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加護値0と断罪された俺、実は神の評価外でした 〜追放された王国が崩壊するまで〜  作者: 黒羽レイ


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第3話 婚約破棄の言葉

大神殿の大広間には、再び人が集められていた。


貴族、神官、王国関係者。

誰一人として、ここに“祝福”を期待して来ている者はいない。

視線のすべてが、俺に向けられている。


――正確には、

無価値と判定された存在を見るために。


中央の壇上に立たされ、俺は静かに周囲を見渡した。


同情の目は、ほとんどない。

あるのは好奇心、軽蔑、あるいは安堵。


「自分じゃなくて良かった」


そんな感情が、透けて見える。


「静粛に」


大神官ユリウス・ヴァルナードの声が響く。


「これより、

レイ・クロウゼンに関する正式裁定、

および関連する婚約についての処理を行う」


形式的な言葉。

だが、その裏にある意味は重い。


俺の隣に、エリスが進み出る。


完璧な所作。

背筋を伸ばし、顎を引き、視線は真っ直ぐ前。

Sランク令嬢にふさわしい姿だった。


「エリス・フォン・レインハルト」


大神官が名を呼ぶ。


「あなたは、レイ・クロウゼンの婚約者として、

この裁定に異議を申し立てますか?」


一瞬の沈黙。


そして、エリスははっきりと答えた。


「いいえ。異議はありません」


ざわ、と空気が揺れる。


「続けて、意思を確認します。

あなたは――この婚約を、どうしますか?」


エリスは、俺を見た。


視線が合う。


その瞳に、迷いはなかった。


「私は、この婚約を――破棄します」


明確な宣言だった。


誰かが息を呑む音がした。


「理由を述べなさい」


大神官が促す。


エリスは、静かに言葉を選びながら口を開いた。


「私は、王国の貴族として生まれました。

その立場には、責任があります」


一言一言が、整えられている。


「婚姻は、個人の感情だけで決められるものではありません。

家と家、血と血、そして国益」


――正論だ。


「加護値0と認定された方は、

この国において、子を成す資格を持ちません。

共に未来を築くことは不可能です」


周囲が、頷く。


「それは冷たい判断かもしれません。

ですが私は、

“正しい選択”をしなければならない立場にいます」


彼女は、最後にこう付け加えた。


「……ごめんなさい、レイ」


その謝罪は、

彼女自身の良心のためのものだった。


俺は、何も言わなかった。


反論は簡単だ。

だが、意味がない。


この場で求められているのは、

俺の言葉ではない。


“納得する姿”だ。


大神官が頷く。


「では、

王国法に基づき、

両家の婚約は本日をもって解消とする」


木槌が鳴らされる。


――終わった。


「レイ・クロウゼン」


大神官が、俺の名を呼ぶ。


「あなたから、何か言い残すことはありますか?」


視線が、再び集中する。


哀れみ。

嘲笑。

期待。


俺は、ゆっくりと口を開いた。


「一つだけ」


場が静まる。


「エリス」


彼女が、わずかに目を見開いた。


「それが、君の選択か?」


短い問いだった。


だが、彼女は理解したのだろう。

これは、縋りでも、抗議でもない。


確認だ。


「……はい」


彼女は、はっきりと頷いた。


「私は、正しいと思う選択をしました」


その言葉を聞いて、俺は――


初めて、微笑った。


「分かった」


それだけ言った。


失望も、怒りも、口にしなかった。


周囲が、拍子抜けしたようにざわつく。


もっと感情的になると思っていたのだろう。


だが、俺はもう理解していた。


この世界では、

数字を持たない者が、

何を言っても届かない。


壇上から降ろされ、俺は退出を命じられる。


すれ違いざま、エリスが小さく呟いた。


「……あなたなら、きっと大丈夫だと思っていました」


その言葉に、俺は足を止めなかった。


振り返りもしなかった。


それは、慰めでも希望でもない。

ただの、責任逃れだ。


大神殿の外に出ると、空がやけに高く見えた。


冷たい風が、頬を打つ。


俺は、深く息を吸い込む。


――これで、すべてを失った。


家も、名も、未来も。


だが。


胸の奥に、奇妙な静けさがあった。


怒りよりも、悲しみよりも、

確かな感覚がある。


「……これでいい」


誰に言うでもなく、そう呟いた。


背後で、大きな扉が閉まる音がした。


もう、戻る場所はない。


そして俺は、まだ知らない。


この“正しい選択”を積み重ねた者たちが、

いずれどんな代償を支払うことになるのかを。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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