第39話 答えを求める声
最初に来たのは、二人だった。
第三の集落から、
歩いてきた若い男女。
武装もなく、
使者という雰囲気でもない。
ただ、
疲れていた。
「……話を、
聞いてもらえますか」
焚き火の前で、
そう切り出した。
拒む理由はない。
俺は、
黙って頷いた。
「誰のせいでもないって、
言われました」
女が、
小さな声で言う。
「穀物が減ったことも」
「仕事が重なったことも」
「……全部」
男が、
続ける。
「だから、
怒れなかった」
「でも……」
言葉が、
途切れる。
「苦しかった」
それは、
責める声ではない。
訴えでもない。
判断してほしい声だ。
「相談役に、
聞きました」
女は、
俯いたまま言う。
「『最善だった』って」
「『誰も悪くない』って」
「……それで、
納得しろって」
沈黙。
焚き火が、
小さく爆ぜる。
「……納得、
できなかった」
男が、
目を上げる。
「だから、
来ました」
「あなたなら――」
その言葉を、
俺は遮らなかった。
最後まで、
言わせる。
「……誰が間違ったのか、
教えてくれると思った」
その瞬間、
はっきりと分かった。
これが、
一番来てほしくなかった形だ。
俺は、
すぐには答えない。
二人は、
じっと待っている。
期待と、
不安と、
わずかな希望。
そのすべてを
向けられている。
「……答えは、
出せない」
ゆっくりと、
そう言った。
女の肩が、
わずかに震える。
「……どうして」
「苦しかったのは、
事実だ」
「誰かが、
選んだ」
「誰かが、
間違えた」
「それを、
はっきりさせないと――」
俺は、
首を横に振った。
「それを、
俺が言った瞬間」
言葉を、
一つ一つ置く。
「俺が、
正しさになる」
「それは、
一番いけない」
男は、
唇を噛んだ。
「……じゃあ、
俺たちは」
「何も、
言われないまま?」
「違う」
俺は、
焚き火を見る。
「言われなかったんじゃない」
「預けた」
二人が、
顔を上げる。
「相談役に、
選択を預けた」
「責任も、
預けた」
「だから、
戻ってこなかった」
沈黙。
それは、
責める言葉ではない。
事実だ。
「……じゃあ、
どうすればよかったんですか」
女が、
震える声で問う。
俺は、
少しだけ考え――
答えた。
「怒ればよかった」
二人が、
目を見開く。
「責任を、
取り戻すには」
「怒るしかない」
「不満を、
誰かのせいにしろ
という意味じゃない」
「自分の判断だったと、
引き受ける」
「それが、
怒りだ」
長い沈黙。
二人は、
すぐには理解できない。
それでいい。
「……あなたは」
男が、
ぽつりと言う。
「それを、
教えに来てくれたんですか」
「違う」
俺は、
はっきり言った。
「俺は、
教えない」
「ただ、
答えを出さないだけだ」
二人は、
互いの顔を見る。
しばらくして、
女が小さく息を吐いた。
「……考えます」
男も、
頷く。
二人は、
立ち上がり、
夜の闇へ戻っていった。
翌日。
今度は、
一人だった。
次は、
三人。
その次は、
五人。
同じ問い。
「誰が悪かったのか」
「どうするべきだったのか」
俺は、
同じ答えしかしない。
「答えない」
「預けるな」
「引き受けろ」
やがて、
噂が立ち始める。
「ここに来ても、
裁いてもらえない」
「答えは、
もらえない」
その噂は、
少しずつ人を遠ざけた。
同時に――
一部の人間を、
強く苛立たせた。
夜。
焚き火のそばで、
ユグが言う。
「……恨まれますよ」
「だろうな」
俺は、
淡々と答える。
「それでも、
やめない」
「……どうして」
俺は、
少しだけ考える。
「答えを出すと、
次に間違えた時」
「また、
誰かを探す」
「それが、
連鎖になる」
焚き火の火が、
揺れる。
「……ここは、
その連鎖を
止める場所だ」
その言葉を、
誰に聞かせるでもなく、
夜に落とした。
次に来るのは、
個人ではない。
集団だ。
そして、
もっと露骨な形で
「答え」を求めてくる。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




