第34話 残った者たち
朝の焚き火は、小さかった。
だが、
弱くはない。
火を囲む人数は、
かつての半分ほどになっている。
それでも、
沈黙は重くない。
誰も、
誰かの顔色をうかがっていない。
「……水、
少し減ってきたな」
一人が言う。
「じゃあ、
上流、見てくる」
別の者が立ち上がる。
役割は、
決めていない。
だが、
迷いもない。
「……これが、
残ったってことか」
ユグが、
小さく呟く。
「そうだ」
俺は答える。
「残された、じゃない」
「残った」
そこには、
選別されたという空気はない。
ただ、
選び続けた者たちの
静かな重みがある。
昼。
畑の作業を終え、
簡単な食事をとる。
話題は、
外の世界に及ぶ。
「……王国、
また測定の基準変えたらしい」
「教会も、
言い切らなくなったな」
「でも、
数字は残ってる」
誰も、
それを嘲らない。
否定もしない。
「あれは、
あれで生きる方法だ」
一人が、
そう言った。
「ここは、
違うだけだ」
それだけで、
話は終わる。
午後。
風が、
丘を撫でる。
人が減った分、
音がよく聞こえる。
土の音。
水の流れ。
足音。
世界が、
近い。
「……不思議ですね」
ユグが言う。
「何も増えてないのに、
足りてる」
「増やさなかったからだ」
俺は答える。
「足りないと思った瞬間に、
奪い合いが始まる」
「ここでは、
足りないことも
選択の一部だ」
ユグは、
しばらく考えてから頷いた。
夕方。
丘の向こうに、
人影が見えた。
一人。
立ち止まり、
こちらを見ている。
だが、
近づいてこない。
見回り役が、
小さく言う。
「……来ませんね」
「来なくていい」
俺は、
静かに答える。
来ない、
という選択もある。
それを、
尊重する。
夜。
焚き火の火が、
今日も揺れる。
誰かが、
ふと聞いた。
「……ここ、
いつまで続くんですか」
俺は、
少し考えた。
「分からない」
正直に答える。
「終わるかもしれない」
「壊れるかもしれない」
「それでも、
今日を選べば、
それでいい」
誰も、
不安そうな顔はしなかった。
むしろ、
肩の力が抜けたようだった。
夜更け。
俺は、
輪の外に座り、
空を見上げる。
星は、
相変わらず数えられない。
だが、
この場所はもう
“目立つ存在”ではない。
広がらず、
押し付けず、
象徴にもならない。
それでも、
確かに在る。
「……これで、
いい」
通りすがりでいられる
限界の大きさ。
それを、
ようやく見つけた。
俺は、
焚き火の輪に戻る。
残った者たちと、
今日を終えるために。
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