、女。この鞄に有り金全部詰めろ!」
男は黒いボストンバックを、鈴木に向けて投げつけた。
もうこれ以上にない、強盗っぷりだ。
「凄い凄い、ドラマで見たとおり」
「頼むから少し落ち着いてくれ。結構シリアスな場面だぞ」
「そうかな? だって、千景さんは居ないけど、ローズさん居るし」
言われてみればそうだ。
大将は不在だが、ローズと奈美が居る以上何も問題が無い。
「……じゃあローズ。とっととやっちゃってくれよ」
「うふふぅ、私が手を出すまでも無いわぁ」
「へ?」
「それに強盗の対応は事務の仕事。出しゃばるのは悪いわよぉ」
どういうこと、とハルが聞き返す必要は無かった。
「おい、何してる! 早く金を……」
「全員戦闘準備」
「「ヤー!」」
まさに一瞬だった。
鈴木の号令に答えたかと思った瞬間、事務員達はそれぞれ得物を取りだし構えた。
拳銃、マシンガン、刀、モーニングスター、更にロケットランチャーを向けるアホも居る。
「…………は?」
「うわぁ、格好いい♪」
戸惑うハルと対照的に、奈美は大喜びだ。
「ななななな、何だお前等!!」
思いっきり動揺する強盗。
気持ちは分かる。
「直ちに武装を解除して投降しなさい。さもなくば……」
チャキリと、鈴木は手に持った拳銃の照準を強盗に定める。
他の事務員達も、同じように何時でも攻撃できる状態に移行した。
方や主目的は料理の包丁一本。
方や殺傷目的の威力抜群な武器の数々。
どちらが有利かなど、語るまでもない。
強盗は戦意を失い、包丁を床に落として抵抗を諦めるのだった。
その様子を見ながら、
「……どっちが悪者か分からなくなった」
ハルは同情が混じった声を発した。
「え、何言ってるのよ。勿論強盗した方が悪いんじゃないの」
「そりゃそうだけど……」
「行動には覚悟と責任が伴うわぁ。特に悪いことには、ねぇ」
ローズがハルを諭すように言う。
「しかし、まさか事務員の方々まで鍛えられているとは思わなかったぞ」
「千景ちゃんの部下ですから。そこそこの錬度はありますよ」
「特に懐刀の鈴木はな。ああ見えてかなりのやり手だぞ」
聞きたくなかった。
常識人だと思っていたのに。
「……この事務所で普通なのは俺だけか……」
「「えっ?」」
一斉に驚きの声が挙がる。
「何だよ」
「あのねハル。一応言って置くけど……」
「「一番普通じゃないのは、貴方だよ」」
便利屋ハピネス。
そこは奇人変人超人が集まる会社。
勿論普通の人もいるが……少なくとも、ハルはそこから除外されていた。
まあ、あの千景が所長ですから……。
多分事務員の皆さんは、ハルよりも全然戦力になると思います。
師走に事件が多く、特に強盗系の事件が多発するのは本当みたいです。
皆様も、どうか気を付けて下さい。
次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。