第33話 減るという選択
翌朝、拠点は静かだった。
騒ぎがあったわけではない。
何かが壊れたわけでもない。
ただ――
人が、少し減っていた。
焚き火の周りに集まる顔ぶれが、
昨日より明らかに少ない。
「……行った人、
いますね」
ユグが、辺りを見回しながら言った。
「夜のうちに」
「そうだな」
俺は、特に驚かずに答えた。
荷物の痕跡。
踏み固められていない地面。
誰にも告げず、
静かに去ったのだろう。
「……止めなくて、
よかったんですか」
ユグの声には、
少しだけ迷いがあった。
「止めたら、
残る理由になる」
俺は、そう答える。
「ここは、
理由を与えない場所だ」
「……冷たいですね」
「選択だ」
否定も、肯定もしない。
昼前。
作業は、滞りなく進んだ。
人数が減った分、
一人ひとりの動きは重くなる。
だが、
不思議と不満は出なかった。
「……前より、
静かだな」
誰かが言う。
「人が多いと、
考えなくて済むことも
増えるからな」
別の者が、
そう返す。
それは、
誰かを責める言葉ではない。
事実の共有だ。
午後。
丘の向こうを、
一人の男が歩いてきた。
武装もなく、
荷も最小限。
周囲を警戒する様子もない。
「……一人だ」
見回り役が、
小さく報告する。
俺は、頷く。
「通せ」
男は、焚き火の前で立ち止まり、
深く頭を下げた。
「……昨日は、
集団で来ました」
昨日の男だ。
制度を提案してきた、
あの人物。
「今日は、
一人です」
「理由は?」
俺が問う。
男は、少し考えてから答えた。
「……自分の言葉で、
話したかった」
「集団だと、
考えなくなる」
その言葉に、
周囲が静まる。
「……残りたいのか」
「はい」
「だが、
あなたの条件は理解しています」
「守られないこと」
「導かれないこと」
「正しさを与えられないこと」
「それでも、
選びます」
俺は、
しばらく彼を見つめた。
そして、
一つだけ言う。
「期待するな」
男は、
小さく笑った。
「……それが、
一番難しいですね」
「だから、
ここに来ました」
それ以上、
何も言わなかった。
迎え入れたわけでも、
許可したわけでもない。
だが、
彼は焚き火の輪に加わった。
夕方。
人数は、
さらに少し減った。
だが、
空気は澄んでいる。
「……減るって、
悪いことじゃないんですね」
ユグが、
ぽつりと呟く。
「減らないと、
何が残るか分からない」
俺は答える。
「選ばれたものだけが残る、
という意味じゃない」
「選び続けたものだけが残る」
夜。
焚き火は、
少し小さい。
だが、
炎は安定している。
誰も、
明日を約束しない。
それでも、
今日を選んでいる。
俺は、
輪の外に座り、
空を見上げた。
「……これでいい」
減ったからこそ、
見えるものがある。
残ったからこそ、
重くなる責任もある。
それを、
誰にも預けない。
通りすがりでいるために、
ここは――
小さくなっていく。
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