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加護値0と断罪された俺、実は神の評価外でした 〜追放された王国が崩壊するまで〜  作者: 黒羽レイ


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第31話 越えてくる者たち

線を引いた翌日から、空気が変わった。


騒がしくなったわけではない。

むしろ逆だ。


人は静かになり、

言葉を選ぶようになった。


それ自体は、悪くない。


だが――

静かすぎる。


「……増えましたね」


ユグが、低い声で言う。


丘の向こう。

遠目にも分かる人影。


数は少ない。

五人ほど。


問題は、その立ち方だった。


慌てない。

迷わない。

距離を保って、こちらを見ている。


「反・加護派とは違う」


俺は、そう判断した。


あいつらは、正しさを振り回す。

だが、今回は違う。


「……話、通じそうな顔してます」


「だから、厄介だ」


しばらくして、彼らは近づいてきた。


武装は最低限。

王国の印も、教会の印もない。


だが、

王国式の言葉遣いだけは残っている。


「失礼」


先頭の男が、丁寧に頭を下げた。


「我々は、あなたの示した条件を理解しています」


その一言で、背筋が少し冷えた。


理解した上で来る者。

それが、一番危ない。


「……理解した?」


「はい」


男は落ち着いた声で続ける。


「他人を裁かないこと」

「判断を放棄しないこと」

「ここを理想郷と見なさないこと」


「どれも、理に適っています」


「だからこそ、

我々は提案に来ました」


俺は、すぐには答えない。


「……提案?」


「ええ」


男は、仲間を一瞥する。


「ここを守るための、提案です」


その言葉に、周囲の空気がわずかに緊張する。


「守る?」


「人が増え、

思想が集まれば、

必ず衝突が起きます」


「反・加護派のような者も、

今後さらに来るでしょう」


「だから――」


男は、穏やかに言った。


「線を、制度にしませんか」


その瞬間、

はっきりと分かった。


――来たな。


「規則を明文化し、

違反者には段階的な処置を」


「罰ではありません」


「運営です」


「あなたが支配者になる必要もない」


「我々が、代行します」


善意だ。

理屈も通っている。


そして、

完全に間違っている。


「……それは」


俺は、ゆっくりと口を開いた。


「ここを、

国にする提案だ」


男は、微笑んだ。


「国ではありません」


「共同体です」


その言葉に、

何人かが頷く。


「名前も、

肩書きも、

不要です」


「ただ、

守る仕組みを」


俺は、

首を横に振った。


「守られる場所は、

必ず縛られる」


「それが、

制度だ」


男の眉が、わずかに動く。


「……無秩序を、

放置するおつもりですか」


「違う」


俺は、即答した。


「無秩序を、

引き受ける」


ざわりと、

場が揺れる。


「ここでは、

判断を個人に返している」


「それを、

制度が肩代わりした瞬間――」


「人は、

考えるのをやめる」


男は、少しだけ声を低くした。


「……理想論です」


「現実は、

もっと汚い」


俺は、

その言葉を否定しない。


「知っている」


「だから、

ここは小さい」


「広げない」


「強くしない」


「守らない」


「……壊れたら?」


男が問う。


俺は、

一瞬だけ考え――

答えた。


「壊れる」


その即答に、

男は言葉を失った。


「壊れて、

終わる」


「だが――」


視線を、

焚き火に向ける。


「それは、

選んだ結果だ」


沈黙が落ちた。


男は、

しばらく考え込み――

やがて、頭を下げた。


「……理解しました」


だが、

完全ではない。


それも分かる。


「我々は、

一度退きます」


「ですが――」


顔を上げ、

真っ直ぐこちらを見る。


「次は、

提案では済まないかもしれません」


それは、

脅しではない。


予告だ。


男たちは、

静かに去っていった。


夕方。


焚き火のそばで、

ユグが言った。


「……あの人たち、

分かってますよね」


「ああ」


「分かった上で、

踏み越えようとしている」


「……怖くないですか」


俺は、

少しだけ考えた。


「怖い」


正直に答える。


「だが、

制度にした時点で

負けだ」


「それは、

王国と同じだからな」


夜。


焚き火の火が、

小さく揺れる。


線は、

引いた。


だが、

線を理解する者ほど、

それを越えようとする。


次に来るのは、

思想でも、制度でもない。


行動だ。


俺は、

その気配を感じながら、

静かに目を閉じた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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