第35話 迷う者たち
空白地を離れる者は、珍しくなくなっていた。
追い出されたわけではない。
拒まれたわけでもない。
ただ、
自分から去っていく。
「……やっぱり、
合わなかった」
そんな言葉を残して。
王国へ戻った者もいる。
測定水晶の前に立ち、
再び数値を告げられる。
「加護値:D」
以前なら、
胸が潰れそうになった数字。
だが今は、
少し違う。
「……まあ、
そんなもんだよな」
苦笑しながら、
仕事を探す。
王国は変わった。
完全ではないが、
数値だけで切り捨てることは
減っている。
だが――
選択は、常に上から降ってくる。
「これをやれ」
「それは無理だ」
考えなくていい。
責任を負わなくていい。
その安心感に、
ほっと息を吐く者もいた。
別の土地へ向かった者もいる。
空白地の噂を聞き、
真似たような集落。
「自由を尊重する」
「数字を使わない」
そんな言葉を掲げた場所。
だが、
そこには必ず続きがあった。
「ただし、最低限のルールは守れ」
「判断に迷ったら、相談役に従え」
選ばなくていい自由。
それは、
とても分かりやすい。
「……こっちの方が、
楽だな」
そう言って、
腰を落ち着ける者もいた。
夜。
空白地から離れた村で、
一人の男が焚き火を見つめていた。
かつて、
ここにいた男だ。
「……何も決めてくれなかったな」
独り言のように呟く。
怒っているわけではない。
恨んでいるわけでもない。
ただ、
戸惑っている。
「正しいかどうかも、
分からなかった」
「間違えても、
誰も止めてくれなかった」
焚き火が、
小さく爆ぜる。
「……自由って、
こんなに重かったか」
その言葉は、
誰にも届かない。
だが、
確かにそこにあった感情だ。
一方、空白地。
人数は、
さらに少し減った。
だが、
作業は変わらない。
畑は耕され、
水は引かれ、
火は守られる。
「……戻った人、
いるみたいですね」
ユグが、
外の噂を伝える。
「王国で、
仕事してるって」
「そうか」
それだけ答える。
「……寂しくないですか」
ユグは、
少し迷ってから聞いた。
俺は、
少し考えた。
「寂しいかどうかは、
本人が決める」
「ここに残ることが、
正解じゃない」
「去ることも、
間違いじゃない」
焚き火を見つめる。
「ここは、
戻れない場所じゃない」
「ただ――」
言葉を選ぶ。
「考えることから
逃げたいなら、
向いてないだけだ」
夜更け。
空を見上げる。
星は、
今日も数えられない。
だが、
数えたい者もいる。
順位をつけたい者もいる。
それを、
否定はしない。
世界には、
いろんな生き方がある。
空白地は、
その一つに過ぎない。
「……全部を
背負う必要はないな」
そう呟く。
選べない者がいる。
自由が重い者がいる。
それでも、
ここは続く。
選べる者が、
残る限り。
そして――
選べない者のために、
別の“正しさ”が
また生まれていく。
それが、
次の摩擦になる。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




