第41話 引き受ける者と、離れる者
第三の集落は、翌朝も動いていた。
畑は耕され、
相談所は開いている。
掲示板の紙も、
昨日と同じ場所に貼られていた。
表面上は、
何も変わらない。
だが――
人の立ち位置が、変わっていた。
相談所の前に、
列はできていない。
代わりに、
小さな輪がいくつもできていた。
「……今回は、
どう思う?」
「正直、
分からない」
「でも、
誰かが決めないと」
そんな言葉が、
低く交わされる。
相談役たちは、
少し戸惑っていた。
助言を求められない。
決定を委ねられない。
それは、
彼らにとっても初めての状況だった。
集落の端で、
年長の相談役が立ち止まっていた。
「……このままでは、
回らない」
隣にいた若い相談役が、
不安そうに聞く。
「では、
どうしますか」
年長者は、
少し考えてから答えた。
「……代表を、
決めるべきだ」
その言葉は、
小さく、だが重かった。
「全員で話すのは、
限界がある」
「判断を、
集約しなければ」
若い相談役は、
一瞬だけ迷い――
頷いた。
「……そうですね」
それは、
自然な流れだった。
一方、別の場所。
荷をまとめる者たちがいる。
多くは、
若い者だった。
「……ここ、
楽だと思ったんだ」
一人が言う。
「誰かが、
考えてくれるから」
「でも今は、
誰も決めてくれない」
別の者が、
苦笑する。
「……空白地に戻る?」
「いや」
首を横に振る。
「戻れない」
「考えるの、
怖いから」
彼らは、
街道の方へ向かった。
別の“正しさ”を、
探すために。
数日後。
集落の中央で、
集まりが開かれた。
「代表を、
選びます」
年長の相談役が、
宣言する。
理由は、
誰もが分かっている。
混乱を防ぐため。
決断を早めるため。
反対は、
少なかった。
「……誰かが、
引き受けないと」
そう言われれば、
否定しづらい。
数人の名が、
挙がる。
拍手は、
控えめだった。
同じ頃。
空白地では、
いつも通りの一日が流れていた。
「……向こう、
代表決めたらしいです」
ユグが、
焚き火のそばで言う。
「そうか」
それ以上、
何も言わない。
「……止めなくて、
いいんですか」
「止められない」
即答だった。
「引き受けたい者が、
いるなら」
「それも、
選択だ」
第三の集落では、
空気が変わり始めていた。
判断が、
早くなる。
相談役は、
代表の意向を確認する。
「今回は、
こちらで行きましょう」
推奨は、
ほぼ決定になる。
不満は、
表に出ない。
だが――
責任の所在は、
はっきりし始める。
誰もが、
それを感じていた。
夜。
代表に選ばれた男は、
一人で地図を見ていた。
「……正しいかどうかは、
分からない」
「だが、
決めないと」
その背中は、
少しだけ重い。
彼は、
善意で引き受けた。
だが、
善意は
逃げ道にならない。
空白地の夜。
焚き火を見つめながら、
俺は思う。
引き受ける者が現れた。
同時に、
離れる者も増えた。
それは、
失敗でも成功でもない。
ただ――
分かれ道だ。
「……これで、
見えるようになる」
誰が、
何を背負っているのか。
誰が、
何を預けているのか。
次に起きるのは、
崩壊ではない。
限界だ。
引き受けた者の、
限界。
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