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加護値0と断罪された俺、実は神の評価外でした 〜追放された王国が崩壊するまで〜  作者: 黒羽レイ


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第23話 小さなざまぁ

王都中央神殿の空気は、いつもより乾いていた。


白い回廊を吹き抜ける風が、石の冷たさを強調する。

足音がやけに響き、神官たちの囁きが壁に貼り付いている。


「……戻ったか」


加護測定局の執務室。

年配の高位神官オルフェンが、机に指を打ち付けた。


扉の前に立つのは、北西境界へ派遣された調査団の責任者――高位神官セルヴァ。


「報告します」


セルヴァは深く一礼し、言葉を選ぶように口を開いた。


「対象区域にて、測定を試みましたが……結果は得られませんでした」


その瞬間、室内の空気が一段重くなる。


「得られない?」


オルフェンが、眉をひそめた。


「水晶はどうした」


「破損はありません。反応もしません」


「……反応しない?」


「はい。沈黙です。

加護値の提示も、拒否も、破壊も起きない」


セルヴァは、淡々と続ける。


「さらに、当該区域には境界のようなものが存在し、

我々は踏み込めませんでした」


「境界?」


若い神官が思わず声を漏らす。


「教会の権威が、拒まれたと言うのか」


セルヴァは答えなかった。

否定できないからだ。


オルフェンは、机の上の記録板を掴み、乱暴にめくった。


「誤差の連続、測定不能、踏み込み不可……

それで、原因は何だ」


「特定できません」


その言葉が、火種になった。


「……特定できない?」


別の高位神官が、低く笑った。


「それで“報告”になると思っているのか」


「調査の意味がない」


「責任者は誰だ」


言葉が飛ぶ。

矢のように。


セルヴァの表情が、わずかに硬くなる。


「原因は、外部にあります。

あの区域は王国地図上でも空白地であり――」


「言い訳はいい」


オルフェンが遮った。


「我々は“神の秩序”を守る者だ」


「秩序に穴が空いているのなら、塞ぐ。

それが仕事だろう」


沈黙。


セルヴァは、視線を落としたまま言った。


「……一つ、気になる点があります」


「何だ」


「水晶が反応しない現象は……

過去にも一度だけ、記録があります」


その言葉に、室内の全員が一瞬固まった。


若い神官が、恐る恐る口を開く。


「……評価外、の記録ですか」


オルフェンの目が鋭く光った。


「その言葉は出すな」


一喝ではない。

静かな命令。


だが、逆らえない圧があった。


「……失礼しました」


若い神官はすぐに頭を下げた。


オルフェンは、ゆっくりと立ち上がり、窓の外を見た。


王都の尖塔。

人々の祈り。

教会の権威。


それらが、たった一つの“反応しない水晶”で揺らぐ。


そんなことを認めるわけにはいかない。


「結論は決まっている」


オルフェンが背を向けたまま言う。


「これは誤差だ」


「誤差、ですか」


セルヴァが問い返す。


「そうだ」


オルフェンは振り返り、淡々と告げた。


「評価外など存在しない」


「水晶が沈黙したのは、環境要因だ。

湿度、地質、魔力密度、理由はいくらでも作れる」


「記録は?」


別の神官が問う。


オルフェンは迷いなく答えた。


「残すな」


その一言で、空気が凍った。


「……残さない、とは」


「“評価外”という語を削れ」


「測定不能、という表現も避けろ」


「“誤差”で統一する」


それは、事実の修正ではない。

現実の上書きだ。


セルヴァが、静かに息を吐いた。


「……それで、根本は解決しません」


「解決する必要はない」


オルフェンは言い切った。


「存在を認めなければ、秩序は守られる」


「秩序は“信じさせる”ものだ」


その言葉に、何人かの神官が目を逸らした。

理解している。

だが、受け入れたくない。


「責任は?」


若い神官が、震える声で聞いた。


オルフェンは、セルヴァを見た。


「調査団が“判断を誤った”ことにする」


セルヴァの喉が、僅かに動いた。


「……私に責任を?」


「当然だ」


オルフェンの声は冷たい。


「誤差を誤差として処理できなかった。

無用な不安を生んだ」


「それが罪だ」


セルヴァは、拳を握りしめた。


だが、反論はしない。


反論すれば、

彼自身が“秩序を乱す者”になる。


ここでは、それが最も重い罪だ。


「……承知しました」


セルヴァは、深く頭を下げた。


オルフェンは、それを見届けると、机の引き出しから一枚の紙を取り出した。


「これで終わりではない」


紙には、短い命令が書かれている。


追加調査。

ただし、測定は行うな。

事実を掘り起こすな。

沈黙させろ。


矛盾だらけの命令。


しかし、

それが教会の選択だった。


その夜。


神殿の奥で、記録係の神官が一人、震える手で文書を書き換えていた。


「測定不能」を「誤差」に。

「評価外」を削除。

「境界」を「地形障害」に。


文字が、整然と並んでいく。


事実が、綺麗に消えていく。


神官はペンを置き、蝋印を押した。


その瞬間、胸の奥に小さな恐怖が生まれる。


――もし、これが誤差ではなかったら?


もし、

本当に“評価外”が存在したら?


その問いは、すぐに押し潰された。


「考えるな」


「信じろ」


教会は、そうやって生き残ってきた。


だが。


書き換えられた文字の向こう側で、

現実は今日も、静かに進んでいる。


測れない場所が、

確かに育っている。


そしてその事実は、

いずれ――


どれだけ削っても、

消せない形で、表に出る。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

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