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小話《子守は大変です》

ハピネスを訪れたハルと奈美。

そこで彼らが見た光景は……。


「ふぎゃ~ふぎゃ~」

 ハピネス事務所に、赤ん坊の泣き声が響き渡った。

「あらぁ、どうしましょう……」

「ふぎゃ~ふぎゃ~」

「ほ~らぁ、よちよちぃ~」

 ローズは困り顔で、腕に抱く赤ん坊を必死にあやす。

 だが、効果はない。

 一向に泣きやむ気配を見せない赤ん坊に、ローズは困惑。

 そんな時、

「「こんにちわ~」」

 救いの手、とばかりにハルと奈美が事務所に現れた。

 二人は直ぐさま、ローズと赤ん坊に気づく。

「泣き声が聞こえると思ったら、本当の赤ん坊だったんですか」

「うわ~可愛い。この子、ローズさんの子ですか?」

「残念だけど違うわぁ」

 でしょうね。

「依頼でねぇ、半日子守を任されたんだけどぉ」

「ふぎゃ~ふぎゃ~」

「この通りなのよぉ」

 火が着いたように無く赤ん坊に、ローズはお手上げだと目を閉じる。

「ん~お腹が空いてるとか?」

「さっきミルク飲んだばかりだからぁ、違うと思うんだけどぉ」

「おしめは?」

「それも替えたばかりなのぉ」

「ん~他に思い当たる節は無いけど……」

「ねえ、ちょっとハルちゃんが抱いてみてぇ」

 ローズから渡された赤ん坊を、ハルは優しく抱く。

 すると、

「……きゃっきゃ」

 途端に泣きやみ、ご機嫌な笑顔を見せてくれた。

「え、え、どうして?」

「やっぱりぃ、私の事が嫌いだったのねぇ」

「……ひょっとして、怖かったんじゃ無いのかな?」

 ハルの言葉に、ローズと奈美は首を傾げる。

「多分普段この子を抱いているのは、母親だと思うんだ。だとすると、男性の逞しい腕に抱かれるのが慣れてないから、むずがったのかなって思う」

「そうなのかな?」

「勿論俺の勝手な想像だよ。他の原因があるかもしれないけども」

「何はともあれぇ、泣きやんでくれて助かったわぁ」

 ハルの腕に抱かれ、もう穏やかな寝息を立てている赤ん坊を見て、ローズは心底ホッとしていた。


「でも、どうしてローズさんが子守の依頼を?」

「丁度手の空いている人が居なかったのよぉ。事務のみんなは大忙しだしぃ」

 視線を向ければ、鈴木を筆頭に事務員は皆必死の形相で業務を行っている。

 そして、原則的に事務員は依頼を受けない決まり。

 結果として、適任者ではないローズが子守をする羽目になっていた。

「みんな手伝ってくれるって言ったんだけどぉ」

「余裕、無さそうですものね」

「何でももうすぐぅ、役所の監査が入るらしいのぉ。その準備らしいわぁ」

「柚子とか蒼井は?」

 あの二人なら、ローズよりは上手くあやせると思うが。

「柚子ちゃんは丁度依頼で出ててぇ、ドクターは……」

「?? 蒼井は?」

「抱いた瞬間、全身に蕁麻疹が出てねぇ、病院に運ばれちゃったぁ」

「……アレルギーなのかな?」

「どんなアレルギーだよ」

 まあ、蒼井ならあり得なくも無いが。

 何というか、純粋で無垢な存在に弱そうだ。

「紫音ちゃんは学校だしぃ、千景ちゃんは…………」

 苦笑いするローズ。

「どうしたんですか?」

「抱こうとした瞬間、さっきよりも酷い大泣きされちゃったのよぉ」

「それはまた……」

 チラリと千景を見れば、無表情の中にも不機嫌の色が浮かんでいた。

「あれ、でもさっきハルが言ったことが正しければ……」

「あくまで俺の想像だからな。一概には言えないよ」

「そんな訳でぇ、ハルちゃんが来てくれて助かったわぁ。本当にありがとうねぇ」

「気にしないでくれよ。大したことしてないし」

「この子の母親が戻るまで一時間位。良ければ依頼を引き継いでくれない?」

 元々依頼を受けにやってきた。

 一時間子守をすることも、問題ない。

「別に構わないよ」

「じゃあ私も付き合うわ。ねえ私にも抱かせてよ」

「……優しくしろよ。くれぐれも力を込めたりしちゃ駄目だぞ」

「もう、心配性ね。大丈夫だって」

 奈美はハルから赤ん坊を渡して貰い、恐る恐る抱く。

「……ふぎゃ~ふぎゃ~」

「え、何でよ~」

 赤ん坊は短い眠りから覚め、再び火が着いたように泣き出した。

「ほらほら怖くないよ~。いないいないば~」

「ふぎゃ~ふぎゃ~」

「…………選手交代」

 赤ん坊は再びハルの元に。

 やはり直ぐさま泣きやみ、機嫌が戻った。

「む~何でよ~」

「まあ、俺は秋乃が赤ん坊の時、子守の真似事をしてたからな。少しは慣れがあるんじゃないか?」

「なら私も慣れるまでよ! 慣れるまで付き合って貰うわ!」

「……人様の赤ん坊でやるなよ」

「そうよぉ。奈美ちゃんだっていずれ母親になるんだしぃ、焦ることは無いわよぉ」

 諭すローズだが、奈美は不満顔。

「……母親に慣れるのは女の人だけ。お前は俺なんかよりよっぽど赤ん坊の扱いが上手になるはずだよ」

「そうかな?」

 頷くハルとローズ。

「ま、子守は俺に任せておけ」

「え゛!」

「……何でそんなに驚くんだよ」

「だって……」

「うふふぅ、今のはハルちゃんが悪いかしらねぇ」

 顔を赤くする奈美と、ニヤニヤ笑うローズにハルは首を傾げる。

「ねえハルちゃん。子供は好きぃ?」

「ん、そうだな……好きだと思うよ」

「ふ~ん、良かったわねぇ、奈美ちゃん♪」

「ななな、何を言ってるんですか」

「さ~てぇ、何を言ってるのかしらねぇ~」

 意味深に笑うローズに、奈美は大慌て。

 置いてけぼりのハルは、身体をゆっくり揺すり、赤ん坊をあやすだけ。

「家事一通りとぉ、子守まで出来るぅ。お買い得物件ねぇ」

「だから……」

「…………仲間はずれになっちゃったよ」

「きゃっきゃ」

 赤ん坊の母親が戻るまで、奈美とローズのやり取りは続くのだった。



 その夜。

 ローズは千景と馴染みのバーに来ていた。

「やれやれぇ、とんだ依頼だったわねぇ」

「ハル君が来なければどうなっていたか……」

 幸い業務に支障を出すことなく、赤ん坊は母親の元へと帰っていった。

 あのまま泣かれ続けていたらと思うと、冷や汗が出る。

「それにしてもぉ、お互い赤子には嫌われるわねぇ」

「……子供は本能的に危険を遠ざけますから」

「私はともかくぅ、千景ちゃんは足を洗って大分経つのにぃ」

「一度付いた臭いはそう簡単には消えないでしょう。特に……死の臭いは」

 千景は少し寂しそうな顔で、ウイスキーを煽る。

「なら私も同じねぇ。血と硝煙、そして死の臭いがまとわりついてる筈だわぁ」

「……本来、私達が日の光を浴びてはいけない人種ですから」

「感謝してるのよぉ。そんな私にぃ、暖かな居場所を与えてくれてぇ」

「礼は不要です。ハピネスは私にとっても安らぎの場所ですから」

 二人は微笑みながら、酒を飲み交わす。


 大人な夜は、朝が来るまで続くのだった。



赤ちゃんって、結構人を見てますよね。

作者は親戚の赤ちゃんに良く泣かれます……。


赤ちゃんは潜在的に、危険から遠ざかろうとするらしいです。

ローズと千景が嫌われたのはそのせいです。

奈美は……抱かれていると色々危険だと察したのかと。下手に高い高いされると、天井突き破りそうですから。


過去に傭兵だったローズ以上に嫌われる千景。その過去については……実は作者はてっきりもう書き終わっているとばかり思っていました。

実はハッキリとした描写して無かったんですよね。

折角なので、近々千景メインの話を書こうと思います。


次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。

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